出版社 : ベストセラーズ
駿河真壁藩の藩主とお世継ぎの鶴丸が、不慮の災いによって相次いで世を去った。藩主の座は、残された唯一の血筋である側室お万の方の一子、主水介のものと思われたが、土壇場でもう一人の藩主の血を引く存在が明らかにされた。本書にある紫道場の食客、三木兵庫が面倒を見ている新之助がそのお世継ぎである。やむなくお家騒動に巻き込まれた兵庫は、武士の矜持を胸に権謀術数渦巻く駿河の地へと旅立つ。
殺生方は斬り捨て御免の殺生勝手。いつ、いかなる時、何を斬ろうとお咎めなしー。時は元禄、人々は五代将軍綱吉が下知した生類憐れみの令に困惑していた。将軍家の狩猟全般を取り仕切ってきた殺生方のお役目も、犬や猫などを殺生した者の取締りへと変節を余儀なくされた。父の跡を継ぎ、殺生方与力になった若宮隼人。その行く手に殺生方ゆえの苦難が待ち受けていようとは、心踊る隼人には思いもよらぬ話であった。
両国から浅草、吉原と数日の間に夜鷹(街娼)が斬殺される事件が相ついだ。いずれも辻斬りの仕業と思われ、被害者は袈裟懸けで一刀のもとに殺られていた。本所吉田町で夜鷹の会所を営む菰の十蔵に、用心棒として雇われている馬庭念流の剣客・鳴海九重郎は、ある夜、偶然にも辻斬りを目撃した。遠い暗がりで刀を揮ったのは、同じ会所の用心棒、小野川頼母に似ている侍だった。友への疑念を打ち消した九重郎だったが、その頼母は姿を消し、首には賞金がかかろうとしていた…。
己の力だけを信じ、家族も捨てて戦乱の世を激しく生きた武士。大名同士の見栄と意地の張り合いを描いた滑稽でどこか物悲しい元禄の武士道。“千石でなければ士官せず”と毅然とした姿勢を崩さず生きた貧乏浪人とその母親。戦国乱世を無双の豪勇をもって駆け抜け、凄烈な生涯を終えた武辺者。薩長の新政府に仕えるのは武士の意地に悖ると、自らの意思を貫いた剣客最後の輝きを描いた剣豪小説、など、珠玉の物語7篇。
天下を騒がす贋の二分金。両替商の十文字屋善右衛門にとっても頭の痛いタネだった。「父様、わっちが贋金作りの下手人を見つけてくる」。娘のお駒はその名のとおり、深川でもつとに知られた跳ね駒である。さっそく幼馴染みで下っ引の捨吉をむりやり引っ張りだし、目明しまがいに飛びだしていったが、はてさて…。お江戸一のじゃじゃ馬小町が、八百八町にはびこる贋金を追って駈けまわる、痛快時代活劇。
浅草田原町の庫裏で寺子屋を手伝う浪人・鬼怒玄三郎。彼には、法で裁けぬ悪党を密かに始末する裏の顔があった。女を食い物にする“玉ころがし”と呼ばれる男を誅殺したあと、奉行所同心の手下となり悪事を重ねる金十一家の者たちを次々と葬り去っていく。この玄三郎の手腕に、豪商・紀伊国屋文左衛門が用心棒を乞うてきた。交誼を深める二人だったが、玄三郎には思惑があった。文左衛門と張り合う成り上がり者で、姉を悶死させた材木商の奈良屋茂左衛門を狙っていたのだ。
いつ、いかなる時、何を殺生しようがお咎めを受けるいわれはござらぬ。殺生お構いなし斬り捨て勝手の殺生方に新たな奉行がお目見えした。織部多聞、人呼んで“かぶきの多聞”。徳川の世も三代目にあたり盤石に見えたが、現世を憂える軍学者・由比正雪一党の企みによって、不穏な事件が相次いでいた。多聞もいつしか事件に巻き込まれていく。反骨のかぶき奉行が揮う剛剣ー柳生流兜割りが悪を断つ。
貧乏旗本の末弟・弥平太は、長いあいだ部屋住の居候ぐらしをしていたが、二十九歳になって、やっとムコ入りの口にありついた。相手は十七歳の未通娘とあって、弥平太は天にも昇る心持。だが、彼には心配事があった。部屋住の身では吉原通いなど叶うはずもなく、未だ女の肌を知らなかった。そんな弥平太を見かねた義姉が男女の営みを指南することに相成ったが、夢中になってしまったのは義姉の方だった…武家妻のヨロメキを描いた「枕中・色の道指南」等、文庫初収録作品九話。
