著者 : 諸田玲子
絶世の色男、粋で頭も切れる目利きの瓢六が、つまらぬことで小伝馬町の牢屋敷に放り込まれた。ところが丁度同じ頃起きた難事件解決に瓢六の知恵を借りるため、与力・菅野一之助は日限を切っての解き放ちを決める。不承不承お目付役を務める堅物の定廻り同心・篠崎弥左衛門との二人組による痛快捕物帖。
夫の様子がなんだかおかしい。不審に思い始める妻に、従者の若者が、主の変化を問いかける。奇妙な振るまいの裏には何があるのか。この家にはなにか秘密があるらしい…。絶えず誰かに監視されているような婚家での生活に耐えつつ夫の謎を探るうちに、若い妻は思いもかけず本物の恋を知るーサスペンスフルな展開と、凛とした女の恋心に心揺さぶられる、新感覚の時代ミステリー。
「武蔵野に名も蔓こりし鬼薊今日の暑さに乃て萎るる」。強盗、追いはぎ何でもござれ。白昼堂々、金品を強奪する荒稼ぎで八百八町を騒がせる凶賊、鬼坊主一味。だが、頭の清吉と情婦のおもんを始め、はみ出し者の若者たちは強い絆で結ばれていた。悪に魅入られし者の破滅的な生き様を描く大江戸ノワール。
密命を帯び、主どのが消息を絶って一年余り。御鷹場を巡邏し、かげで諸藩を探る幕府隠密お鳥見役。留守を預かる女房珠世に心休まる日はない。身近で暮らす子供たちのひと知れぬ悩み、隠居となった父の寂寥、わけあって組屋敷に転がり込んだ男女と幼な子の行く末。だから、せめて今日一日を明るく、かかわりあった人の心を温めたい-。人が人と暮らす哀歓を四季の移ろいのなかに描く連作短篇集。
野盗、誘拐、人殺しが跋扈する平安時代の京の都。髭麻呂こと藤原資麻呂は、京の治安を取り締る検非違使の看督長。検非違使にはあるまじく臆病者で血を見るのも苦手な優男なのだが、貴族の側妻の凄惨な殺人現場に行かされ、さらに都を騒がす怪盗の追補を命じられ、窮地に!そしてさらに難事件、怪事件が続発し…。痛快!平安期ミステリー検非違使事件帳。
筆を執ると、あの女が立ち現れ、語り始める。本草学者、戯作者、発明家として一世を風靡しながら、取るに足らぬ男を斬った平賀源内。いま胸に去来するのは、ありあまる才覚や機会をことごとく食いつぶした悔恨とあの女と睦み合った日々、そして木枯らしの凍てつくあの一夜のことだった…。男と女のエゴと情愛を描き尽くした傑作長篇。
大学出のブルジョワ令嬢が、しっかり者の母親のいる田舎の家へ嫁いだらどうなるか-これが謎を解くきっかけになりました。嫁姑、夫婦、親子の、本書は関ヶ原の戦より壮絶な家庭内バトルです。「悪女だと誰が決めたのですか」家康正妻築山殿。書き下ろし作品。集英社時代小説。
落人となった一行。山中の逃避行で生き残った足軽・三郎太と主君の娘・小夜姫。熱夏の下、激しく求め合う二人。しかし、姫は捕らわれ、高木勝政の側室に。三郎太は工藤泰兼と名乗り、二十五年を経て戦国の覇者となり、高木を攻め落とした。小夜姫を求める泰兼に対し、彼女は「わらわが欲しくば盲いて見せよ」と冷然と言い放った…(表題作)。他二篇所収の、麗質の時代作家・諸田玲子傑作集。
すわ、幽霊舟か-暇をもてあます舟番所の惰眠を破った不可解な一艘。夜間航行の禁を犯した主は意外にも妙齢の町娘だった。心に病を宿したその儚げな佇いに、舟番所を預かる初老の旗本の胸は年がいもなく震えた…。女を繰り返し襲う夢魔。抑えようもない恋の焔。お家騒動の因縁話をからめ水の都は波間に揺れた-。