著者 : 篠田節子
崖っぷちのフリージャーナリスト・寿美佳は、強制労働の噂を聞き、「デッドエンド」と呼ばれる砂漠鉱山に命からがら潜入した。ある人物の救出と取材が目的だったが、そこで出会った労働者3人の意外な背景を知り…。ここは見捨てられた場所、そして、途方もなく自由な土地ー。「他の場所では生きられなくても」、今、自分の身体が、能力が、拡張していく。
退職男たちの宴会と置き去られた遺骨、経営破綻したレストラン店主がはまった「沼」、義母の遺影に写った手の主は?理想の我が家の天井に何が?コロナ禍がはじまり、終息に向かった。これは目眩?日常の隣にある別世界。分別盛りの人々の抱えた困惑と不安をユーモアと活力あふれる文章で描く四つの風景。
大手ゼネコン勤務の加茂川一正は、ダイビングのために訪れたインドネシアの小島で海中に聳え立つ仏塔を発見する。一正はこの遺跡の保護を自らの使命と心に決め、本格的な調査に乗り出すが、次々と障壁が立ち塞がる。地元住民の反発、開発を優先する地主、他宗教からの弾圧…人間の身勝手な欲望が女神の怒りに触れたとき、島に激震が走る。宗教と信仰、開発と伝統。揺れ動く世界最大のイスラム国家・インドネシアを舞台に繰り広げられる傑作冒険小説!
謎の岬、「消えた」人々…。戦時中まで遡る、この国の現実と暗部。真実を知って、あなたはどう「生きますか」?美都子の友人・清花の暮らしぶりに不思議な清貧感が漂うようになり、やがて連絡がつかなくなった。北海道に転居後「岬に行く」と言い残し失踪したらしい。時は流れ約20年後の2029年、ノーベル文学賞を受賞した日本人作家・一ノ瀬が「もう一つの世界に入る」とメッセージを残し授賞式の前日に失踪した。担当編集者の相沢は彼の足取りを追い、北海道のある岬に辿りつく。そこでは特別な薬草が栽培され、ある薬が精製されていた。
実家の米を引き取るため大型台風が迫る中、強面ヤンキーの運転する軽トラで東京を目指す女性。波乱だらけの強行軍(『田舎のポルシェ』)。不本意な形で大企業勤務の肩書を失った二人の男性が意気投合、廃車寸前のボルボで北海道へ旅行することになったがー(『ボルボ』)。「憧れの歌手が歌った会場に立ちたい」。女性の願いを叶えるため、コロナで一変した日本をロケバスが走る(『ロケバスアリア』)。
専業主婦の美佳は、夫の大介がいまだにかつての友人たちと遊んでいることに不満を募らせていた。特にその中にいる吾妻智子の存在は、美佳の心をよけいに不安にさせていた…(「マドンナのテーブル」)。円満離婚が成立し、実家に戻った亜希子。ある日、同居中の母親の様子がおかしいことに気づき、病院へ連れて行くと、医者から告げられたのは母の「認知症」だった…(「夜の森の騎士」)。日常の中にある、男と女の微妙な関係性を描いた5編。
新聞社の永岡は、妻の櫛がヒマラヤの国パスキムの破壊された仏像の一部と気づく。5年前入国した首都カターで見た美麗な仏像彫刻だった。美術品持ち出し禁止の国で政変のため寺院が崩壊したと聞いて、密入国を試みる。僧侶達は虐殺され都市は壊滅していた。彼も革命軍に捕らえられ…。旧習を打破し、完全平等の理想郷を求める人間達のもたらす惨劇。恐怖と戦慄の世界を臨場感豊かに描く畢生の大作。
人が生きてきた時間を封じ込めるーそれが、肖像彫刻。芸術の道を諦め、八ヶ岳山麓で銅像職人として再出発した正道。しかし彼の作品には、文字通り魂が宿ってしまうのだった。亡き両親、高名な学者、最愛の恋人…周囲の思惑そっちのけで、銅像たちが語り始めたホンネとは。欲望に忠実な人々の姿になぜか勇気がわいてくる、人生100年時代の極上人生ドラマ!
