著者 : 高橋啓
編集者ロベール・デュボワが週末に原稿の束を抱えて帰ることはもうない。持ち帰るのは何本もの原稿の入ったタブレットのみだ。紙の本は消えてしまうのか?読者は何を求めているのか?なじみのレストランでの、ワインと料理に舌鼓を打ちながらの著者との打合せも、もうなくなるのだ。今や、ワインよりビール、コーラとハンバーガーの若者たちが中心となり…彼らの提案の新鮮さに驚かされもする。おまけに行きつけの昔ながらのビストロはスシ・レストランに身売り!紙に埋もれて生きてきた昔ながらの編集者デュボワが直面する時代の変化の嵐。当惑そして諦め…しかし軽やかに飄々とそれらを超越する彼。変わりつつある出版界と読書人たちに捧げる、小品でありながらも風格ある一冊。
1980年、記号学者・哲学者のロラン・バルトが交通事故で死亡。事故は当時の大統領候補ミッテランとの会食の直後だった。そして彼の手許からは持っていたはずの文書が消えていた。これは事故ではない!誰がバルトを殺したのか?捜査にあたるのは、ジャック・バイヤール警視と若き記号学者シモン・エルゾグ。この二人以外の主要登場人物は、ほぼすべてが実在の人物。フーコー、デリダ、エーコ、クリステヴァ、ソレルス、アンチュセール、サール、ドゥルーズ、ガタリ、ギベール、ミッテラン、ジスカール・デスタン、ラング…綺羅星のごとき人々。そして舞台はパリから、ボローニャ、イサカ、ヴェネツィア、ナポリへと…。「言語の七番目の機能」とはいったい何か?そして秘密組織“ロゴス・クラブ”とは?『HHhH-プラハ、1942年』の著者による、驚愕の記号学的ミステリ。アンテラリエ賞・Fnac小説大賞受賞作。
ヨーゼフ・メンゲレ、アウシュヴィッツ絶滅収容所に移送され、降車場に降ろされたユダヤ人を、強制労働へ、ガス室へと選別したナチスの医師。優生学に取り憑かれた彼は、とりわけ双子の研究に熱中し、想像を絶する実験を重ねた。1945年のアウシュヴィッツ解放時に研究資料を持って逃亡。その後、49年にアルゼンチンに渡った彼は、79年にブラジルの海岸で死亡するまで南米に潜み、捕まることも、裁かれることもなく様々な偽名のもと、生き続けたのだった。そして、その死が遺骨のDNA鑑定によって確認されたのは90年代になってからのことだ。なぜメンゲレは生き延びることができたのか?彼は、どのような逃亡生活を送ったのか?謎に満ちた後半生の真実と、人間の本質に、ジャーナリスティックな手法と硬質な筆致で迫った傑作小説。ルノードー賞受賞作。
北フランスの貧しい工場地帯、男たちが力で支配する、強いことだけが価値を持つその世界で、女の子のような少年エディは異分子だった。壮絶ないじめと暴力、同性愛体験…。差別主義の標的となり、苦しい日々を送った彼は逃亡を決意した。家族を捨て、貧しい村を捨て、奇妙な名前(エディ・ベルグル)を捨てた彼は高等師範へと進み、エドゥアール・ルイと名前を変え、同性愛者であるインテリ青年となった。現代の現実世界の出来事とは、にわかには信じがたいほどの貧困の実態、想像を超える差別主義ー性差別、人種差別、同性愛差別ーそのすべてを赤裸々に語り、自身の半生をつづった衝撃の物語。
主人公のチャンスは孤児である。生まれてすぐ偶然にも大富豪に拾われ、庭師として育て上げられた。屋敷と庭から一歩も外に出たことがない。学校にも通ったことがない。読み書きもできない。庭仕事をしている以外は、ひたすらテレビを見ている。ところがある冬の日、主人が死んでしまい、生まれて初めて外の世界に出ることに…。童話のような、寓話のようなおかしなおかしな一週間の物語。映画『チャンス』の原作、27年ぶりに新訳で復刊。
