著者 : 青山遼子
レディ・エレノアことネルは敬愛する祖父の遺言により、広大な領地と屋敷を相続したが、それを維持するすべがない。両親も亡き今、莫大な相続税の支払いが迫っていた。大富豪で遺言執行人のジョスは、ネルに選択を迫った。「すべてを売却するか、さもなくば君の祖父が望んだように、僕と結婚して領地を守り、息子を産んで称号を継承させるか」ジョスを密かに愛していたネルは、冷たい求婚に深く傷つく。だが祖父の領地と称号を守るため、涙をのんで受け入れた。内気な私など、もとから彼に愛されるはずがないのだからー
戦闘で負傷したリンドハースト伯爵はチェルトナムで療養中ジゼルダを看護婦として雇い入れる。彼女は痩せこけていたが、誇り高く淑女であることがうかがえた。が、数日後、弟の手術代のために愛人候補の男性を探してほしいと途方もない依頼を伯爵にもちかけた。折しも、従弟の結婚を阻止しようと思案していた伯爵は、ジゼルダの難問を同時に解決すべく、一計を巡らせる。ジゼルダを裕福な貴婦人に仕立て従弟に求婚させようとする筋書きで大芝居が演じられることになったが…。
ブルーム侯爵は、自慢の特注の馬車に潜んでいた少年に気づき、仰天する。だが、その少年は、カーラという娘が変装した姿だったのだ。仕方なく彼女を館に泊めた伯爵のもとに翌朝、カーラを虐待する叔父が現われた。そのマトロック伯爵は、侯爵を敵視し長年、復讐の機会を狙っていた。姪の誘拐で告訴すると迫った彼はカーラを殴りつけ、ピストルで脅迫し結局は、二人の結婚を強行させてしまう。その直後、国王の逝去で侯爵はロンドンへ召喚され、社会情勢は不穏になる。偶然にも、政府要人の暗殺計画を知ったカーラは、大胆にも単独行動を起こした。
一代で莫大な富を築いたローランド卿は、財産目あての男が、一人娘のカシアに近づき、その富を蕩尽することを恐れ、勝手に結婚相手を決めてしまう。独断的な父親に反発したカシアは新聞の求人欄で、家庭教師の職を得た。そして本名を隠し、秘かに家を出るとドレッグホーン公爵の田舎の城へ向かう。そこで待ちうけていたのは、皆から厄介者にされてきた公爵の甥だった。だが、その少年、サイモンの真情を理解したカシアは、自分の秘密も打ち明ける。二人は協力し、難問に立ち向かうが…。
アードウィック伯爵は激怒していた。内密に婚約していたヘロイーズから一方的な破棄を宣告されたからだ。そんな折り、馬車の事故に遭遇し、弟連れの美しいルピータを救いだす。二人の父親とは旧知の間柄で深刻な事情があることを知った伯爵は姉弟の後見人をかってでた。そして、婚約者と出席する予定だった注目の仮装舞踏会へルピータを同伴しようと思いつく。その当日、華麗なるクレオパトラに扮して、ルピータがあらわれた…。
父のシェンレイ卿を亡くしたカイラは未亡人となった義母の恐ろしい計画を知る。遺産を狙って、跡とりの弟の殺害を企てているのだ。その夜ふけ、二人はロンドンの屋敷を忍び出た。今ではグランストン伯爵のリリーコート城にいるばあやだけが頼りだ。二人は励まし合って長い旅路を急ぐが、義母の魔手は容赦なく迫ってくる…。
「タリー、あなたとはもう結婚したくないのよ」-。婚約者メリアの突然の心変わりに、ブローラ卿は愕然とした。彼女は、次期首相候補と目される若き政治家アーネスト・ダンクスが現れたことで、かれとブローラ卿とを天秤にかけたのだ。耐えがたい屈辱を感じながら、ドーヴァー街にある自分の事務所に立ち寄ったブローラ卿は、そこに泣き暮れる新米タイピイト、ジーンの姿を目にした。彼女もまた、故郷の婚約者に裏切られたのだという。先の大戦を特別奇襲隊の隊長として戦い抜いたブローラ卿の胸に、そのとき、ある作戦が炎となって燃え上がった。
婚約者に裏切られたものどうしが手を組んだ、大胆な奇襲作戦が開始された。ブローラ卿はジーンと出会った翌日に、二人の婚約を発表したのだ。それが恋人の心を取り戻したい一心のブローラ卿の策略なのだということを知りながら、ジーンもまた自分の人生の大きな変化に戸惑いと興奮をおぼえていた。しかし、いつしかジーンの心の中では何かが変わりはじめていたのだ…。舞台をスイス、サンモリッツに移して、さらに複雑に絡み合う数奇な愛の運命。
「スラヴォニア国王と結婚せよ」女王陛下のジオーナへの命令は、あまりに突然だった。会ったこともない52歳の相手との政略結婚。やがて、イギリスを発ったジオーナは、スラヴォニア国内で反乱が起きていることを知る。先頭に立っているのは、前国王の息子で“見えないひと”と呼ばれる男だった。
ウィンチンガム卿は、まさに崖っぷちに立っていた。無謀な賭けで十万ポンドという損失をこうむり、このままでは財産の全てを失うしかない。自暴自棄になったウィンチンガム卿は、不承不承ながら、かれの被後見人であるティナ・クルームの大胆な企てに同意してしまう。ティナは、社交界にデビューさせてくれれば、そこで「金持ちの夫」を見つけるし、その男から卿の借金を返済できるだけの「結婚支度金」も手に入れてみせる、というのだ。こうして共謀者になった二人には、この計画はたやすく成功するかのように見えたのだが…。
すべてを失い、失意の中で亡くなったロックボーン卿。残されたマリスタら三姉妹は、一家を追いつめたスタンブルック伯爵を憎みながら暮らしていた。そこへ伯爵から膨大な家賃の督促状が届く。途方に暮れたマリスタたちは、屈辱に耐え、かつての自分たちの城に、伯爵を訪ねることを決意する。