著者 : 船戸与一
トシオ・マナハン、13歳。フィリピン、セブ島のガルソボンガ地区に祖父と住み、闘鶏用の軍鶏を育てる日々だった。奥地の「虹の谷」には元新人民軍のゲリラ、ホセ・マンガハスがひとり住みついて闘い続けている。そこへ行く道はトシオしか知らない。日本から戻ってきたクイーンを谷に案内したことから、トシオはゲリラたちの内紛に巻きこまれていく。直木賞受賞の壮大な少年の成長物語。
トシオ・マナハン、14歳。セブ島で祖父とふたりで闘鶏用の軍鶏を育てている。ゲリラのホセ・マンガハスが住む「虹の谷」への道を知っていたことから暗殺、誘拐の硝煙の宴に巻きこまれていく。少年の夢。怒りと誇り。愛する者との別れ。慟哭の叫びを胸奥に沈め、少年は男へと脱皮して行く。第三世界の片隅から世界を睥睨する冒険小説、感動の巨編。直木賞受賞作。
人骨の柄に狼を刻んだナイフが左胸を貫き、真紅の薔薇の花びらがちりばめられた屍体ー。横浜で起きたロシア女殺しの手口と、広東省・梅県の事件は酷似していた。育ての親・張龍全の命を請けた海津明彦は、背後を探るべく、梅県へと飛ぶ。黒社会の覇権を争う秘密結社・哥老会と三合会の抗争、香港駐屯権をめぐる公安の暗躍。そして…。中国を揺さぶる闇を圧倒的スケールで抉る。
横浜と梅県の殺人事件には、中国の裏社会で対立している秘密結社同士の抗争、ウイグル民族独立をめぐる内紛、公安当局の暗躍とが複雑に絡み合っていた。それぞれの思惑に挟撃される男たちが、タクラマカン沙漠の沙塵の彼方に見たものはー中国の闇の世界を抉り出す長編大作。
民族の悲願、独立国家の樹立を求めて暗躍する中東の少数民族クルド。かつて共和国が成立した聖地マハバードに集結して武装蜂起を企む彼らだったが、直面する問題は武器の決定的な欠乏だった。クルドがその命運を託したのは謎の日本人“ハジ”。武器の密輪を生業とする男だ。“ハジ”は2万梃のカラシニコフAKMをホメイニ体制下のイランに無事運び込むことができるのか。山本周五郎賞受賞作。
機は熟した。運命の糸に操られるかのようにマハバードには様々な人間が集まっていた。革命防衛隊副部長のガマル・ウラディ、隊員のサミル・セイフ、クルド・ゲリラのハッサン・ヘルムート、過去を抱えた女シーリーン、そして二人の“ハジ”も。それぞれの思惑が絡み合い、マハバードは今、燃え上がるー冒険小説の第一人者が渾身の力を込めて描く壮大なる叙事詩。山本周五郎賞受賞作。
伝説も生まれぬベネズエラの涸れた油田地帯に、ある日突然世界経済を根底から覆すような希土類とよばれる超伝導の素材が発見された。オーナーのベルトロメオ・エリゾンドは没落寸前に舞い込んだこの幸運に有頂天となったが、憎み合う息子たちと愛人ベロニカは資産を廻って血みどろの争いを繰り広げた。
国境に近い涸れた油田地帯には、多数のコロンビア難民が住みつき、マグダレナのマリアという聖女が人々の団結の象徴となっていた。中に鍛治と丹波という屈強な日本人が、土地のオーナー・エリゾンド家の追い出し攻勢に備えた。巨億の希土類のため、欲望の権化と化した男たちの血の殺戮劇が今始まった。
熱砂の西サハラ、苛烈な日差しの下に飛び交う銃弾と砲弾、謀略、殺戮、戦闘、裏切り、サバイバル…。この物語では、そうしたものが、激しくぶつかり合い、混じりあい、あるいは反発し、互いを退け合い、溶けては分離し、まったく気をゆるめる間もなく空へ噴きあがる。
惨殺された愛するシャヒーナの、血に染まった心臓を掌に載せて、香坂正次はある決意を胸に刻みつけた。やがて荒々しい意志が日本を覆いはじめる。密輸船の乗組員が謎の失跡をし、闇の利権フィクサーが失脚、そして高級官僚が次々に死んでゆく…国家権力を主賓に招いた、正次の復讐の宴が始まったのだ。
あの「灰色熊」のような男になりたい。香坂正次は胸に野心を秘め、海外進出日本企業の非合法面の守護神とあがめられるその男に近づいていった。どんな手段を使っても、奴のもとで仕事をし、認められるのだーそして、彼の前には血と暴力の支配するアフリカの大地が開けた。人の世の地獄、野望と絶望を高らかに謳いあげた船戸与一大ロマンの華麗なる船出。
正次が「灰色熊」に与えられた仕事は、西サハラの砂漠の中にある小さな鉱山を敵の攻撃から守ることだった。正次は火のように燃えた。男になるんだ!重機関銃カリバー50が咆え、戦闘車が炎をあげて横転するーそして夜、戦いを終えた正次の頭上には、銀の砂をぶちまけたように無数の星が静寂の中に散らばる。
リオのカルナヴァル(謝肉祭)の最後の夜、暗殺者であるおれは、組織の裏切者・金承春を狙ってビルの高層階に待機した。金はリオの非合法地域に潜伏中だったが、カルナヴァルの日にはどの住民も例外なしにサンバの踊り手として山車の上に乗らなければならない。おれは今、狙撃の瞬間を静かに待っている。
かつて文化人類学の学究だった志度正平は、あるできごとをきっかけに民間の破壊工作員となった。ニューヨークで白人の娼婦ロッサナと自堕落な同棲生活を送っていた志度のもとに新しい依頼があった。アメリカ巨大鉱業会社から、ペルーの山岳ゲリラの首領抹殺の仕事がきたのだ。志度は首都リマに向かった。