著者 : 石田善彦
インディアナポリスでソシアル・ワーカーの事務所のチーフとして働くアデル・バフィントンは、目のまわるような毎日を送っていた。おもな仕事である児童虐待問題に心を痛め、別れた夫との間の娘ルーシーの成長を見守り、恋人の私立探偵アルバート・サムスンと過ごす時につかのまの安らぎを見出す。ある日、アデルの事務所に強盗が押し入った。その男は事務所が取り扱ったケースのAからHまでのファイルの中から、どれかをコピーして立ち去った。目的不明の強盗事件のほとぼりも冷めやらぬうちに、新たな問題が事務所に持ち込まれた。若い母親が幼い女の子2人とともに失踪したというのだ。だが、まさかこれらの事件が背筋の寒まなるような驚くべき深淵を徐々に覗かせていこうとは、アデルにも予想できなかった…。圧倒的に人気を誇るハードボイルドの旗手が、サムスンの恋人、新ヒロインのアデルを鮮やかに送り出す最新長篇。
ホイスラーはコーヒー・バー〈ジェントリー〉の窓ぎわにすわり、通りにたむろする娼婦、男娼、ポン引き、アル中たち、そして彼らを目当てに集まってくるさまざまな人間たちの非喜劇を見守っていた。そんなある日、〈ジェントリー〉に現われた謎めいた女からのボディガードの依頼をひき受けたホイスラーは、TV界の錯綜した人間関係と、その裏にひそむ愛憎のドラマへとひきよせられていく…。
絶世の美女ミッシェルが黒こげの全裸死体となって発見された。両手足を針金で縛られ、焼死させられたのだった。その前日彼女は、全身アザだらけの姿でホープの事務所を訪れていた。自分に暴力をふるう夫ジョージを告訴したいというのだが、彼は家を飛び出し行方不明になっていた…。やがて逮捕されたジョージは野獣のごとき大男の黒人だった。醜悪ながら真撃な表情で、涙ながらに無実を訴えるその姿に、ホープは彼の弁護を引き受ける決心をするが…。古典的寓話を大胆な設定で現代に甦らせ、男女のゆがんだ愛情を鋭く描き出すシリーズ第3弾。
オフィスは相変わらず閑散としていたが、私立探偵サムスンの胸は期待に膨らんでいた。テレビで“昔ながらの探偵”として紹介されたのだ、きっと山のような依頼が…依頼は二件あった。そのうちの一件は、インディアナポリスの有名な銀行家ダグラス・ベルターとその妻ポーラからで、つい最近、ポーラの出生証明書が偽造されたものであることが判明したので、その理由を調査してほしいという依頼だった。サムスンは50年前の記録を調べ、ポーラが実は養子だったことを突き止める。ポーラが養子にもらわれた背景には、いったいどんな事情があったのか?やがて、過去の調査を続けるサムスンの前に驚くべき真相が浮かび上がってきた。人びとの記憶の片隅に埋もれていた過去の悲劇を叙情的に甦らせる、知性派ハードボイルドの最高作。
あとで後悔するわよ、といったヴィッキーの声が弁護士ホープの耳を離れなかった。かつての人気ロック歌手だったヴィッキー。その復帰リサイタルの夜、ベッドを共にしたホープを、彼女は異常なほど執拗に引きとめた。浴室でそのむごたらしい撲殺死体が発見されたのは、翌朝だった。しかも一人娘が現場から連れさられていた。警察は被害者と最後に会ったホープへの尋問を皮切りに捜査を開始したが、一方自責の念に駆られたホープも自ら事件の渦中に踏み込っていく。グリム童話を下敷きに、莫大な富を生んだ女をめぐる歪んだ人間関係を描く意欲作。
