出版社 : 実業之日本社
経理課員の轢き逃げ死、失踪、そして横領疑惑。度重なる事件の裏には大企業の暗黒面が隠されていた。単身赴任中の出向社員が腐敗した会社の不正を暴いていく。正義のためというより、ただ愛するひとのために、たった一人の闘いが始まった。人生のレースから降りかけていた男が命懸けで真実に迫ろうと志したとき、女は…。
新冨宏ー男たちのオアシスは、この男なくして存在しなかった!!“ナイトカルチャー”の仕掛人にして夜の世界に革命を起こした男の半生を、稀代のヒットメーカー・倉科遼が描き出す。
作家の彦坂和彦は、太平天国の乱をテーマにした作品を執筆するため中国へ取材旅行に出かけた。上海で新彊省出身の若い女性と知り合い、一緒に南京へ行くことになる。彼女は、北京政府からの分離独立を求めるテロリスト・グループの活動家だった。共感した彦坂は、彼女たちの計画に協力する約束をする。なんとその計画とは、2008年の北京オリンピックを中止させるべくメインスタジアムを爆破する、というものだった。公安の追跡を逃れながら、いよいよ実行の日が近づく-。
「パパが、ママが、帰ってこないの」警視庁捜査一課、岡部警部の部下・坂口を五歳の姪が訪ねて訴えた。姉夫婦に何が!?不吉な予感に襲われる坂口に、殺された義兄が福島県郡山近郊の石川町で見つかったという悲報が届く。現地に飛んだ坂口は、古典文学の研究者・吉川弘一から、数日前に義兄を佐賀県有明町で目撃したという証言を得る。二つの町には王朝の歌人和泉式部の史蹟があり、義兄は失踪直前に「イズミ」という言葉を残していた。事件の背景に和泉式部が関係しているのか!?やがて姉も他殺体で発見され、両親を喪った幼い姪のため、若き刑事は事件解決に乗り出した。
そこにあるのは胸躍る冒険物語、それとも恐怖に彩られた悪夢か。めくるめく夢と幻想の迷宮へようこそ…本格ミステリの俊英の初期から現在に至る傑作十編を精選!特別エッセイも併録したファン待望の非ミステリ・ノンシリーズの幻想怪奇作品集。
林首相は、戦前から台湾自治を求めて、台湾議会設置請願運動を行ってきた活動家だ。ついには日本帝国議会でも請願の演説を行い、万雷の拍手を送られたこともある。だが、四五年。アメリカ政府から彼に渡された国は、琉球台湾連邦という、いびつなものだった。日本軍国主義を潰せばアジアでの問題は消滅する。広大な中国市場は、待ち焦がれていたアメリカと熱く抱き合うだろう、などと考えている連中。その夢見がちなニューディーラー達が支えるアメリカ民主党政権は、この地域の複雑性などまったく理解していない。彼らは、“ジェネラリッシモ”蒋介石が、沖縄を大琉球、台湾を小球琉と呼んでいた明代の故事を持ち出すと、あっさりとその島々の所有権を中国に認めた。そしていかにもアメリカらしく、沖縄と台湾をまず“民主的に統合”して、近代国家とし、中国にプレゼントすることにしたのだ。
東京・多摩湖畔の邸宅で、女優から画家に転向した日下部沙織の死体が発見された。第一発見者は夫の稔。稔はプロ野球・湘南シャークスの元エースで、現在は高校時代の友人・榎本一明と人材派遣会社を経営していた。沙織は自分本位な性格で、デザイナーである妹の河村千冬との葛藤も…。やがて第二の事件が北海道の洞爺湖畔で発生。千冬と仕事で知り合った編集者の笹谷美緒は、恋人の数学者・黒江壮とともに事件の謎を追うが、容疑者には鉄壁のアリバイがそびえていたー。
