著者 : 立松和平
源平戦乱の余燼さめやらぬ鎌倉初期、京都の摂関家・藤原基房の娘伊子を母に、村上源氏の流れを汲む名門家の歌人・久我通具を父に生まれた道元は、瞳が二重の「重瞳の子」のため天下人か大聖人になるとの予言を受ける。幼少のうちに母を失い世の無常を身に染みて感じた道元は、真実の道を求めて出家。建仁寺で栄西の弟子・明全に師事したが、正法を求める思い止み難く宋へと向かった。仏教の革命者の全生涯を描いた初の大河小説。第三十五回泉鏡花文学賞・第五回親鸞賞。
宋の天童寺で念願の師・如浄和尚に出会い修行に励んだ道元は、心身脱落の境地を得て嗣書をさずかり印可を受けた。帰朝すると、ひたすら坐禅を行なう只管打坐によって悟りを目指すその教えを慕い、のちに永平寺二世を継ぐ懐奘らが入門してくる。道元は安嘉門院邦子内親王らの援助を得て、京都深草に興聖寺を建立。初めて自らの道場で、多くの弟子や信者を前に説法をするのだった。執筆九年、日本曹洞宗開祖の実像に迫る記念碑的作品。第三十五回泉鏡花文学賞、第五回親鸞賞。
弁道生活は順調に流れ、「正法眼蔵」の執筆も進んだ。が、男女や身分による差別を否定する教えに、比叡山の弾圧は日に日に激しくなる。道元はついに京を去って、越前志比庄に下ることを決意。新たに建てた修行道場を、この国に真の仏法が第一歩を記したことを意味する「永平寺」と名づけた。日本曹洞宗の開祖・道元の人間と思想の全貌に迫り、その生涯を描ききった記念碑的大河小説。永平寺建立・「正法眼蔵」大成にいたる長編小説完結篇。第三十五回泉鏡花文学賞・第五回親鸞賞。
2030年。玉井潔は、60年前の“あの事件”のために死刑判決を受けた後、釈放された過去を持つ。死期を悟った彼は、事件の事実を伝え遺すべく、若いカップル相手に、自分達が夢見た「革命」とその破局の、長い長い物語を語り始めた。人里離れた雪山で、14人の同志はなぜ殺されねばならなかったのか。そして自分達はなぜ殺したのか…世を震撼させた連合赤軍事件の全容に迫る、渾身の長編小説。
動物園の獣たちの気配に眠れずに過ごした試験前夜から入学式のない入学、一緒にデモを組んだ女子学生の湿気、同じ下宿の先輩との決別、そして、「自己」への問い…。新入生として初めて社会とぶつかった時の、ひりつくような感触と揺れ動く心を濃密に描き、約30年前、否応なく巻き込まれていった大学紛争の数カ月と、自らの立脚点を見つめ直した長編小説。
「ああ、青さん。お前に会うために、わたしはここまで生きてきた気がするよ」-。姉の名は小春、妹は夏子、そこは果たして地獄だったか、それとも桃源郷だったのか。美しい姉妹とその兄と文士が綾なす官能世界の極致を描く絶品。
けがれなき悲しい存在ー。飽食の象徴、残パンを食べて育ち、やがて飽食の世界に連れ戻される豚たち。都市の近郊で畜産業を営む祖父とともに豚と暮らしてきたロック青年の六平と、変貌する街を見ながら「景色が壊れていく」と呟く家出少女・うさぎ…。ふたりの無垢な魂の彷徨を描く青春小説。
初体験の感傷的な記憶、書いても書いても売れなかった時代に飲んだ酒の味、殺されるのを覚悟した学生運動の日日…。売れっ子作家としてTVで顔も知られるようになって、問い続ける青春の意味。友情、恋愛、家族のいったい何が変わり、どこへ行こうとしているのか?走り続ける作家のハードボイルド連作。
うんたまぎるー参上。重力のくびきを脱し、夢と現実、善と悪の境を自由にまたぐ沖縄伝承の義賊。ときは幕末、沖にペリーの黒船が寄せ、宣教師ペッテルハイムの聖書と天文学が琉球古来のコスモロジーをゆるがす。世界史の実験場、驚天動地の舞台だ。さあ、活劇が始まるぞ。床屋のテルリン、娼妓のチルー、はては豚からノミの目まで、カメラ・アイを移動する語りのSFX。
弟子の試合を前に、自らも再起に賭けようとする元チャンピオン。減量にトレーニングに、時間を逆流させるかのような熾烈な自分との闘いが始まる。襲い来る幻覚、繰り返される崩壊のイメージ。果たして彼に再起は可能か。-ボクサーの肉体と精神の闘いを見事に内側から描き、文学として結晶させた話題の長篇。
持ち込み原稿はいつもボツだったが、その編集部で知り合ったみつ子に限りなく心魅かれてゆく哲明。充分なナマリと情熱を持って上京した哲明のまわりには、同じような青年達が犇めいていた。平隠な生活なんって真っ平だ。そしてついに哲明とみつ子は掛け落する。蜜月。人生の蜜月…。自伝的青春小説の傑作。