著者 : 窪美澄
「ぼく」(羽田海)は、血の繋がらない継母の美佐子さんと二人暮らしをしている。ぼくが高校一年の夏に、美佐子さんの仕事の都合で引っ越しをすることになった。前の町で美佐子さんが勤めていた印刷会社が倒産したのだ。幼いころは父さんと母さんがいたけれど、ぼくが六歳のときに母さんは家を出ていき、その後美佐子さんと結婚した父さんもどこかに行ってしまった。勉強も好きじゃないし、運動も得意じゃない。いつか美佐子さんとも離れなくちゃいけない。そんなとき、「ぼく」は、転校先の高校で忍と出会った…。出会ってしまった。
東京の片隅、小さな二階建ての一軒家。庭に季節のハーブが植えられているここは、精神科医の夫・旬とカウンセラーの妻・さおりが営む「椎木メンタルクリニック」。キラキラした同級生に馴染めず学校に行けなくなってしまった女子大生、忘れっぽくて約束や締め切りを守れず苦しむサラリーマン、いつも重たい恋愛しかできない女性会社員、不妊治療を経て授かった娘をかわいいと思えない母親…。夫婦はさまざまな悩みを持つ患者にそっと寄り添い、支えていく。だが、夫婦にもある悲しい過去があって…。
都心の古ぼけた団地で、姉と二人つましく暮らすみかげ。時代の吹きだまりのような場所で、明るい未来が思い描けず「死」に惹かれる彼女の前に団地警備員を名乗る老人が現れ、日常は変わり始めていくー。
私は「男たちの夢」であるよりも、「書く女」になりたかった。自分らしい居場所を見つけるために必要だった、かくも長く激しい旅路。激動の現代史を背景に、満身創痍になりながらも懸命に生き抜いた「書く女」の生涯を描き切る著者最高傑作!
綺麗な着物を着せたる。道楽者の父の言葉に誘われて、十二歳だった私は、気がつけば大阪で舞妓見習いをしていた。それからは苦界を生きて、生きて、生き抜いた。十四の時に切り落として旦那に突きつけた小指は、いつの間にか遠い過去になっていたー。芸妓、社長夫人、映画女優を経て、38歳で出家。明治から昭和を走り抜けた、ある女性の流転の日々。
家庭内暴力をふるい続ける父親を殺そうとした過去を封印し、孤独に生きる文也。ある日、出会った女性・梓からも、自分と同じ匂いを感じたー家族を「暴力」で棄損された二人の、これは「決別」と「再生」の物語。
長男の智晴を産んだ由紀子は、優しい夫と義理の両親に囲まれ幸せな家庭を築くはずだった。しかし、双子の次男・三男が生まれた頃を境に、次第にひずみが生じていく。死別、喧嘩、離婚。壊れかけた家族を救ったのは、幼い頃から母の奮闘を近くで見守ってきた智晴だった。智晴は一家の大黒柱として、母と弟たちを支えながら懸命に生きていく。息苦しいこの時代に、一筋の光をともしてくれる家族の一代記。
赤澤奈美は47歳、美容皮膚科医。カメラマンだった夫とは別れ、シングルマザーとしてひとり息子を育て、老いた母の面倒を見ながら仕事一筋に生きてきた。ふとしたことから、元患者で14歳年下の業平公平と、事故に逢うように恋に落ちてしまう。心を閉ざすように生きてきた奈美の、モノクロームだった世界が、色と音を持ち始めた。もう一度軽やかな私へ。美しい人生讃歌小説。
風俗に通う夫、不実を隠した父、危険な恋愛に耽る娘…夫の心も、娘の顔も、今は見たくない。結婚20年、主婦・絵里子の人生は穏やかに収束するはずだった。次々つきつけられる思いがけない家族の“真実”。大きな虚無を抱えた絵里子に、再び命を吹き込むのは整形した親友、乳癌を患った老婦、美しい風俗嬢…?人生の中盤、妻でも母でもない新たな道が輝き出す傑作長編。
暑い日になぜか起こる奇怪なある出来事、風鈴の音が呼び覚ますもう一人のわたしの記憶、死んだはずの母が見えるわたし、病院から届いた友人のSOS、旧いブザーを押す招かざる客…。それは不思議な夢か、それとも妄想なのか?10人の豪華執筆陣が“怪異”をテーマに描く、短篇アンソロジー。極上の奇譚小説をあなたにー。
家具職人の壱晴は、毎年十二月の数日間、声が出なくなる。原因は過去にあったが、誰にも話さず生きてきた。一方、会社員の桜子は困窮する実家を支え、恋とは縁遠い。二人は知人の結婚式で偶然出会い“一夜”を過ごすが、後日、仕事相手として再会し…。欠けた心を抱えた二人が戸惑い、傷つきながらも歩み寄っていく道のりの痛みと温もり。他者と共に生きることのいとおしさに満ちた傑作長編小説。
夫と二人の快適な生活に満足していた知佳。しかし妹の出産を機に、彼の様子が変わってきて…「1DKとメロンパン」。妊活を始めて4カ月が過ぎた。時間がないとあせる妻に対し、夫の睦生は…「無花果のレジデンス」。独身OLの茂斗子は、単身者しか入居していないはずのマンションで子どもの泣き声を聞いて…「私は子どもが大嫌い」。子どもがいてもいなくても…毎日を懸命に生きるすべての人へ、そっと手を差し伸べてくれる、5つの物語。
官能小説の依頼に難航していた女性ホラー作家は、女性同士のカップルの後をつけ漫画喫茶へ。隣の壁に耳を澄ませ聞こえてきたのは、衣擦れ、溜息、潤みの音で…(「壁の向こうで誰かが」)。医師の寺沢は急患の老女の足に驚く。爪先に向かって細く、指は折り畳まれ、足裏は窪んでいた。纏足だ。それは、性具だったー(「Lotus」)。歪んだ欲望が導く絶頂、また絶頂。五人の作家の官能アンソロジー。
渋谷で出会った謎の女性に勧められ、ミツキは国が設立したお見合いシステム「アカガミ」に志願した。異性と話すことすらままならない彼女にとって、国の教えはすべてが異様なもの。パートナーに選ばれたサツキとの暮らしを通じて、次第に恋愛や性を知り、「新しい家族」を得たのだが…。手厚いサポートに隠された「アカガミ」の真の姿とは?生きることの選択と生命の躍動に触れる衝撃作!
14歳の時に女児を殺害し、身を隠すように暮らす元「少年A」。少年に惹かれ、どこかにいるはずの彼を探す少女。その少女に亡き娘の姿を重ねる被害者の母親。そして環の外から彼らを見つめる作家志望の女性。運命に導かれるように絡み合う4人の人生は思いがけない結末へ。人間の深奥に切り込む著者渾身の物語。
セレブママとしてブログを更新しながら周囲の評価に怯える主婦。仕事で子育てになかなか参加できず、妻や義理の両親から責められる夫。出産を経て変貌した妻にさびしさを覚え、若い女に傾いてしまう男。父の再婚により突然やってきた義母を受け入れきれない女子高生…。思い通りにならない毎日。募る不満。言葉にできない本音。それでも前を向いて懸命に生きようとする人たちの姿を鮮烈に描いた、胸につき刺さる6つの物語。