著者 : 藤堂志津子
65歳の玉子は、亡き息子の嫁、里子と孫の春子との三人暮らし。お互いをいたわりあっての平穏な日々。そこに嫁にいった38歳の娘、葉絵がしょっちゅう帰ってきては、子供のころに心理的虐待を受けた、と身に覚えのない難癖をつけてからむ。実の娘よりも他人である嫁のほうがわかりあえるのか、いや、いざとなればやはり実の娘がたよりになるのか、玉子の心は複雑に揺れ動く。傑作連作短篇集。
29歳で急死した多絵子。男たちが嫉妬するほど優秀な営業ウーマンだったが、私生活は謎に包まれていた。ある年下の男は、彼女との奔放なセックスに溺れて別の世界に足を踏み入れる。またある男は自分のアブノーマルな性癖に気づかされ困惑する。一方で、その優しさや寂しげな姿に心奪われる男たちもいた。いくつもの顔を持つ女。彼女の目的は何だったのか。彼女の真実の姿とは。傑作長編。
食道がんの手術のために入院した51歳の多花子。それは、半身不随の母をひとりで介護する暮らしの中で得たつかのまの休息だったが、隣の病室に昔の男がいることに気づいて…いくつもの人間模様を見届け、後半生をあるがままに受けとめ生きる女性の覚悟としなやかさ。不思議な迫力に満ちた傑作短編集。
インテリアデザイナーの沙良、36歳は、母の駒子61歳とふたり暮らし。「あなたが心配だから」という名目のもと、チャンスさえあれば、娘を支配したくてたまらない母。善意がベースとわかってはいるものの、母の言葉に、嫉妬心やライバル心を感じることがある。家賃はなし、家事もすべてお任せという夢のような環境と干渉を天秤にかける娘。結婚のこと、老後のこと、娘と母の思惑は錯綜する。
定年退職後のプラン作成には、ほぼ十年をかけた。全く新しい人生を始めるため、誰にも相談はしなかった。それまでに片をつけたい事が二つだけ残っている。あと六日ー地味な人生を送ってきた独身女性の意外な決断を描く表題作ほか、「目が乾くほど現実を見つめたい」オーバー40女性たちの心情が鮮やかな傑作短篇、全五篇。
『桜ハウス』と名づけた家でハウスシェアをしていた女たち。蝶子36歳・遠望子31歳・綾音26歳・真咲21歳。あれから十数年の月日が経ち…。今明かされる真咲の離婚の真相。婚約破棄を繰り返していた綾音が、選んだ男。遠望子のもとを訪れた女の目的は?そして、蝶子に新しい男が!?一生懸命に生きるからこそ、どこかコミカルになってしまう30〜40代の女たち4人を小気味よく描く傑作連作集。
四十代の未亡人・幸江は、若い夫婦と養子縁組を結ぶ(「かげろう」)。放浪の末、港町で料理屋を営む滝子の日常(「あらくれ」)。駆け落ちした四十五歳の二人をよく知る可矢子は…(「みちゆき」)。人生後半、現実をありのままに捉えることを覚えた女たちの胸に去来する想いとは。恋、絶望、爽快。小説の醍醐味を味わえる極上の三篇。
裕福な家庭に育ち、育児も家事もすべて人に任せ、何不自由のない生活を送る貴代子。夫、異母弟、お手伝いさん、友人、誰もが彼女を愛し、庇護したがる。鷹揚で幸せな奥様という、周りが望む貴代子像を無意識のうちに演じていたが、やがて意思を持たない自分に疑問を持ちはじめる。愛すること、愛されることの共依存のバランスが崩れはじめたとき、人は…。サスペンスタッチの傑作長編。
