ジャンル : ノンフィクション > 文庫(ノンフィクション)
木島安兵衛が江戸に帰って八年が過ぎ、遊佐友也は十四歳になっていた。コンビニエンス・ストアで万引きをした後、家に帰らず逃げ続けていた友也だったが、深夜、巨大な水たまり状の穴の中に吸い込まれ、百八十年前の江戸時代にタイム・スリップしてしまう。ちょうど、この世界では、安兵衛が菓子屋を営んでいるはずー。そう思って、安兵衛を探し続ける友也だったが、菓子屋「時翔庵」はつぶれており、安兵衛もなぜか消息を絶っていた。失意の底にいる友也だったが、追い打ちをかけるように周囲の人たちから、くせ者として追われる身となるがー。
大ベストセラー『アブサン物語』の感動をもう一度!愛猫アブサンの死から一年、著者の胸に去来するさまざまな想いを哀切に綴る表題作他「カーテン・コール」「墓」「妻が大根を煮るとき」「夏猫」「壷」等、猫が登場する傑作五篇を収録。
今世紀フランスを代表する作家ユルスナールに魅せられた筆者が、作家と作中人物の精神の遍歴を自らの生きた軌跡と重ね、パリ、アレキサンドリア、ローマ、アテネ、そして作家終焉の地マウント・デザート島へと記憶の断片を紡いでゆく。世の流れに逆らうことによって文章を熟成させていったひとりの女性への深い共感、共にことばで生きるものの迷いと悲しみを静謐な筆致で綴った生前最後の著作。
吃音による疎外感から凡庸な言葉への嫌悪をつのらせ、孤独な風狂の末に行方をくらました若き叔父。彼にとって真に生きるとは「アサッテ」を生きることだった。世の通念から身をかわし続けた叔父の「哲学的奇行」の謎を解き明かすため、「私」は小説の筆を執るが…。群像新人文学賞と芥川賞のダブル受賞。
不義の恋の果てにこの世に生まれた美しい娘・おさい。江戸を襲った大火によって彼女の数奇な運命は回り始める。遊女、女スリ、大盗賊の娘、そして若き天才戯作者ー出会った人の心を少しずつ揺らし、救いながら、おさいは誰かをずっと待っている。果たして誰が、いつ?謎と人情が心に染みる七つの物語。
萌子は、かつて夫だった男と待ち合わせをしていた。折り入って相談があるというのだ。萌子の親友と不倫関係になり、やがて彼女を捨てて親友と結婚した男は、弱りはてた様子で、一度妻と会ってくれないかと持ちかける。仕方なく家を訪れた萌子が目の当たりにした、元・親友の変貌とはー(「尽くす女」)。誰の胸の内にもあるごく普通の感情が、やがて誰かを奈落へ突き落とす。心理描写の名手が日常に潜む闇に迫る、傑作短編集。
フルート奏者の朽木奈緒美は、これから始まる音大時代の仲間との新しい仕事に心を躍らせていた。そんな中、とある場所で謎の変死体が発見されてから、彼女の周辺で奇妙なことが起こり始める。毎夜の悪夢、首なしの白骨、壊れ始める友情、そして怪事件を狂信的に追う刑事…音楽を奏でる若者たちの日常が、一見つながりのない出来事により崩壊の道へ。これは、単なる偶然か!?今、陰謀に操られる、恐怖の舞台劇が幕を開ける。
捨てたはずの故郷に戻り、父が大金を持っているとの噂に踊らされた男。呆けて我がまま放題の母と猫の世話に煮詰まっていく女。売りつけられたスクーターに乗り、愛犬と骨を掘り出してばらまく少年。好きな女の先輩を安物の車に乗せて旅立ったプー太郎。夫のDVに苦しめられ、死んだチワワの骨を抱え岬に立つ女。北海道の風土に閉ざされた人間の闇をえぐる全5話。新境地を拓いた傑作揃いの短編集。
