著者 : 長野まゆみ
古いフランス製の家計簿に書きこまれた膨大な文書を翻訳してほしい、と文化人類学者河島からの依頼。最後にVincent van Goghと署名があって、ゴッホ直筆かもしれない。しかも署名付き家計簿は二冊存在するという。贋作ならば、なぜ複数必要だったのか。ぼくは翻訳を進めるいっぽう、家計簿の来歴を追った。だが、謎は深まるばかりだった。
桜蔵は、祖父の墓参りのため、霊園行きのバスに乗った。車中、森の話をする男がいた。その声に気をとられていたとき、バスが交通事故を起こした。はずみで、車内に白い骨片が散らばった。骨箱を抱えた人がいたのだ。さらに、シラトリヨハンなどと疑わしい名乗りをする若者も乗りあわせている。その日のできごとは、やがて祖父の遺品だった茶〓の謎へとつながり、桜蔵はみずからのルーツを辿る異界めぐりの旅をはじめるのだった。
六世紀ごろに大陸から伝わり、改暦を重ねながら明治の初めまで用いられてきた旧暦。そこには春夏秋冬の四季に留まらない、さらにこまやかな季節が織り込まれている。大暑や立秋、大寒といった気候の節目を表す二十四節気と、「地始凍」「熊蟄穴」など、動植物や空模様がそのまま季節の呼び名に採り入れられている七十二候。十二人の作家の想像力で、「二十四節気七十二候」が現代の物語に生まれ変わった。
カフェで、ファストフードで、教室で、ケアホームで、一見普通の人物が語りはじめる不可思議な物語。一卵性双生児、夢の暗示、記憶の改竄、自殺志願者など、ちりばめられた不穏なモチーフが導く衝撃の結末。読んでいるうちに物語に取り込まれ、世界は曖昧で確かなことなど何もないと気づかされる戦慄の九篇。
小説好きのみなさん、お待たせしました。日本文藝家協会が毎年編んで読者に贈る年間傑作短編アンソロジー。2018年の1年間に文芸誌などの媒体に発表された全短編から厳選。ベテラン作家から新鋭作家まで、日本を超え、世界を捉え、文学を革新する多彩な書き手15人による注目作、意欲作を選び出す。この一冊で2018年の日本文学を一望できる珠玉の短篇名作選。解説は中沢けい氏。 文通 土脉潤起 どみゃくうるおいおこる 坂をおりる船 ダークナイト・ミッドナイト 本当の旅 ハレルヤ 牡丹華 ぼたんはなさく 風下の朱 巡礼 生き方の問題 チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ 風鈴 永遠のあとに来る最初の一日 残影 野戦病院
あのころ知りあいのだれもがなにかしらのウソをついて暮らしていたー長く潜伏したあとでひょっこり姿をあらわした、よく似た姉妹による巧妙なウソ。郵便受けに届いた1枚の葉書が呼び起こした、弟との30年前の秘密。猫めいた老婦人、白い紙の舟。消えゆく記憶の彼方から、おぼろげに浮かび上がる6つの物語。
ジョバンニの旅は終わってもカムパネルラの旅は続く…。あの「銀河鉄道の夜」を今夜、カムパネルラが語りなおします。長野まゆみデビュー30年記念小説。
川の流れる東京の下町で生まれた父は実直な文字職人として穏やかな生涯を送ったーはずだった。死後、折々に亡き父の来し方を思う娘は、親族との会話を通して、父の意外な横顔に触れる。遠ざかる昭和の原風景の中に浮かび上がる敗戦の記憶。著者の実体験をもとにした家族の物語。第68回野間文芸賞受賞作。
きっかけは図書室でみつけた一冊の古書だった。亀甲文字で印刷された中世の書物にぼくは夢中になる。時間旅行装置“デカルコ”で時を隔てた世界を行き来する者たち、その実用化を目指す国際的な研究機関ICOD、突如現れては、運命の女について語って去ってゆく謎めいた少年…メビウスの輪のようによじれた時空間を自在に移動し、かつて栄華を誇った一族の奇妙な足跡と家系図の迷宮を描いた壮大なサーガ。
港町ミロナの地図収集館で働き始めたリュスは救済院育ちの17歳。感情を封じて慎ましく暮らす彼のもとにメルカトルなる人物から一通の手紙が届いたその夜、アパートに見知らぬ女が立て続けに訪ねてくる。以来、彼の周辺で不可解な事件が次々と起こり、リュスの平穏な日々は大きく転回し始めるー謎多き女たち、変死した大女優、紅い封鑞つきの手紙…やわらかな心をくすぐるロマンチックな冒険活劇。
犬に姿を変えられたつくろい師、死者の衣を剥ぐお婆、曰くつきの私家版の稀覯本…霊界の異形のものたちとの交わりを円熟味増す筆で紡ぐ、甘美で幻想的な異界への誘い。陶酔感あふれる「左近の桜」シリーズ第3弾!
大学進学のために上京した鳥貝一弥17歳。東京での部屋さがしに行き詰まっていたところ、いい部屋があると薦められて訪ねた先は高級住宅街の奥に佇む洋館だった。条件つけだが家賃も破格の男子寮だという。そこで共同生活を営んでいるのは揃ってひとクセある男ばかり。先輩たちに翻弄され戸惑いつつも、鳥貝は幼い頃の優しい記憶の断片を呼び覚まし、自らの出生の秘密と向き合っていく。艶っぽくて甘酸っぱい、極上の青春小説!
複雑な関係ながら、皆個性的で仲がいい宝来家で飼われることになったネコ兄弟、チマキとノリマキ。一家の息子のカガミさんは、みんなの健康のために美味しくてヘルシーな料理を日々作り続ける。そんな彼が気になっているのは居候の桜川くんなのだが…。著者真骨頂、ネコ目線のほっこり「不思議家族」物語。
アナナスとイーイーは“鐶の星”の巨大なビルディングで同室に暮らしている。二人は、父と母が住むという碧い惑星に憧れ、帰還を夢みている。出口を求めて迷路をひた走る二人に脱出の道はあるのか。そして、碧い惑星はまだ存在しているのか?…SF巨篇を一冊で待望の復刊!
川辺の下町、東京・三河島。そこに生まれた父の生涯は、ゆるやかな川の流れのようにつつましくおだやかだったー。そう信じていたが、じつは思わぬ蛇行を繰り返していたのだった。亡くなってから意外な横顔に触れた娘は、あらためて父の生き方に思いを馳せるが…。遠ざかる昭和の原風景とともに描き出すある家族の物語。
だて眼鏡をかけ、まともな優等生を演じながら、平穏な中学校生活を送るはずだった。季節外れ、いわくつきの転校生・七月がやってくるまでは…。十歳違いの双子の姉兄によって、ある時期まで自分を女だと思い込んで育った印貝一は、人には云えない不安を抱える生意気でユウウツな十五歳。-鎧をまとい、屈折した心と体をもてあましながら思春期をしのぐ、繊細で残酷な少年たちの危ういひと夏を描いた鮮烈な青春小説!