著者 : 諸田玲子
八代将軍・吉宗の時代、質素倹約を強いる幕府に対抗して、尾張名古屋は遊興を奨励し、空前の繁栄を見せていた。異人との出会いから、夫をすて福岡を出たこなぎと、女敵討ちのために江戸を離れた鉄太郎。長い旅路の末に名古屋の地でめぐり逢った二人は、それぞれの秘密を胸に秘めたまま接近する。巨大な政争の具となっていることも知らずにー。著者渾身の傑作歴史時代小説。
不義の恋の果てにこの世に生まれた美しい娘・おさい。江戸を襲った大火によって彼女の数奇な運命は回り始める。遊女、女スリ、大盗賊の娘、そして若き天才戯作者ー出会った人の心を少しずつ揺らし、救いながら、おさいは誰かをずっと待っている。果たして誰が、いつ?謎と人情が心に染みる七つの物語。
侠客・清水次郎長一家に2人の「松吉」がいた。一の子分、「森の石松」こと三州の松吉は美男で博打も喧嘩も強い兄貴分、いっぽう並外れた巨体で「豚松」と呼ばれた三保の松吉は女も博打も苦手な愛嬌者。好対照ながら同じように親と別れ、一家に身を寄せた2人は互いに認め合う。幕末の苛酷な運命が、2人と一家を待ち受けていたー。初夏、青葉のころに吹く「青嵐」のように、東海道を駆け抜けた最後の侠客を描く、傑作時代長編。
時は平安。都では、東宮と契った女は物怪にとりつかれるという噂が流れていた。東三条家、温子姫の女房・弥生は、母・近江の死に関する妙な噂を耳にする。真相を探るため、旧知の人々を訪ねる弥生。母の遺した和歌が二つの噂に関係しているらしいと突き止めるが、周囲で次々と怪死事件が発生し…。愛憎と欲望渦巻く宮中を舞台に描く、時代ミステリー。
井伊直弼の密偵として、その美貌と才気で幕末の嵐を駆け抜けた女・村山たかの、一途な恋と数奇な一生を描いた長篇小説。彦根・多賀大社で忍びとして生まれ育ったたかは、内情を探るために近づいた井伊家の直弼と恋仲になる。しかしその後、苛酷な運命が二人を襲う…。第26回新田次郎文学賞受賞作。
黒船来航、台場建造で騒然とする江戸品川。川越藩樋口家の主・杢右衛門と妻・沙代は、台場守備の陣屋築造のため、下屋敷に移り住むことになった。砂塵が舞う仮住まいの暮らしに、みおという砂まみれの女が下女としてやってくる。そして夫の朋友彦三郎も同居することに…。夫と妻と女と男、妖しく揺らぐ恋情を、新たな時代の息吹のなかに濃やかに描き出す長編小説。
小藩の江戸留守居役・倉田家に、一人の女が姿を現した。夫・勇之助の、腹違いの妹だと聞かされた幸江は戸惑いながらも迎え入れるが、どこか様子がおかしい。兄妹の間に何か秘密があるのではないか?女の正体は…。疑惑にさいなまれる若妻を描く「江戸褄の女」をはじめ、「猫」、「佃心中」、「駆け落ち」、「虹」、「眩惑」など、夫婦や男と女のそれぞれの“かたち”を綴る珠玉の全6篇。人気作家の原点を示す、オリジナル傑作時代小説集。
徳川の中期、将軍綱吉の時代。零落した公家の娘染子は侍女として大奥に出仕する。綱吉に見初められてその寵愛を受けるが、大奥に囚われるのを拒んだ染子は、重臣柳沢吉保の側室となり、綱吉の子を生す。二人の男との三つ巴の関係のなかで激しい恋情に身を焦がす染子。絢爛な元禄の歴史を背景に、権謀術数の渦中でも、志に燃え恋に心解き放つ女と男の、強靱な恋愛を描く長編小説。