日本海のある海岸に、最先端技術を結集して建設された次世代型、世界最大の原子力発電所が謎のテロリスト集団に占拠された!?同志たちの解放を要求し、汚染ガス放出を予告。原爆をはるかに凌ぐ放射能汚染、チェルノブイリ事故の何万倍もの被害が想定される空前の危機が日本を襲う。攻守それぞれの正義が交錯するなか、愛する人、愛する国を守りぬけ!災害サスペンスの旗手が放つ衝撃の問題作。
「あんたは山を降りなさい」。薬草のお茶で身体の悪い人を癒してきた祖母の言葉が、十八歳になった雫石の人生を動かす。自給自足の山の生活を離れ、慣れぬ都会で待っていたのは、目の不自由な占い師の男・楓との運命的な出会い。そしてサボテンが縁を結んだ野林真一郎との、不倫の恋だった。大きな愛情の輪に包まれた、特別な力を受け継ぐ女の子の物語。ライフワーク長編の幕が開く。
真一郎の亡き友が遺した見事な庭園で、友の美しい義母が妖しく微笑む。恋の行き末にたちこめる暗雲。そんなとき、祖母から届いた翡翠の蛇は、嘆く雫石に新しい時の到来を告げる。孤独の底で未来を見つめる楓、そして身を捨てて楓を支える片岡さん。雫石がふたりと結んだ絆の強さと、自分の運命に気付くとき、眠っていた力が再び輝く。ライフワーク長編はいま深遠なるクライマックスへ。
長年の旅と探求がこの作家にもたらした、深沈たる一滴、また一滴ー。酒、食、阿片、釣魚などをテーマに、その豊饒から悲惨までを、精緻玲瓏の文体で描きつくした名短篇小説集は、作家の没後20年を超えて、なお輝きを失わない。川端康成文学賞を受賞した「玉、砕ける」他、全六篇を収める。
法律事務所長・北見貴秋は、ドラッグ依存症による二ヵ月の入院療養から戻ったその日、幼馴染みの作家・今川が謎の死を遂げたことを知る。自殺か、事故か、それとも…。死の真相を探ろうとする北見の前に、ドラッグによって失われた記憶の壁が立ちはだかる。
江戸は白金村に戻り、手習所を再開した興津重兵衛。家主の娘おそのを妻に迎えるはずだったのが、重兵衛を仇と思いこんだ正体不明の女と同居する羽目に…。一方、村では半月ほど前から住み着いた謎の女が、男たちの好奇の的になっていた。
岩手県にある鷲尻村。長く無医村状態が続いた当地に、待望の医師が赴任した。その直後、彼は何者かに襲われ帰らぬ人となった。巨熊に襲われたと噂される彼の代わりに新たに赴任した滝本。だが、着任早々、彼は連続殺人事件に遭遇することになる。先祖の祟りに縛られたこの地で、彼らを襲うのは熊なのか、それともー?横溝正史ミステリ大賞を受賞し、21世紀の横溝正史が誕生と各方面から絶賛されたデビュー作、待望の文庫化。
とある理由から警察を退職し、探偵業で糊口をしのぐ日々を送っていた元刑事・徳永のもとに、かつての上司で今や警視監の井口から、失踪した愛娘の捜索依頼が舞い込む。捜索を続ける徳永の前に、優雅なセレブ夫人たちの秘密の集まりが垣間見えてきたー。官能と狂気渦巻く、馳ノワール新たなる傑作長篇。
失踪した井口警視監の娘の捜索を進めるうちに「ブルー・ローズ」の秘密を知った元刑事の徳永。上級警察官僚、大物政治家をも巻き込む巨大な暗闘、徳永を嘲笑うかのように立ちはだかる公安警察の巨大な壁ー。際限なく膨張し続ける人々の欲望を前に、ついに徳永のモラルが吹き飛ぶ!人間の性と暴力衝動が炸裂する、馴ノワール新たなる傑作長篇。