ジャンル : 外国の小説
英連邦作家賞受賞作品 「ブッカー賞」を受賞した『奥のほそ道』が日本でも大好評を得た、タスマニア出身の鬼才による、「英連邦作家賞」受賞作品。 時代は十九世紀、本書の主人公「ウィリアム・ビューロウ・グールド」はイギリスの救貧院で育ち、アメリカに渡ってから画家オーデュポンから絵を学ぶ。しかし偽造などの罪で、英植民地タスマニアのサラ島に流刑となる。 科学者として認められたい島の外科医ランプリエールは、グールドの画才に目をつけ、生物調査として、彼に魚類画を描かせる。ある日、外科医は無残な死を遂げる。 グールドは殺害の罪に問われ、海水が満ちてくる残虐な獄につながられる。絞首刑の日を待つグールド……その衝撃的な最期とは? 歴史、伝記、メタフィクション、マジックリアリズム、ポストコロニアルなどの趣向を凝らした、変幻自在の万華鏡。奇怪な夢想と驚きに満ちた世界が展開される。 「大傑作」(『タイムズ』)、「『白鯨』の魚版」(『ニューヨーク・タイムズ』)など、世界で絶賛の嵐を巻き起こした、作家の代表作。 色刷り魚類画十二点収録。
[商品について] ー『テス』に隠された双面神ヤヌスー 19世紀のイギリス文学を代表する小説の一つトマス・ハーディ作『ダーバヴィル家のテスーーヒロイン・テスの悲劇的な一生を描いた本作は、なぜか「門」や「出入口」などへの言及が多い。テスの運命を翻弄する二人の男の名前、クレアとアレックは、よく見ると一字違いのアナグラム(字句の入れ替え)。--これらは何を意味するのか? 筆者はそこにローマ神話の双面の門神ヤヌスの隠れた存在を見抜き、ヤヌスを鍵にして物語を読み解いていく。ギリシア・ローマ神話や聖書や、シェイクスピアやミルトンなど、西欧文化史を彩る多様な成果を縦横に駆使しながら、入念に織り上げたテクスチュアから立ち現れてくる、秘められた花にも似たテスのドラマをご覧ください。 [目次] 『ダーバヴィル家のテス』梗概ーー未読の方々のために 序章 コードとしてのローマ建国伝説とヤヌスの神話 (1)『テス』と西欧文化史 (2)『縛られたプロメテウス』から『アエネイス』、『ルークリースの凌辱』へ (3)『金枝篇』とヤヌスの神話 第1章 名前の〈二重性〉とアイデンティティ (1)ヤヌスとしてのクレアとアレック (2)「自身(セルフ)」をめぐる関係性の劇とアイデンティティ 第2章 アレックによるアイデンティティの分裂とヤヌスの影 (1)冥界の地獄タルタロスへ (2)冥界からの帰還を願って 第3章 クレアによるアイデンティティの分裂とヤヌスの影 (1)冥界の楽園エリュシオンの野へ (2)ふたたびタルタロスへ 第4章 悲劇の構造としてのヤヌス (1)プルトの王国にて (2)〈青鷺〉の町アルデアにて 第5章 復讐の政治学と魂の救済 (1)〈命名〉によるアイデンティティの支配と復讐 (2)ヤヌスの神話と楽園喪失・回復神話による〈戯れ〉と〈救済〉 注 引用文献(参照文献を含む) あとがき 電子版に寄せて──ヤヌスは顕現する 著者紹介 [担当からのコメント] 大学院生だった頃に『ダーバヴィル家のテス』を読んだ著者は、それから30年以上が経ったある日、当時お世話になっていた先生が不意に呟いた言葉を思い出し、それをきっかけに『テス』の世界へもう一度踏み込んでいきます。そんな著者の魂の研究成果とも言える本書、ぜひご一読ください。 [著者紹介] 安達 秀夫(あだち ひでお) 1947(昭和22)年12月、東京都生まれ。 中央大学文学部文学科英文学専攻卒業、同大学院文学研究科修士課程英文学専攻修了。元立正大学文学部教授。 著書 『「ダーバヴィル家のテス」とヤヌスの神話』、文化書房博文社、二〇〇〇年(単著/本書)。