著者 : 管啓次郎
「もうこんな暮らしはごめんだ」とグアドループ島を出、パナマ、サンフランシスコで暮らし金銭を蓄え財をなし、島の黒人中産階級になった曾祖父アルベールの流浪の人生。パリ留学後、ロンドン、ニューヨーク、ジャマイカを彷徨い、はてはフランスの夫の下に帰る母テクラの破綻の人生。アルベールとテクラのふたりの生涯を中心に、曾孫/娘ココが語るルイ家四代の“悪辣な生”は、一家系の物語をこえたカリブ海現代史ともいえる。アナイス・ニン賞受賞作。
9歳の誕生日、母がはりきって作ってくれたレモンケーキをひと口食べた瞬間、ローズは説明のつかない奇妙な味を感じた。不在、飢え、渦、空しさ。それは認めたくない母の感情、母の内側にあるもの。以来、食べるとそれを作った人の感情がたちまちわかる能力を得たローズ。魔法のような、けれど恐ろしくもあるその才能を誰にも言うことなくー中学生の兄ジョゼフとそのただ一人の友人、ジョージを除いてーローズは成長してゆく。母の秘密に気づき、父の無関心さを知り、兄が世界から遠ざかってゆくような危うさを感じながら。やがて兄の失踪をきっかけに、ローズは自分の忌々しい才能の秘密を知ることになる。家族を結びつける、予想外の、世界が揺らいでしまうような秘密を。生のひりつくような痛みと美しさを描く、愛と喪失と希望の物語。
太古の噴火が湖をつくり、流れが生まれ、その先に人が町を作った…。十和田湖・奥入瀬渓流・十和田市に魅了された作家たちによる、地誌とフィクションが融合する新たな試み。複数の時が重なる青森の土地を気鋭の作家たちがめぐる物語をつむぐ。
砂漠に不時着した主人公と、彼方の惑星から来た「ちび王子」の物語。人の心をとらえて離さないこの名作は、子供に向けたお伽のように語られてきた。けれど本来サン=テグジュペリの語り口は淡々と、潔い。原文の心を伝えるべく、新たに訳された王子の言葉は、孤独に育った少年そのもの。ちょっと生意気で、それゆえに際立つ純真さが強く深く胸を打つー。「大切なことって目にはみえない」。感動を、言葉通り、新たにする。
10歳の時に父親が原因不明の病になり、モナは「止めること」を始めた。唯一続けたのは木をノックすること、そして数学。父の病は癒されず、世界は色を失いながら彼女は大人になった。20歳を過ぎたある日、小学校で算数を教えることになったモナ。個性ばらばら、手に負えない子供たちと交わりながら、閉じていた彼女の世界が否応なく開かれてゆくー。現代アメリカ文学の明るい、新たな可能性が垣間見える、著者初の長篇傑作。
人間から逆進化してゆく恋人、戦争で唇を失いキスができない夫、父親が死んだ日に客たちとセックスする図書館員、火の手と氷の手をもつふたりの少女…想像と言葉の魔法を駆使して紡がれる、かつてない物語。不可解なのに現実的、暗く明るく、哀しくて愛おしい。そこから放たれる奇跡的な煌めきに、私たちはいつしか呑み込まれ、圧倒され、胸をつかまれるー。各国で絶賛された傑作短編集、待望の文庫化。
世界中に存在するあらゆる国境のなかで、アメリカ合衆国とメキシコとの境界を画すボーダー地帯ほど「熱い」国境はない。国家を国境線で区切ってゆくような思考法は、もはや現実に起こっている現象を上手につかまえることができなくなった。本書は、世界がそうした新しい移動の論理を含み込んだ社会システムの発見へ向けて脱皮しようとしているときに、その流れの先頭に立って私たちを先導しようとしている。