著者 : 諸田玲子
才能に溺れて落ちていく男に、女は一途な想いを寄せ、慕い続ける…稀代の才人・平賀源内と野乃との人知れぬ恋。本草学者、戯作者で発明家としても一世を風靡しながら、取るに足らぬ男を殺めて入牢した源内は、獄中で回想と妄想に身悶えしながら、野乃との狂おしい交情を憑かれたように綴るーしくじり続きの男をひたすらに愛した女の情愛を描き尽くす時代長篇。
第五代将軍・徳川綱吉が貞享二年(1685)に発した「生類憐れみの令」から十年。巷に犬があふれ、ついに幕府は野良犬を収容する「御囲」を作った。赤穂浪士が討入りを果たした朝、中野村の「御囲」で犬の世話をする娘・犬吉は一人の侍と出合う。討入りの興奮冷めやらぬ狂気の一夜の事件と恋を描く長編。
安政七年三月三日、井伊家の密偵・可寿江は水戸浪士の不穏な動きを察知し、主君でかつて恋人でもあった直弼に通報しようとするが。「桜田門外の変」「箕輪心中」などの事件を題材に、江戸市中で懸命に生きる人々の、運命を変えた一日を描いた時代小説短編集。全四編を収録。第二十四回吉川英治文学新人賞受賞作。
検非違使庁の髭麻呂こと藤原資麻呂は、血を見ただけで卒倒する軟弱な優男。今宵も国司の娘が殺されたと聞き、いやいやながら従者の雀丸と六条へ。現場からは、高価な宝玉が盗まれていた。折しも、飢饉と天変地異が続き、治安は乱れ“蹴速丸”という盗賊が、都を騒がせていたのだが…。衛士の娘・梓女との恋模様を絡めつつユーモラスに描く連作平安期ミステリー。
絶世の色男、粋で頭も切れる目利きの瓢六が、つまらぬことで小伝馬町の牢屋敷に放り込まれた。ところが丁度同じ頃起きた難事件解決に瓢六の知恵を借りるため、与力・菅野一之助は日限を切っての解き放ちを決める。不承不承お目付役を務める堅物の定廻り同心・篠崎弥左衛門との二人組による痛快捕物帖。
夫の様子がなんだかおかしい。不審に思い始める妻に、従者の若者が、主の変化を問いかける。奇妙な振るまいの裏には何があるのか。この家にはなにか秘密があるらしい…。絶えず誰かに監視されているような婚家での生活に耐えつつ夫の謎を探るうちに、若い妻は思いもかけず本物の恋を知るーサスペンスフルな展開と、凛とした女の恋心に心揺さぶられる、新感覚の時代ミステリー。
「武蔵野に名も蔓こりし鬼薊今日の暑さに乃て萎るる」。強盗、追いはぎ何でもござれ。白昼堂々、金品を強奪する荒稼ぎで八百八町を騒がせる凶賊、鬼坊主一味。だが、頭の清吉と情婦のおもんを始め、はみ出し者の若者たちは強い絆で結ばれていた。悪に魅入られし者の破滅的な生き様を描く大江戸ノワール。
密命を帯び、主どのが消息を絶って一年余り。御鷹場を巡邏し、かげで諸藩を探る幕府隠密お鳥見役。留守を預かる女房珠世に心休まる日はない。身近で暮らす子供たちのひと知れぬ悩み、隠居となった父の寂寥、わけあって組屋敷に転がり込んだ男女と幼な子の行く末。だから、せめて今日一日を明るく、かかわりあった人の心を温めたい-。人が人と暮らす哀歓を四季の移ろいのなかに描く連作短篇集。
野盗、誘拐、人殺しが跋扈する平安時代の京の都。髭麻呂こと藤原資麻呂は、京の治安を取り締る検非違使の看督長。検非違使にはあるまじく臆病者で血を見るのも苦手な優男なのだが、貴族の側妻の凄惨な殺人現場に行かされ、さらに都を騒がす怪盗の追補を命じられ、窮地に!そしてさらに難事件、怪事件が続発し…。痛快!平安期ミステリー検非違使事件帳。
筆を執ると、あの女が立ち現れ、語り始める。本草学者、戯作者、発明家として一世を風靡しながら、取るに足らぬ男を斬った平賀源内。いま胸に去来するのは、ありあまる才覚や機会をことごとく食いつぶした悔恨とあの女と睦み合った日々、そして木枯らしの凍てつくあの一夜のことだった…。男と女のエゴと情愛を描き尽くした傑作長篇。