小説むすび | 著者 : 鳥越碧

著者 : 鳥越碧

白秋秘唱白秋秘唱

著者

鳥越碧

出版社

文藝春秋

発売日

2021年9月30日 発売

言うまでもなく北原白秋は、明治・大正・昭和にわたり詩人、歌人、民謡作家、童謡詩人として活躍したマルチの文芸家。この鳥越碧さんの小説は、創作における苦悩の軌跡を縦軸、三人の妻との愛憎を横軸にして、その文学者白秋の生涯を追ったものです。白秋は明治18(1885)年、福岡県柳河(現・柳川)の造り酒屋の跡取りとして生まれました。早くから文学に目覚め、中学卒業を前に、文学を一生の仕事にすると決意して東京に出奔、早稲田大学に入ります。『明星』の与謝野鉄幹、晶子、石川啄木、木下杢太郎らと親交を結ぶ中、次第に詩人として頭角を現わし『邪宗門』で世の寵児となりますが、経済的には実家が倒産し、苦境に陥ります。そんなとき出会ったのが、隣家の人妻、松下俊子でした。彼女と愛し合うようになった白秋は、俊子の夫から姦通罪で訴えられて拘置され、仕事も名声も失います。二人は一度は別れますが、やがて再会して結婚。しかし結婚生活はうまくいかず離婚、白秋は経済的のみならず創作の面でも行き詰まります。そんな中、『青鞜』に勤めていた江口章子(あやこ)と知り合い再婚、心の安定を得ます。尽くす章子に支えられながら童謡の仕事を始めた白秋は、ようやく窮乏生活から脱しますが、自宅を新築した地鎮祭の夜、なぜか章子は雑誌編集者と駆け落ちをしてしまいます。三度目の妻は佐藤菊子。子供にも恵まれ、ようやく安らかな家庭を得ましたが、すでに詩歌壇の大御所となった白秋は、文学的苦悩からしばしば感情を爆発させるようになります。誰からも怖れられて距離を置かれ、糖尿病から視力も奪われ、孤独感を募らせる中で白秋は昭和17(1942)年、58歳で世を去ります。著者・鳥越碧さんは平成2(1990)年に、尾形光琳の生涯を描いた『雁金屋草紙』で第1回時代小説大賞を受賞、その後も多くの作品を世に問うてきたベテラン作家で、その練達の筆で白秋の苦闘の実相に迫ります。

わが夫(つま) 啄木わが夫(つま) 啄木

著者

鳥越碧

出版社

文藝春秋

発売日

2018年12月14日 発売

石川啄木の死の1年後、同じ肺結核で死の床にある妻の節子の回想で始まる小説で、全編を節子の視点で描き、二人の錯綜した愛を掘り下げます。互いに14歳のときに出会い、結婚し、故郷を追われて漂泊し、貧窮の中で生きた二人。27歳で若き命を散らす啄木の生涯に重ねて、節子の救われ難く見える一生にスポットライトを当て、その心情に寄り添います。これまで節子は、世に埋もれた天才歌人を支え続けた健気な妻と言われてきましたが、果たしてそれが本当の節子の姿だったのだろうか、という思いが作者・鳥越碧さんの執筆動機です。確かに節子は、結婚後も短期間しか一緒に暮らせず、啄木からの仕送りもわずかで、彼の母らと共に貧乏のどん底に突き落とされます。啄木が釧路に単身赴任して芸者とわりない仲になったときには、煩悶し嫉妬もします。ようやく東京で同居できるようになったときも、すさまじい嫁姑の諍いを起こし、社会主義へと走る夫からも取り残され、孤独感をつのらせます。ついには、極貧の中、自ら結核を患います。しかし、明治という時代に、初恋を貫き、親の反対を押し切って夢を追う無職の夫に嫁いだ節子です。自分の意志をしっかり持った女性であったに違いありません。そうであればこそ、姑とも激しく対峙し、親身になって相談にのってくれる夫の親友、宮崎郁雨に揺れる心をも制御できたのではないか。夫婦に溝が生じ、愛が冷めたかのように思えたときも、夫の看病を通じて静かに心を通わせることができたのではないか。たとえ世間的には不幸に見えたとしても、彼女にとってはキラキラとした誇らしい一生だったのではないか、というのが作者の節子への思いです。死の床で節子は一生を振り返ります。そして、最後に頷きます。後悔はしていない、誰でもない自分の意志で、己の一生を生き切ったのだからと。『雁金屋草紙』で第1回時代小説大賞を受賞した作者の、究極の愛を描く渾身の力作です。

漱石の妻漱石の妻

著者

鳥越碧

出版社

講談社

発売日

2013年6月15日 発売

悪妻として知られる夏目漱石の妻・鏡子。潔癖症の漱石と、おおらかだが大雑把な鏡子の夫婦生活は、船出から食い違い、英国留学を経て重度の神経症を得た漱石との暮らしは大波に揺れる。鏡子はなぜ悪妻と呼ばれたのか? 二人はどうして別れなかったのか? 余人には窺い知れない夫婦の絆を妻の視点で描く。(講談社文庫) 妻・鏡子の目から描く、戦場そのものだった夫婦生活。 それでも別れなかった二人の心の機微。 文豪の妻はなぜ悪妻と呼ばれたのか 悪妻として知られる夏目漱石の妻・鏡子。潔癖症の漱石と、おおらかで大雑把な鏡子の夫婦生活は、船出から食い違い、英国留学を経て重度の神経症を患った漱石との暮らしは大波に揺れる。鏡子はなぜ悪妻と呼ばれたのか? 二人はどうして別れなかったのか? 余人には窺い知れない夫婦の絆を妻の視点で描く。 どれが自分たち夫婦の真実であったのだろうか。 自分にとっては真実であったとしても、金之助には果して真実であったかどうか。夫婦の真実など、この世には存在しないものなのかもしれない。夫婦とは何なのだろう。もっとも近くにいて、もっとも遠い存在なのか。--<本文より> 序章 一章 妻となりて 二章 英国は遠く 三章 かけちがひ 四章 「妻は?」 五章 別れ 終章  あとがき

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