母・雪江の発案で三河への旅に出かけた名探偵・浅見光彦。旅先の「殉国七士の墓」で出会い、ふたりに説教までした愛国老人が、翌日吉良町の海岸で死体となって発見された。全身には高い崖から転落したと思われる激しい打撲の跡があった。しかし、現場にはそのような断崖はない。となると、まるで「名も知らぬ遠き島より…」と島崎藤村の詩にも歌われた椰子の実のように、死体は別の場所から流れ着いたのだろうか。一体犯行現場はどこなのか!?一度は警察に疑いをかけられた浅見光彦が、美しい海岸に仕掛けられた完全犯罪と、その背後に隠された悪意に迫る、傑作長編旅情ミステリー。
土佐沖に広がる夏の青空の下、大和は盛大に飛沫を巻き上げながら航行していた。その飛行甲板の上には、それぞれ10機ずつの零戦、九九艦爆、九七艦攻が、整備員たちの手によって次々と運び込まれ、発艦準備を行っていた。「なんともいえない光景だな」大和艦長として防空指揮所に立つ黛が、甲板上の作業を眺めながら呟いた。傍らに立っていた航海長が、片方の眉を上げながら言った。「まったく、馬鹿げていますよ。これだけ巨大な空母-いや、軍艦は、世界広しといえども、我が海軍にしか存在しないのですから」黛はぎこちなく頷いた。この大和が戦艦として生まれなかったことに対し、複雑な心境を抱いていることに変わりはなかった。
岩井絵里と遠野樹は事務所を共有している仕事のパートナー。樹がコーチをしている高校のサッカー部員が不祥事を起こし、その責任を感じた彼は、四国遍路へ旅立つ。絵里のもとへ遍路日記が送られてきたが、ある日突然それが途絶える。ちょうどそのころ、神戸で変死体が発見された。死んだ女性は、四国遍路の納札を握り締めていた。そこに書かれていたのは「遠野樹」という文字-。
歴史学者である妻伸子の助言のもと、大胆な推理を展開する大和田の小説は、発刊すると、たちまち評判となった。しかし、伸子の勤める大学を牛耳る先輩教授は、妬みから大和田を中傷し、伸子を学内から、追放しようとする。数日後、「インターラーケン城」と名付けられた広大な別荘の中で、その教授は惨殺されていた。「聖徳太子の謎」に端を発する殺人事件は意外な展開を見せ、第2、第3の悲劇がそこに幕を開けようとしていた。
給料日前に懐が寂しくなるサラリーマンの小津健吾に突如、三千万円の遺産が贈与されるという話しが舞い込む。贈与者は、小津が二年前に別れた中江香織の叔母であった。遺言には、香織に遺産の話を内緒にしてよりを戻してほしいとあった。小津は今、白坂千鶴という女とつきあい、結婚話しすら切り出されようとしていた。遺産を取るか女を取るか、揺れ動く小津が双方の体と心を行きつ戻りつするうちに…。
-おら、負けねえ。絶対いっぱしの男になってやる。ムクムクとわき起こる闘志のせいか、慣れない長旅のせいか、有二の額に汗が吹き出す。それを腕でグイッと拭うと、有二は眦を決して人波に飛び込んでいった。栃木の糞ガキ鈴木有二が、世界チャンピオン、ガッツ石松への一歩を踏み出す、まさしくその瞬間だった。貧しくひもじかった少年時代、無我夢中で突っ走った青春時代-いつも熱く一途に生きる男・ガッツ石松の半生を、いきいきと描き出した初の自伝小説。
盛田の操る天山艦攻は海面を這うように突進する。雷撃速度は実に四〇〇キロ。このスピードに翻弄されたのか、敵艦の砲火は正確さを欠きはじめた。小型駆逐艦のマストを掠めるようにして飛翔する。目標まであと七〇〇メートル。今だ!機体がふわりと軽くなる。八〇〇キロもの重量を棄てたのだから当たり前だ。これで任務は済んだ。もう撃ち落とされても悔いはない。「魚雷命中!水柱三!」美墨二飛曹の声に背後を振り返るや、大型空母の左舷測に報告通りの風景が展開していた。盛田十三飛曹長は嬉しげに叫んだ。「よし、一番槍だ!」。