(以下は「分担」もしくは「項目」執筆) 『英米文学と言語』、ビビュロス研究会編、ホメロス社、一九九〇年。『異文化の諸相』、日本英語文化学会編、朝日出版社、一九九九年。『読み解かれる異文化』、中央英米文学会編、松柏社、一九九九年。『都市論の現在』、立正大学人文科学研究所編、文化書房博文社、二〇〇六年。『村上春樹 作品研究事典(増補版)』、村上春樹研究会編、鼎書房、二〇〇七年。『トマス・ハーディ全貌ーー日本ハーディ協会創立五〇周年記念論集』、日本ハーディ協会編、音羽書房鶴見書店、二〇〇七年。『フォークナー事典』、日本ウィリアム・フォークナー協会編、松柏社、二〇〇八年。『新たな異文化解釈』、中央英米文学会編、松柏社、二〇一三年。『文化学の境域』、中央英米文学会編、七月堂、二〇二〇年。その他、フォークナー、ヘミングウェイ、サリンジャー関係論文。 翻訳 レナード・ファインバーグ著『ユーモアの秘密』、共訳、文化書房博文社、一九九六年。
メルボルンで働く記者のキーは、弟の不審な死を知らされ、久しぶりに帰省する。5歳下の弟デニーは、ベトナム系の一家のなかでも、オーストラリアに適応した優等生だった。そんな弟が殺された。レストランの店内で何者かに殴られて。警察の説明にキーは愕然とする。その日、現場にはデニーの同級生も教師もいたのに、目撃証言がひとつもないというのだ。必死に事件を調べるキーだったが、知るほどに弟の姿は揺らいでいく。デニーは変わってしまったのか?そもそも自分が弟を何も見ていなかったのか?やがてキーは、置き去りにしてきた過去に向き合うー。オーストラリアの移民社会の歪みに切り込む文芸ミステリ作品。ロサンゼルス・タイムズ文学賞ミステリ/スリラー部門最終候補。
言葉がどこへ旅をするかは誰にもわからない。アパルトヘイト以前・以後ー社会変革の渦中で激動する「奇跡の国」南アフリカ。プレトリアで農場を営む白人のスワート一家とその黒人メイドとの間に交わされた土地をめぐる約束が、30年以上にわたり一家の運命を翻弄する。圧倒的になめらかな神の視点で描かれる、アフリカ文学の最先端にして英国最高峰ブッカー賞受賞作。
【ネビュラ賞、ローカス賞など4冠】 ジンの魔法と科学の融合で大発展した世界 エジプト魔術省のエージェント・ファトマは 恋人の女性シティとともに 蘇った伝説の魔術師の謎を追う! 19世紀後半、伝説の魔術師アル=ジャーヒズがジン(精霊)の世界の扉を開き、世界は一変した。ジンの魔法と科学の融合によりエジプトは急速な発展を遂げるが、アル=ジャーヒズはなぜか姿を消す。それから40年後、カイロに彼の名を名乗る謎の男が現れ、彼を崇拝する人々を焼きつくした。エジプト魔術省の女性エージェント・ファトマは、恋人の女性シティらと共に捜査に乗り出す。ネビュラ賞、ローカス賞、イグナイト賞、コンプトン・クルック賞の4冠に輝いた新鋭の第一長編!解説=渡邊利道
中世北欧文学の最高峰!13世紀のアイスランドで花開いた、王、豪族、美姫、戦士、農漁夫、ヴァイキングの乱舞する雄渾華麗な物語。幻の名著が、最新の研究を踏まえた図版・系図・地図・文献案内を備えて待望の復刊!「サガ」とは、語り、語られた出来事、物語の意。ヴァイキング時代に人びとがノルウェーからアイスランドへ入植した経緯、活躍した英雄、戦い、何代にもわたる血族同士の復讐の応酬、キリスト教以前の異教時代の魔法や幽霊、呪いなどを活写した壮大な史伝的散文作品が約二百篇ほど現代に伝わる。本書は質量ともサガ文学中の圧巻とされる六篇を収める。