四国遍路を終えた帰路、冬の海に消えた父。高度成長期の企業戦士として、専業主婦の妻に守られた家庭人として、幸せなはずの人生だった。死の間際に想ったのは愛した女なのか、それともー四国で父の足跡を辿った次女の碧は、ある事実を知る。家族、男女関係の先に横たわる人間存在の危うさを炙り出した傑作長編。
家庭で居場所を失ったキャリアウーマンが年下の男と出会って…。意外な成り行きに大人の孤独がにじむ表題作の他、未体験の快感と美容効果を保証する、謎の無脊椎動物が巻き起こす騒動を描く「ヒーラー」、借金まみれのカメラマンが山奥で雌犬の“ヒモ”となる「クラウディア」など。濃厚な物語世界に、動物たちの凛々しさや人間の愚かさを凝縮した絶品の五篇。
薬物依存症患者やDV被害者の女性たちが暮らすシェルターで発生した火災。「先生」こと小野尚子が入居者を救い、死亡。盛大な「お別れの会」が催された後、警察から衝撃の事実が告げられる。「小野尚子」として死んだ遺体は、別人のものだった。ライターの山崎知佳は、過去を調べるうちに、かつて「女」を追っていた記者にたどり着く。一方、指導者を失ったシェルター内では、じわじわと不協和音が…。傑作長編サスペンス。
社運を賭け、巨大ビジネスとなる高純度人工水晶開発に取り組む藤岡は、インドのある町から産出された高品質の種水晶を求め現地に向かう。宿泊所で娼婦として遣わされた少女ロサ。彼女は類稀なる知力を持つ不思議な存在で、更に以前地方の村で目撃した「生き神」だった。鉱山からの帰途に遭難した藤岡はロサの能力に助けられるが…。古き因習と最先端ビジネスの狭間で蠢く巨大国家の闇に切り込む、超弩級のビジネスエンタメ。第10回中央公論文芸賞受賞作。
藤岡は開発用水晶をインドの村から入手する手筈を整えたが、納品物の質は落ち、すり替えも発生。村を問いただすも、採掘に関わる人々に死や病など災いが生じていると突き返され、日本流の交渉が全く通じず難儀する。成人したロサと再会するが彼女の負の予言通り事態は悪化。ロサは以前雇い主に、「邪な種」と称されていた。そして州の役人により採掘が禁止、窮地に陥った藤岡は…。圧倒的筆力で描く、社会派エンタメ超大作!
あなたは、そこまでして私の人生を邪魔したかったのー。認知症の母を介護するために恋人と別れ、仕事のキャリアも諦めた直美。孤独死した父への悔恨に苛まれる頼子。糖尿病の母に腎臓を提供すべきか苦悩する慧子。老親の呪縛から逃れるすべもなく、周囲からも当てにされ、一人重い現実と格闘する我慢強い長女たち。その言葉にならない胸中と微かな希望を描き、圧倒的な共感を呼んだ傑作。
証券会社のNY本部で多忙をきわめていた高澤は、妻との関係が壊れ離婚。会社も破綻する。再就職先で直面した、華やかなキャリアなど通用しない中堅損保の厳しい現実。再び転職した地方の無名大学で、都落ちの寂寥感に沈む高澤の前に現れたのは、学部長秘書の清楚な女性だった…。低迷する日本経済を背景に、もがきながら生きるビジネスマンの仕事と家族を鮮烈に描き、万感胸に迫る傑作。
真夜中のサラダ工場、最先端のハイテク農場、地産地消を目指す学校給食…「安全安心」を謳う「食」の現場でいま何が起きているのか。利益追求と科学技術への過信の果てに現れる闇を、徹底した取材と一流のサスペンスで描くエンターテインメント超大作。
太平洋に浮かぶ美しい島ミクロ・タタに、泉の守り神である愛くるしい両生類が棲んでいる。ジョージはその生物に魅入られるが、隣りの島に移したところ、夥しい数の死体となってしまった。同じ頃、父や同僚たちが真っ黒で俊敏なトカゲのようなものに襲われ、ショック状態に。口中に細菌を持っているのだ。広がり続ける被害。しかしこれは始まりに過ぎなかった…。美しい島を襲うバイオハザード。名手が描く生物パニックミステリー!
クラシックのコンサート中、ついまどろんでしまった貴之の前に、妖艶な姿を現したコンサートミストレス。貴之を虜にした、その正体とはいったい何者か…(表題作「ミストレス」)。ミステリーあり、ホラーあり、社会派作品あり、官能あり…。甘く官能的でいながらも、全編を通して人の生について深く抉った珠玉の短編五編を収録した贅沢な一冊。