地獄はどこにある?仕立屋ジューヌと愛する妻コルブリューヌ。冥界の領主との約束は果たして守れるのか-。忘れることの恐怖を主題に、人間存在の深淵を抉りだした、現代フランス文学の鬼才による美しい愛の物語。忘却と記憶、顔と言語、無意識と欲望を根源的に考察する哲学的エッセイ「メドゥーサについての小論」を併載。
十八世紀、フランス革命直前のヴェルサイユ、ルイ十六世の治世。欲望渦巻く宮廷社交界では「洗練されたエスプリ」が重んじられ、才気のない、風流を欠いた人間は除け者にされていた。そんな時代の風潮のなか、故郷の窮地を王に具申するためヴェルサイユにやって来たポンスリュドンという青年がいた。田舎貴族の彼の前には次から次に困難が立ちはだかるが、持ち前の才気と率直さで切り抜けていく…滑稽かつ痛快な諷刺劇。
1939年、フランス東部のナンシーで、ジャンヌは軍人のルイと結婚した。だが幸せも束の間、わずか二カ月の新婚生活ののち夫は第二次大戦に出兵してしまう。やがて戦争が終り、帰還した夫とともに異全の地ベルリンで新たな生活に入り、三人の子供に恵まれる。だが平和な愛の暮らしも、またもや夫のインドシナ赴任によって壊され、ひとり取り残された彼女は、情熱的なドイツ人青年との官能的な恋に身を焦がすのだった…。
古代の神々はすでに死に絶え、キリストはまだ現われず、ただ人間だけが存在した、紀元前1世紀の古代ローマ。現代の都市にも似た、猥雑で喧騒の渦巻くローマの街を舞台に、美しく残酷な物語を書き続けた男がいた-その名はアルブキウス。風変わりな作家の生涯を縦糸に、荒々しい人間の葛藤劇を復元し、目も眩むエロティシズムの魅力溢れる小説となした、現代フランス文学の最前線にして超古典的な傑作。
リュシアンはいつも独りぼっちだった。あるとき同級生から「人殺しの子」と罵られた彼は、その夜、寄宿舎から姿を消し、付近の沈澱池に死体となって浮かんでいるところを発見された。池のほとりの地面にリュシアンはこう書き残していた。-僕の父は人殺しではない。第2次大戦中のレジスタンス運動について調べるマルクは、かつてのレジスタンスの英雄ジャン・リクアールのもとを訪れる。彼は、戦後、対独協力者を処刑したかどで殺人の罪に問われ、投獄された過去を持っていた。人に命じられるがままに活動の深みにはまってゆき、苛酷な運命にとらわれたジャン。マルクはその背後に隠されたある人物の驚くべき裏切りが、リュシアンの悲劇にまでつながっていたことを知る。
ドイツとフランス、父と母、現在と過去、音と光、友情と裏切り、男と女…。主人公シャルルは親友とその妻との三角関係に悩み、ひたすら17世紀の音楽に没頭していく。鬼才キニャールが現代に甦らせる絢爛たるバロック小説。
17世紀、絢爛たる宮廷音楽の時代。ヴィオールを弾く二人の天才は、妻や恋人との悲劇を超えて、厳粛で官能的な音の織りなすバロックの世界へ旅立った。そして-世界のすべての朝は二度と戻ってこない。
ひとりの娼婦が殺された。嫌疑をかけられたイール氏は、隣近所の誰からも嫌われている孤独な独身男だった。極端にきれいずきな彼の唯一の楽しみは、アパートの向かいに住む若く美しい娘アリスを覗き見ることー。夜ごと部屋の明かりをつけず窓辺に立って彼女の様子をながめ、静かに恋の炎をたぎらせていた。ある夜、彼は恐ろしい出来事を見てしまったことから、人生の歯車を狂わせはじめる…。愛と誘惑、謎と裏切りの物語。