“妊娠しています”という医師の言葉に、エリンは呆然とした。おなかの子の父親は、大富豪エイジャックス・ニコラウー。出会った瞬間に強く惹かれ、彼の誘惑に抗えず一夜を共にした。さらにもう一夜を共にしたあと、冷たく別れを言い渡されたのだ。今さら彼に妊娠を知らせても、きっと追い払われるだけ。エリンは彼の前から姿を消し、ひとりで産み育てると決めた。2年後、突然エイジャックスがエリンの自宅を訪ねてきた。彼が足を踏み入れると、火がついたように赤ん坊が泣きだす。エイジャックスは鋭く光る眼で言った。「この子は…僕の娘だ」
母親が娘の名で作った莫大な借金に、ヤナは途方に暮れていった。そこへ現れたのがかつての義兄、富豪ナジールだった。「君が必要なんだ」そう言うと彼は借金の清算と引き換えに、妻の死以来、心を閉ざしてしまった幼い娘の世話を頼んできた。忘れたい初恋の記憶がよみがえり、ヤナは気を失ってしまう。19歳のとき、私はナジールに純潔を捧げようとして拒絶された。その後彼は結婚し、病気で妻を亡くしたが、彼女は私の親友だった。決して振り向いてくれない人と一つ屋根の下で暮らすのはつらすぎる。けれどヤナはわかっていた。彼のためなら自分がなんでもすると。
ケリーは教会でウエディングブーケを手にして、花婿のアレコス・ザゴラキスを今か今かと待ちわびていた。だが結局、ハンサムな大富豪が結婚式に現れることはなかった。哀れにも、ケリーは土壇場で冷酷に捨てられたのだ。4年後。傷ついてどん底に落ちた彼女は小学校教師となり、ようやくアレコスのことをきっぱり忘れる決心がついた。彼に贈られたダイヤモンドの婚約指輪を思いきってオークションに出品したとたん、すぐさま400万ドルの高値で落札され、ケリーは呆然とした。いったい誰があの指輪を欲しがったの?すると不敵な笑みのアレコスが現れ、強引に彼女を連れ去り…。
リンジーは世界的に著名なカメラマン、ジョエルの秘書。どんな女性も夢中にさせる魅力にあふれたジョエルは、過去や家族の話をいっさいしない秘密主義者だ。そんな彼をもっと知りたくて、この半年一緒に暮らしてみたが、悲しいことに、それは変わらなかった。ジョエルにとって、私は住み込みの愛人でしかないの?彼への想いは衰えるどころか、日ごとに増すばかり。もう彼のそばにはいられない…。しかし退職届を出した矢先、思いがけずジョエルとパーティに出ることになってー?
おなかの子の父親アントニオと連絡がつかず、ティアは途方に暮れた。そっとおなかに手をあてる。妊娠6カ月で、赤ちゃんはもう蹴ってくる。相手は王国のプリンスで、私はただのウエイトレス。彼の所在がわからず王宮に問い合わせるしかない身の上がつらかった。亡き兄の親友だったアントニオとは一度だけ会ったことがあったが、6カ月前、さる慈善パーティでティアが給仕をしていたとき、主賓のアントニオが声をかけてきて、二人は再会した。兄の思い出を語らううち、ホテルで一夜を共にし、そして…。アントニオにも、生まれてくる子供のことを知る権利があるはずだ。ティアは身重の体を押して、彼が住む地中海の王国へ向かったー。
“あなたを見ると、ママを思い出します。ママは天国にいます。弟もじきママのところに行くので、その前にあなたに会いたがっています”子供たちのアイドル“ストーリー・プリンセス”を演じるドミナイは、ファンから大量に寄せられた手紙の中の1通に心を動かされた。不幸な幼い兄弟にすっかり同情し、彼らを共演企画へ招くことにするが、そう決めた理由はじつはほかにもあった。“パパはあなたをB級女優だと言います”というくだりにひっかかり、誤解を解きたかったのだ。楽しい思い出を作れたら、誤解も解けるはず。共演を来週に控えたある日、ジャロッドと名乗る魅力的な男性が現れた。一目で惹かれたドミナイは驚いた。彼が、あの手紙の“パパ”だと知って!
