出版社 : 中央公論新社
700年を経て、笛の音が響くとき次々と子供たちの姿が消えた…。「ハーメルンの笛吹き男」から、謎の予告状が。符合して1人の少年の死の周辺で起こる不可解な死亡・失踪事件。-笛吹き男伝説と現代を重ねた気鋭の新・社会派推理。
死に場所を求め、樹海を彷徨う御岳雄一郎。足をすべらせ意識を失った彼は不思議な夢を見る。愛する女との関係を断ち、“使命”を負えば、望んでいた将来が実現するというのだ。九年後、成功を手にした御岳を強烈なイメージが襲う。“使命”だ-。見えざる意志に導かれ、彼の54年型セルセデス300SLは闇を切り裂く。自らの存在の証しを求めて。ハードボイルド・ホラー。
政争と陰謀の渦中から栄華をきわめた平家一門。やがて東国に興った平氏打倒の嵐に翻弄され、西海の藻屑と消え去るその足跡を、頭領の妻を軸に綴る。公家・乳母制度の側面から捉え直す新平家物語。
女流作家はなかなか書かない、おふくろはうるさいし、おやじは男と同棲してる。あたしの生活はネコと自転車と料理と映画、そして昼寝。小さな事件が名を連ね、錯綜とした日常性の中、小説は書かれ、お話は続く…。
明治維新前後の転変が、一家一族の上に及ぼした影響も描かれて、総体として、行きとどいた家族年代記、もしくは時代的展望を内にふくむ屈曲に富むグループ・バイオグラフィ。つまり、一個人の生涯と業績という枠をはるかに踏みこえた、いわば大河伝記の試みであり、この点での『渋江抽斎』のユニークさと斬新さは、今日の時点から改めて大きく積極的に再評価されるに足る。
元老院議員の息子カエソは、パウロによって洗礼を受け、それによって、からくも義母との近親相姦の危険から逃れる。しかしそれも束の間、今度は男色家ネロの淫らな誘いを受けてしまう。皇帝の機嫌を損なうことは、即ち一家の破滅を意味する。宿命的ともいえる美貌ゆえに、カエソの困惑はますます深まっていく。やがて大火災がローマを襲う。ネロが火を放ったという噂が広がると、ネロはキリスト教徒に罪をかぶせ、彼らの大虐殺を決意する。彼らが建設しようとしている美徳の都と、ネロが永久にその名を冠することを望んでいる新しいローマ、輝くばかりの逸楽と背徳の都ネロポリスとは、永遠に相容れない存在だからだ…。主人公カエソはキリスト教徒として、ペテロと共に牢獄に因われる。
亡き妻の級友と知り合い、再婚に漕ぎつけた男に降りかかる奇妙な災難を描く表題作ほか、人間心理の深奥を鋭く探り、日常生活のうちに突然生ずる殺意の瞬間を鮮やかに捉える、濃密なサスペンス7編。
紀元一世紀半ばの帝政ローマ-それは歴史上最も劇的で絵画的な時代である。陰謀渦巻く宮廷での酒池肉林の狂宴、壮烈な戦車競走、円形劇場での流血の格闘、そして永遠の都ローマを紅蓮の炎で染めあげた大火災に代表されるスペクタクル-。物語は、元老院議員マルクス・アポニウスが、狂気の皇帝カリグラの気まぐれにより破産に追いやられる場面から始まる。そこに突然押しかけてきて彼と結婚する若くて美しい姪マルキア。そして、たぐいまれな美貌と鋭敏な感受性に恵まれた、マルクスの先妻の息子カエソ。やがて成人したカエソは、義母マルキアとの近親相姦の誘惑から逃れるために、折からローマに滞在していたパウロとルカに接近し、洗礼を授けてもらおうとする。パウロもこれを貴族階級への布教の足掛かりにするために、キリスト教の教義を熱心に説く…。逸楽と背徳の都ローマで繰り広げられる壮大な歴史絵巻。