おれの特殊な能力を見込んだ友人の依頼をうけ、おれはある天文台へ向かった。そこで出会った天文台の関係者らしい美貌の女性の話によれば、最近、世界有数の天体物理学者がこの天文台から姿を消したらしい。しかも、どうやら宇宙科学者の失踪事件はこれにとどまらず、ソ連でも発生している。CIA、KGBなども必死にその足どりを追っているらしいのだ。この世界的な集団失踪事件の背後にはどんな秘密が隠されているのか…。広大な宇宙に源を発するコズミックな異常現象とその謎の解明に挑戦する超能力探偵アシュトン・フォードの新たな活躍。
シカゴの一匹狼、私立探偵ポール・パインは、ある名家の老女主人に呼びつけられた。娘が脅迫されているのでカタをつけてくれというのだ。事情を詳しく説明もせず、高飛車にいう老女に、パインは一度は断わる。だが翌日の夜、前任者の探偵ジェルコの妻から電話がかかってきて…。ハメット=チャンドラーの遺産を継承し、熱狂的なファンをもつエヴァンスが綿密なプロットと味わい深い文体で綴る、正統派ハードボイルドの傑作。ポール・パインの栄光シリーズ完結篇。
愛らしい笑顔でTVドラマ・CFに引張りだこのスター犬ジェリーロール。その飼主アーティは愛犬の稼ぐギャラで、優雅な生活を送っていた。しかし、別れた恋人ビリーが殺されて彼の生活は一変した。死ぬ間際、ビリーがアーティに残したネガフィルムに写されている人物たちは一体、何者なのか。そして、ビリーは誰にどうして殺されたのか。アーティは単身、事件の謎を追い始める。
大リーグを引退したハーヴェイは食いぶちを稼ぐため、私立探偵になった。最初の依頼は学生時代の友人からだった。プロ・バスケットボール界のスター選手が空港で失踪した一件の調査ー日を置かず、今度は別のチームのやはりスター選手が同空港で姿を消した。麻薬がらみとも思えたが、二人の選手は友人でなく、共通項が何もなかった。彼らはどこに消え、背景には何があるのか。敵陣ふかく走りこむハーヴェイに、プロも顔まけのジャンプ・ショットは決められるのか?初打席本塁打を放った大形新人による本格スポーツ・ミステリ、待望の第2作。
映画館から出たとたん銃撃戦にまきこまれ、とっさに麻薬ギャングを射殺してしまった子持ちの中年私立探偵ブレイニーは一躍有名に。しかしこの事件をきっかけに彼の人生は大きく変っていく…。百万ドルの宝石の争奪を発端とするスピード感にあふれるスケールの大きなストーリー、連続殺人とその謎解き、凄惨なアクションシーン、そして哀切でショッキングな人間ドラマへと展開する結末!シリアスな読みごたえと娯楽性をかねそなえたハードボイルド小説の傑作。
雨の真夜中。人通りも途絶えたハリウッドの通りで、交通事故で大破したステーション・ワゴンから若い女の首なし死体が転がり落ちた。しかしL.A.市警は、この事件をもみ消してしまった。その数日前、遠くニュー・オルリンズでは、湖で見つかった生首のニュースが新聞を賑わしていた。たまたま交通事故の現場に居合わせた私立探偵ホイスラーは、この二つの事件に興味を持ち、調べ始めるが。
友人の爬虫類学者ブラックウェルが何者かに殺された時、現場を発見したキルゴアは警察の容疑者リストのトップにのせられた。やむなく自分で調査を始め、ブラックウェルがある峡谷のダム建設反対運動にかかわっていたことを突きとめる。追及を続ける彼の前に現れる、謎めいた美しい女性生物学者、執念深い殺人課刑事、マリワナ栽培を事業にする奇妙な農場主-新種のサンショウウオを軸に、意外な方向へ展開する事件は、雄大なクラマス山脈の奥深くへとキルゴアを導いていく。うっそうと生い茂る森、けわしい頂神秘的な川。ナチュラリストであり、トレッキングのプロであるキルゴアが立ち向う、大自然と人間界の罠!