夫を捨てた女は博多から、妻に逃げられた男は江戸から。女は家を飛び出した。男は女敵討ちの旅に出た。質素倹約を強いる将軍吉宗に対抗し、遊興が奨励され、空前の繁栄を謳歌する尾張名古屋へ。男も女も、夢に酔い痴れる。罠が待っているとも知らずに。歴史小説でしか味わえない、壮大な女と男の人間ドラマ。ロマンあふれる時代小説。
粋で婀娜な、天女湯の女あるじ・おれん23歳。お江戸八丁堀の真ん中にあるこの湯屋には仕掛けがあった。男湯に隠し階段、女湯には隠し戸、どちらも隠し部屋につながっている。おれんは番台に座って男女の仲を取り持つという案配。辻斬り、窃盗、心中、お家騒動。次々と起こる騒動の中、おれんの恋は実るか。
松の廊下の刃傷で内匠頭は切腹、浅野家はお取り潰し。後室瑶泉院は、夫の墓参に泉岳寺を訪れる。そこに、なぜか吉良上野介の妻・富子の姿が。吉良への憎悪をたぎらせる瑶泉院と、静かな晩年を過ごす富子に降ってわいた夫の危機…。妻心を切なく描く表題作他、小伝馬町牢屋敷を預かる囚獄の家に生まれた青年が出逢った女との「悲恋」など全4篇を収録。実在の人物をテーマにした傑作時代小説集。
色男・瓢六が、北町奉行所の同心・篠崎弥左衛門とともに、江戸の町の難事件を鮮やかに解決する捕物帖シリーズ第二弾。晴れて無罪放免となった瓢六だが、お袖と熱々の平和な日々も長くは続かない。わけありの母子を匿ったり、瓦版を作ったり、そして今度はお袖が牢に入れられる…!?痛快無比の時代小説。
娘ざかりのおいとは、江戸入船町の裏店で古着屋をいとなむ父と二人暮らし。隣に住む幼なじみの龍次を恋慕っていたが、上方へ年季奉公に行ってしまった。それから三年、待ちこがれた龍次が、突然帰ってきた。だが、女が一緒で…。町娘の熱い想いを綴る表題作ほか、武家の若妻が官能の目覚めに懊悩する「路地の奥」など全四篇を収録。男を惑わす江戸の女たちを鮮やかに描く傑作時代小説集。
才能に溺れて落ちていく男に、女は一途な想いを寄せ、慕い続ける…稀代の才人・平賀源内と野乃との人知れぬ恋。本草学者、戯作者で発明家としても一世を風靡しながら、取るに足らぬ男を殺めて入牢した源内は、獄中で回想と妄想に身悶えしながら、野乃との狂おしい交情を憑かれたように綴るーしくじり続きの男をひたすらに愛した女の情愛を描き尽くす時代長篇。
第五代将軍・徳川綱吉が貞享二年(1685)に発した「生類憐れみの令」から十年。巷に犬があふれ、ついに幕府は野良犬を収容する「御囲」を作った。赤穂浪士が討入りを果たした朝、中野村の「御囲」で犬の世話をする娘・犬吉は一人の侍と出合う。討入りの興奮冷めやらぬ狂気の一夜の事件と恋を描く長編。
安政七年三月三日、井伊家の密偵・可寿江は水戸浪士の不穏な動きを察知し、主君でかつて恋人でもあった直弼に通報しようとするが。「桜田門外の変」「箕輪心中」などの事件を題材に、江戸市中で懸命に生きる人々の、運命を変えた一日を描いた時代小説短編集。全四編を収録。第二十四回吉川英治文学新人賞受賞作。
検非違使庁の髭麻呂こと藤原資麻呂は、血を見ただけで卒倒する軟弱な優男。今宵も国司の娘が殺されたと聞き、いやいやながら従者の雀丸と六条へ。現場からは、高価な宝玉が盗まれていた。折しも、飢饉と天変地異が続き、治安は乱れ“蹴速丸”という盗賊が、都を騒がせていたのだが…。衛士の娘・梓女との恋模様を絡めつつユーモラスに描く連作平安期ミステリー。