出版社 : 中央公論新社
寺僧の堕落を痛罵し、妻や弟子ももたず、法も説かず、破庵に独り乞食の生涯を果てた大愚良寛。その人間味豊かな真の宗教家の実像を凄まじい気魄で描き尽くした水上文学のエッセンス。毎日芸術賞受賞作。
世界的ピアニスト、ライダーはヨーロッパのとある「町」に降り立つ。「町」は精神的な危機に瀕しており、市民たちは危機克服の望みを演奏会「木曜の夕べ」の成功にかけていた。「町」を蘇生させる重責を担わされたライダーに市民がもちかける相談とは…。イシグロが冒険的手法を駆使して現代の苦悩に取り組んだ異色問題作。
心をかきむしられる既視感、薄明の記憶の底から揺らぎ現れる人物や風景。夢魔に魅入られたような状況のなかで、ついに「町」の蘇生をかけた「木曜の夕べ」が開幕する。ライダーと市民は危機を克服できるのか。世界の読書界を騒然とさせた野心作は思いもかけない結末へとむかう。イシグロが同時代におくる渾身のメッセージ。
材木問屋・和泉屋甚助-みずからの号を反物に染め、馬子唄に折り込ませる。あの手この手で名を広めようとするこの男、ただの売名か大粋人か?(「憚りながら日本一」)高名な画人・池大雅と玉瀾夫妻-二人を訪ねた男は、あまりに風変わりな生き方に仰天するが、この訪問には裏が。(「あやまち」)講釈師・馬場文耕-美濃郡上藩の騒動を高座にかけ、お上の手前まずいと知りつつ、しゃべりだしたらとまらない…(「いのちがけ」)など、奇にして潔なる人々を描く傑作集。
秦の始皇帝の父、ともいわれる呂不韋。一商人から宰相にまでのぼりつめた波瀾の生涯。雲がかかる深山、霧にしずんだ幽谷をぬけて、茫漠たる未来へと歩をすすめる少年呂不韋。
ホストクラブでナンバー・ワンを目指す兄、ひたすらビル登りをする弟。そして、かつては美人に違いなかった太った女の物語(オハナシ)-。新鋭にして奇才-新井千裕のつむぐ不可思議な小説世界。「水の女」に出会ってから、「軌跡の人」はすこし自由になったのかもしれない。
「人斬り鍬次郎」「隊中美男五人衆」など隊士の実相を綴った表題作の他、稗田利八翁の聞書、近藤勇の最期を描いた「流山の朝」を収載。菊池寛賞に輝いた幕末維新作品の出発点となった新選組シリーズ完結。
確かな史実と豊かな巷説を現地踏査によって再構成し、隊士たちのさまざまな運命を鮮烈に描いた不朽の実録。新選組研究の古典として定評のある、子母沢寛作品の原点となった記念作。
風雲の幕末、軍事顧問団員として来日した仏人士官ブリュネは滅びゆく幕府軍に身を投じ、遙か箱館五稜郭まで戦い抜く…。義に生きた男の「侠血」を軸に真っ向から維新史に挑む、十年の歳月をかけた遺作。維新史を描く歴史文学の新たなる古典。
現代ドイツ文学界の傑出した頭脳が生んだ滅亡と再生の神話世界。黒海沿岸の流刑地で果てた古代ローマの大詩人オウィディウス。その遺稿『メタモルフォーセース』を求めてローマを出立した男が世界の果てに見たものは…。
僕たちは知ってしまっている。愛が終わるということ、子供が奪われるということ、両親が自分の人生は無意味だったと感じながら死を迎えるということ…ッツァー賞作家が描く、滑稽で哀しい6つの物語。
秋の柔らかな陽光に包まれた兵庫埠頭に、冬木健司は立った。「夜の走者」-この海で不審な死を遂げた親友が遺した言葉。風が、11年ぶりに再会した未奈子の髪を揺らし、遠い日の光景を運んでくる…。