出版社 : 国書刊行会
社会が何かを喪失している現在、文学もまた渇望する何かを持っていない。社会がただならぬ異臭を発するとき、著者の鬱情は、憤怒と愛は、ふつふつと煮えたぎる。純粋無垢を嘲笑する現実に対し、最後の陸軍幼年学校生たる著者は、悪鬼羅刹と化して筆をとる。稲妻となって闇を裂き、燐光のように燃える8つの短篇は、南北朝期の宇宙に読者を叩き込む。
プレイボーイ、コランタンと気のいい愛妻家の相棒ブリショーのコンビが見事に解決してゆく兇悪事件の数々は、実はフランスで実際に起こった犯罪に材をとり、その生々しさは比類がない。夜のパリにうごめく性倒錯者の群れ、欲望に翻弄される歪んだ人間模様、悲鳴、そして血。残虐な犯人と魅力的な主人公の対決、彼を支える風俗取締部特捜課の面々、さらに全編をいろどるセクシーな女性たち。本書は都市の生理をあばきながら巧みなストーリー展開をみせる。
老船長が空にしたアラク酒の壜の中にボトルシップを作るという話が突然、南の国の小さな湾に碇泊する三本マストのスクーナー船の話になってしまう…あざやかな手品のような逸品『壜(ラ・ボテリヤ)』、盗みに入られてもほうっておく邸の主人と、節度を守って盗む泥棒たちの奇妙な共棲とその破局…『優雅な泥棒たち』、夢の中の青年を探して、少女は時を超える旅に出かけた…美しいファンタジー『蒼い夢』、速度に取り憑かれた人間を笑い、秩序に取り憑かれた国家を諷刺する『生き急ぐ』『秩序の必要性』、死を待つばかりと思い定めた老人が、ひょんなことから生きる歓びを見出してしまう悲喜劇『汽車を乗り間違えて』、構想中の小説の登場人物が実際に現われてしまった…作家のイメージの発生現場を垣間見させる『トルコ人』等々、時間と空間を自由に往き来しながら、変幻自在なプリズムの光を結晶化したような現代ドイツ随一の短篇の名手、クルト・クーゼンベルクの世界。クールな透明感あふれる文体で描く、ふしぎで、おかしくて、皮肉な21篇。
麻薬空港、離陸直前、ヘロインはどこだ?運び屋はだれだ?プレイボーイ、コランタンと気のいい愛妻家の相棒ブリショーのコンビが見事に解決してゆく兇悪事件の数々は、実はフランスで実際に起こった犯罪に材をとり、その生々しさは比類がない。夜のパリにうごめく性倒錯者の群れ、欲望に翻弄される歪んだ人間模様、悲鳴、そして血。残虐な犯人と魅力的な主人公の対決、彼を支える風俗取締部特捜課の面々、さらに全編をいろどるセクシーな女性たち-都市の生理をあばきながら巧みなストーリー展開をみせる本シリーズは、一度読みはじめたらやめられない面白さを持っている。
俺、ブリショー。コランタンの相棒さ。奴にはいつも助けられている。今度の事件だって-発端は奴の鼻だった。薔薇孤児院てとこはどうもクサイ、何かある、とすかさず嗅ぎつけてな、早速孤児院の美人先生と仲よくなっちゃってさ(いいねえ、いつもながら)、色々探りを入れると、これがひでえ所だったんだ。かわいそうな女の子たちを娼婦に育て上げ、売春窟にしてたんだよ、院長のばあさんが。「わたしを駄目にした男たちに復讐してやる。男を手玉にとって、男の血を吸って生きてやる」だと。狂ってるぜ。乱痴気パーティーの現場に踏み込もうとしたんだが、例の美人教師は人質になるし、実は俺も捕まっちまってな(ヤバかったよ)、最後の最後までハラハラしたぜ。