出版社 : サンリオ
サクストン卿夫人となったエリエンヌは、ついに不気味な夫に身をまかせ、狂おしいほどの歓びにひたる。そして、夫の背中にある傷跡をたどりながら、わたしはこの人の妻なのだ、と自分にいいきかせた。しかし、ある夜、闇に浮かぶ夫の瞳にクリストファーの影を見て、歓びのさなかに、かれの名を口にしてしまう。静かにベッドを去る夫に、深く自分を責めるエリエンヌ。あくる日、夫の不在中に、夜盗との格闘で深手を負ったクリストファーが館にかつぎこまれた。
「タリー、あなたとはもう結婚したくないのよ」-。婚約者メリアの突然の心変わりに、ブローラ卿は愕然とした。彼女は、次期首相候補と目される若き政治家アーネスト・ダンクスが現れたことで、かれとブローラ卿とを天秤にかけたのだ。耐えがたい屈辱を感じながら、ドーヴァー街にある自分の事務所に立ち寄ったブローラ卿は、そこに泣き暮れる新米タイピイト、ジーンの姿を目にした。彼女もまた、故郷の婚約者に裏切られたのだという。先の大戦を特別奇襲隊の隊長として戦い抜いたブローラ卿の胸に、そのとき、ある作戦が炎となって燃え上がった。
婚約者に裏切られたものどうしが手を組んだ、大胆な奇襲作戦が開始された。ブローラ卿はジーンと出会った翌日に、二人の婚約を発表したのだ。それが恋人の心を取り戻したい一心のブローラ卿の策略なのだということを知りながら、ジーンもまた自分の人生の大きな変化に戸惑いと興奮をおぼえていた。しかし、いつしかジーンの心の中では何かが変わりはじめていたのだ…。舞台をスイス、サンモリッツに移して、さらに複雑に絡み合う数奇な愛の運命。
両親の死後、准男爵の兄ピーターと暮らすヨランダ。ある日、兄が決闘で相手の侯爵を殺してしまった。不利な立場となったふたりは、難を逃れるため、フランスへと向かうが、途中スリにあい一文無しになってしまう。そこでヨランダは一計を案じ、旅行中のイルケストン公爵の召使として雇われる。
父の死後、叔母の邸で暮していたツェリーナは、突然ロシア行きを言い渡される。後見人の叔母には逆らえず、しかたなくロシア行きの船に乗ったツェリーナ。そんなツェリーナになれなれしく近づいてくる男がいた。身の危険を感じたツェリーナは、とっさに同船していたシャルノック卿に助けを求めた。
数年ぶりに、故国ドンブローツカに戻ったイローナ王女。だが、国は内紛によって二分されていた。そんな時、ロシア軍の侵攻開始の報せが入る。速やかに国内の団結を図らねばならない。そこで、イローナに反国王派のセアロス公との縁談がもちあがる。イローナは王女としての決断を迫られる…。
アスコット競馬場にほど近いラングストン荘園に、デルメザは兄ジェラードと住んでいる。競馬大会が近づいたある日、トレヴァーノン伯爵が館を借りたいと頼んできた。ジェラードは引き受けたものの、女性の噂が絶えない伯爵のこと、妹の身を案じ、デルメザに「秘密の隠し部屋」に隠れるよう厳命する。
「スラヴォニア国王と結婚せよ」女王陛下のジオーナへの命令は、あまりに突然だった。会ったこともない52歳の相手との政略結婚。やがて、イギリスを発ったジオーナは、スラヴォニア国内で反乱が起きていることを知る。先頭に立っているのは、前国王の息子で“見えないひと”と呼ばれる男だった。
ロンドンに帰る途中つかのま馬車をとめたステーヴァートン伯爵の前に若い娘が降り落ちてきた。娘の名はペトリナ、退屈な生活にすっかり嫌気がさして学校を脱走した、後見人は冷酷でまったく頼りにならない、という。しぶしぶペトリナを馬車に乗せた伯爵は、やがて自分がその「無責任な後見人」であることを知った。どうやら伯爵は、とんでもなくお転姿な被後見人を背負いこんだらしかった…。