誰からも見捨てられた旧主に仕える忠義な元家臣とその恩義に報いようとする旧主の思い、弟を見捨てた幼い日の後悔を「ごめんよ」の一言に万感の想いを込めて世を去った兄、藩主の寵姫とその息子に無私の忠誠と憧憬を捧げ愚直な生き方を貫いた男、老いたる戦国武将が彼を慕う少年武士へ注ぐ情に満ちた心意気、11歳の幼い少女の健気な決意と江戸の人情を描いた物語、など、世情に左右されない爽やかな生き方、愛のあり方を教えてくれる人間賛歌。涙を呼ぶ名作9編。
将軍家斉の逆鱗に触れ、掛川十七万石の藩主たる本郷大和守は、信州の小藩へ転封となった。怨み骨髄に達し、将軍弑逆を目論んだ大和守は、凄まじい威力をもった大砲を作り上げた。大目付の乾官兵衛は、参勤交代を利用し江戸府中に大砲を運び込む大和守の陰謀を察知したが、ひとりではいかんともしがたい。官兵衛の脳裏をよぎった男の横顔。三木兵庫の剛剣が、私利私欲にまみれた亡者どもを冥府に堕とす。
講演家のエージェントをしている初老の男バートは、パトリックという若い男性と運命的な出会いをする。彼は聞くものを魅了する言葉の力をもった講演家ー人々に生きる勇気を与える「言葉の魔術師」だった。バートとパトリック、そして車椅子の少女キャシーとの意外な交流を通して浮かび上がる、生きることの意味とは、生きるために本当に必要なものとは…。
馬庭念流の剣客として名を馳せ、高崎藩の剣術指南役もつとめた鳴海九重郎は、諸国流浪の旅をかさね、三年ぶりに江戸に帰ってきた。街には浪人者があふれ、糊口をしのぐあてもなかった九重郎だったが、運良く本所吉田町の夜鷹屋の用心棒におさまることができた。そんな折、大川東詰めの掘割に夜鷹の斬殺死体が浮かんだ。遺体は腐乱がひどく身許の判別はつかなかった。だが、遺品の三味線は九重郎がかつて情を交わした絹枝のものであった…。注目の気鋭が贈る書下ろし時代小説。
風雲急を告げる幕末の京都で、空腹に耐えかねてわけもわからず新選組に入隊した旅芸人の坂本朝太と桂珍平。新選組を変えてやると、人前では決して笑顔を見せぬという副長・土方歳三を笑わそうとする珍平・朝太コンビによる奮闘ぶりをおもしろおかしく描いた「笑わぬ男」をはじめ、柔道の達人・西郷四郎や明治の文豪・夏目漱石と迷コンビの交流を絶妙の筆致で織りなす、笑いあり、涙ありの快作。
「よいか、武士の一生は束の間のことぞ」「はっ」「その束の間をいかに生くるかじゃ」「おお」「まいれ」二人の体躯が地ひびきをたてて飛びちがい、刃と刃が宙にきらめきー。池波正太郎の「武士の紋章」はじめ、弓技の腕前を秘した奥ゆかしい弓の達人、「武士の心は石高などでは計れぬものぞ」と武士道の本義を守り通した男、孤独に耐えながらも使命に邁進する悲しくも美しい魂を持った男、など、己を潔く生きた武士たちの珠玉の物語8篇。至芸の筆が冴える。
道場破りを見事打ち負かし、懇願されるままに小野派一刀流柴道場の師範代となった素浪人・三木兵庫だが、その矢先、道場主の娘・千草の恋人であった友吉が、何者かによって斬殺されてしまった。逆袈裟に一刀両断されていた切り口から、江戸府内で続けざまに起こっている通り魔の仕業と思われた。正義のため、千草のためと下手人を追う兵庫だが、その前にはさらなる謎と思いもかけぬ強敵が…。非情の邪剣に正義の白刃が煌めく。
この男とならもうどうなっても悔いはない。地獄の果てまで添い遂げて…。腕のいい友禅師に惚れぬき、足を洗って幸せをつかもうとした刹那、芸者かおるの前に現れた悪鬼の正体とは!?-表題作「柳橋かよい妻」をはじめ、市井に生きる妖艶かつしたたかな女たちが織りなす、美しくも哀しい恋の数々。情緒纒綿たるエロチシズムを秘めて、流麗な筆致で綴り上げられた大江戸色絵巻。著者会心の傑作時代小説。
出張ホスト、出会い系、逆性感…。女流官能作家・内藤みかが「女が男を買う時代」を活写!加えて女流カメラマン・後藤さくら撮影のイケメン5人のヌードも満載!なにからなにまで異色の官能的短編集。