夫が単身赴任中の専業主婦。ブサイクな出張ホストと密会を繰り返す彼女の本当の望みとは…(『六日間』)。会社社長と長年、愛人関係を続けている育美。社長の妻を見舞う毎日で見つけたのは…(『愛のくらし』)。48歳の画家・鮎子。今は年下の彼とは別の男との情事に夢中。ただ、すぐ飽きてしまうのが常だった…(『猫をつれて』)。犬の散歩で偶然出会った若い男。怪我をした由未子の生活に入り込むが…(『バッドボーイ』)。定年退職間近の布沙子。愛人関係に区切りをつけ、苦手な後輩とも対決。そして、もう一つ「完璧な退職」のために計画してきたことが…(『パーフェクト・リタイヤ』)。オーバー40の女性たちの心情を鮮やかに描いた傑作短篇集。
伯母から古い一軒家を相続し、大家として3人の女性とハウスシェアを始めた蝶子。あれから10年が過ぎ、蝶子46歳、遠望子41歳、綾音36歳、真咲31歳となり、7年ぶりに当初のメンバー4人全員が顔をそろえることとなった。年齢も仕事も性格も、そして男性の好みもまったく違う女たち。それぞれの人生を懸命に生き、ホンネを言い合いながら、家族やパートナーとは違う、居心地のよい不思議な絆で結ばれていく。
母の看病のため、故郷の札幌に戻った美波。そこで高校時代の同期生と再び交流を持ち始める。離婚、リストラ、失踪、発病…。45歳になったいま、それぞれの人生がすべてバラ色というわけにはいかない。でも優しく見守りあい、懸命に生きる友人たち。美波には東京に仕事があった。そして、不倫関係の恋人がいた。すべてを清算したつもりだが、元恋人が病に倒れたのを聞き、心が揺れ動く。
美衣子は、理髪店を一人で切り盛りしてきたしっかり者の母親と、はずみで家に入れてしまった内縁の夫、青野と三人で暮らしている。ある日、青野の甲斐性のなさに愛想をつかして別れ話を切り出すが、男はなかなか出て行こうとしない…。男運にめぐまれない女たちの、ひそやかな心の動きを、乾いた筆致で描く長篇小説。
男はもうこりごりと思った私は、ついに念願の猫を飼うことにした。が、二匹のうちの一匹がどうしてもなつかない。表題作「秋の猫」。夫婦で犬を飼い始めたとたん、仕事は順調、夫は女をつくった。いざ離婚というときに、夫も私も犬の親権を主張して譲らない。「幸運の犬」ほか、犬や猫との交流をとおして、心を癒され、孤独の寂しさを埋めてゆく男女を描く、心温まる短編集。
愛した人は、邪魔な人。大好きだった。けれど今は、別れたいだけ。自分がどれだけ心を傾けられる相手を必要としているか、その淋しさは痛いほど分かっているけれど…。優しさと凄味をあわせ持つ、驚愕の長編小説。
長身でハンサム、洗練された会話で女性を魅了し続ける相原信広。資産家の娘との恵まれた結婚生活を捨て、忽然と姿を消したのは何故なのか。スナックのママ、かつての見合い相手、大学の同級生…12人の女が語る、矛盾に満ちた信広の姿。真実の彼はどこにいるのか。人の心の無限の闇を見つめる長篇小説。
美人じゃないし、スタイルも並。だけど、正直で行動力のある自分を愛するOL・可奈子。内気な後輩をセクハラから守り、不倫から親友を救い出す正しく爽快な日々の中、初めて求婚してくれた男は親友の“おさがり男”。女のプライドか、幸せな結婚生活か。揺れ動く主人公の姿をユーモアたっぷりに描く痛快小説。
その色は、すべてを覆い尽くしてくれる。心の奥に秘めたせつなさもすべて…。33歳の独身OL・喜久子が持った家は、札幌の澄んだ空に映える白い屋根の一軒家。ひとりで暮らす彼女をめぐり、三編の愛のドラマが展開する。恋愛の歩幅を手探りするうちに現れる、彼女の本当の想い…。珠玉の連作恋愛小説。