十人並みの器量だが賢さではきょうだいで一番のポリーは、学術書の手書き原稿を清書するアルバイトに応募し、採用された。ところが雇い主の友人で“教授”と呼ばれる医師サムの登場により、楽しいはずのアルバイトはとたんに緊張の連続となった。ある日、雇い主が突然の病で亡くなり、故人の遺志を継ぐため、ポリーがサムの屋敷に住み込んで清書を完成させることになったのだ!サムは気品があり、とてもハンサムだが、いつも不機嫌そうだ。彼と同じ家に住み、美しい婚約者から冷たい目で見られるのに耐えられず、ポリーは急いで仕事を終えると屋敷をあとにした。だがサムとの再会は、新しい職場となった病院で、不意に訪れたー
メレディスはある小包を待ちわびながら、不安を募らせていた。13年前に手放さざるをえなかった娘の成長を知るすべは、養母が送ってくれる写真しかないのに、それが今年は届かないのだ。まさか、何かあったんじゃ…。病気、あるいは事故とか…?最悪の事態を考え始めたころ、突然玄関のチャイムが鳴り響いた。扉の前には、片時も忘れなかったニックー娘の父親の姿があった。ああ、ニック!もしかして、やっと私に会いに来てくれたの?たちまち封印したはずの愛がよみがえり、期待に胸が高鳴る。だが彼の瞳を見つめたとたん、メレディスは気づいた。二人が愛し合った記憶を、彼がいまだに取り戻していないことに。
エリンは16歳のときから、親友の兄で社長のタイに片想い。25歳になった今は、恋心を隠して彼の下で働いている。そんなある日、エリンはタイにデートに誘われ、胸をときめかせた。目的が彼にしつこく迫る女性を退けるためとはいえ、長年の夢が叶うのだ。二人の距離は急速に縮まり、エリンはついに純潔を捧げたが、その直後から、彼女の人生は不幸のどん底へと突き進む。父が急逝したうえ、生前に家を売っていたため、住む場所を失った。さらに、他社へ情報を売ったとタイに疑われ、会社も追い出されたのだ!「君はもう我が家でも歓迎されない」ひどい、私はやっていないのに…。何もかもなくしたエリンは町を去ったータイの子を、その身に宿して。
図書館司書のアメリアは夜間にウェイトレスの仕事を始めた。品行方正な彼女がめがねを外し、きわどい服を着るのは、退屈な人生を変えるためにどうしても資金が必要だから。このことが知れたら、町中が大騒ぎになるだろう。ある晩、思わぬ客がーアメリアが長年片想いをしているタイラー・サヴィジが来店した。こんな姿をタイラーに見られたのも衝撃だったが、彼の注文にはさらに驚いた。彼は目の前のセクシーなウェイトレスがお堅い司書とは気づかず、陶酔したまなざしで「俺が欲しいのはきみだよ」と言ったのだ!(『夜は別の顔』)。田舎暮らしの司書ジョイはバレンタインの夜、初めて訪れたロンドンのレストランで著名な大物スターのマーカス・バレンタインと出逢い、ひと目で心を奪われてしまう。そして思いがけず彼からダンスに誘われたとき、彼女は勇気を出して承諾した。いつもは地味な私だって、今夜くらいは楽しんでもいいはず。そう思いながら踊っていると、不意に唇を重ねられ、ジョイは我を忘れて激しく応えた。するとその直後、彼女をふしだらな女性だと思い込んだマーカスは打って変わって険しい顔になり、侮蔑の言葉を浴びせてきた!(『蝶になった司書』)。