出版社 : 小学館
弘化三年(一八四六)日本海に浮かぶ隠岐・島後に、はるばる大坂から流された一人の少年がいた。西村常太郎・十五歳。大塩平八郎の挙兵に連座した父・履三郎の罪により、九年に及んだ親類預けの果ての「処罰」だった。十六歳になった常太郎は、狗賓が宿るという「御山」の千年杉へ初穂を捧げる役を、島の人々から命じられる。下界から見える大満寺山の先に「御山」はあったが、そこは狗賓に許された者しか踏み入ることのできない聖域だった。やがて医師になった常太郎は、島を覆う幕末の狂乱に巻き込まれていくー。第19回司馬遼太郎賞受賞作!
警察学校の卒業式の夜、事故で視力と最愛の弟を失った浜中なつめ。人生に絶望する中である日、車の接触事故に遭遇するが、後部座席からは少女の叫び声が聞こえてきた。なつめは警察へ赴き、自分の“目撃”した情報を提示して誘拐事件だと訴えるが、捜査は打ち切りに。もうひとりの目撃者である少年、春馬を探し出し、ともに少女の行方を追ううちに、家出少女を救う“救様”の存在を知る。そして四体の惨殺死体が発見され、少女連続殺人事件が浮上。真相を追うなつめは殺人鬼から逃れ、少女を救えるのか!?五感を震撼させるノンストップ・スリラーをノベライズ。
十代半ばで両親を失い、姉妹二人で生きてきた陽菜と元菜。陽菜は女優として活躍し、元菜は付き人をつとめている。ある日、元菜はロケ現場でカメラマンの生駒と出会い、彼に惹かれていく。そんな折、役を降ろされて窮地に陥った陽菜は、生放送の番組で写真家と交際していると宣言してしまう。「元菜を愛しているなら、私と交際宣言をして」-二人の関係に気づいていた陽菜は、話題作りのために、生駒に無理難題を持ちかける。深い絆で結ばれた姉妹の関係と、元菜の恋の行方は!?究極の三角関係を通して一人の女性の自立を描く新しい恋愛小説。
帰宅途中の美香がゴミ捨て場で見つけた、小さな金管楽器コルネット。なんの気なしに掴むとなぜか近くで声がする。「あ、そこ触らないでほしい」-そのコルネットには天才演奏家だった少女、紫乃の幽霊が憑いていたのだ!小さい頃から練習漬けだったという紫乃に“青春”を教えようと、美香は吹奏楽部へ入部。紫乃に体を預けることで天才的な演奏を披露する。だが今ひとつ真剣味が足りない美香の態度は、紫乃を怒らせるばかりか、級友の吹奏楽男子・川崎も苛立たせて…。幽霊少女と生み出す音色がイマドキ女子高生を変えていく。感動吹奏楽小説!
性悪な英語教師をブン殴って県下有数の名門進学校・I高を中退した17歳の斎木鮮は、中学時代の恋人だった幹とアパートで一緒に暮らし始める。幹もまた父親の分からない子を産んだばかりで女子高を退学していた。さまざまな世間の不条理に翻弄されながらも肉体労働での達成感や人間関係の充足を得て徐々に人として成長していく鮮ー。幼少期に性的悪戯を受けた暗い過去や、母親との不和による傷に苦しみながらも鮮は一歩ずつ前へと歩みを進めるのだった。第4回三島由紀夫賞受賞作品で解説を文芸評論家の池上冬樹氏が特別寄稿。
文芸誌「群像」に連載された著者の“執念の大作”第2巻。前田永造の妻である京子が前夫である伊丹との間に設けた長男・康彦は、母のいない寂しさから家出を繰り返す。康彦の学校へと出向いた永造は、どこか馴れ馴れしい担任の女教師に名前を「作家・前田永造」と呼び捨てにされ不快ながらも性生活について論じたりもする。そこから一転、先妻・陽子が存命の頃、後に京子の友人として再会する幼なじみ・会沢恵子との不倫の過去へと物語は移行していく。現在と過去が交錯しながら織りなされるように展開していく「姦通」をテーマにした異色の愛憎世界!
高卒からのたたき上げ、富久丸百貨店外商部の鮫島静緒(38)は、今日も個性豊かなセレブのお客様相手に奔走している。登校拒否ぎみの孫のためお金に糸目をつけない祖母。暴力団幹部の子を妊娠し、逃亡を望む愛人…。外商部の本格的な立て直しプロジェクトが始まり、男社会の古い社内体質が静緒を悩ませる。そこに同居人桝家の元彼まで登場!?そのうえ桝家をゲイと知る母親が、バツイチ独身の静緒に息子との再婚を勧めてきて!?竹内結子主演でドラマ化された話題作続編。神戸在住の著者による大ヒット小説、待望の文庫化!
殺人事件が多いことで知られる紅森市。刑事の桃田遊馬が頼りにするのは、古い屋敷で血液の研究をする幼馴染の天羽静也だ。彼は、事件の血液分析を担当し、捜査に協力している。華奢な長身に実験用の黒衣をまとった静也を人は“ヴァンパイア”と呼ぶが、本人はその渾名を嫌っている。絞殺された大学教授と衣服の血痕の謎。逃亡中の殺人犯と巡査刺殺事件の謎。バラバラ殺人らしき事件と“運命の血”の謎。殺された女性の首の傷痕とヴァンパイアのような人物の謎。そして明かされる静也自身の秘密とは!?刑事と血液研究者が“血”を手がかりに難事件に挑む!
兄の命日を機に、あやかしが見えるようになってしまった有末かなで。あやかしの助言を受け、解決法が書かれた本を求めて謎の図書室「ひいらぎ文庫」を訪れるが、玄関前に寝ていた金色のキツネの尾をうっかり踏んでしまう。キツネに文句を言われて混乱するかなでを迎えたのは、図書室長の長谷川柊だった。ところが、目的の本は延滞中!困るかなでを見かねた長谷川は、式神だというキツネの未明を留守番役に、かなでと共に延滞本を取り立てに行くことに。しかし、借主と一緒に本の行方もわからなくなっていて!?あやかし×本がもたらす、心に響く思い出の物語。
亡き妻・掬子に見守られながら、娘のこいしと食堂を営む鴨川流のもとには、多くの迷い人が訪れる。彼らが探しているのは、忘れられない思い出の味。心の奥にしまっていた後悔を、再現された料理とおもてなしで解きほぐします。幼馴染が成人式に作ってくれたたらこスパゲティ、罪の意識と引き離せない焼きおにぎり、亡き妻のじゃがたま、学校で問題を起こす息子が愛する祖母のかやくご飯、列車の中で泣きながら食べたカツ弁、家族を捨てた父が最後に作ったお好み焼き…。看板のない食堂の扉を、そっと開けてみてください。京都発!美味しいミステリー第六弾。
英国人ミステリー作家のカール・エビスは京都の京洛大学に招かれ、日本文学の教鞭を執っている。その傍ら、次回作執筆の取材と称して、助手を務める九条葵と京都の街を練り歩く毎日だ。日本通だと思っていたカールだが、京都では驚いてばかりいる。あとをつけていた女性が突然消えてしまったり、あの世とこの世の境目といわれる場所では、霊に憑かれてしまったり。かと思えば、なんでも癒すお地蔵様を洗うと、霊が消えてふっと肩が軽くなる。この世には、目に見えないものや理屈の通らないことがあるー。ベストセラー『鴨川食堂』の著者が贈る、京都発新シリーズ!
高校生・古谷野真樹は夏休み中の交通事故で記憶を失った。文化祭前の忙しない学校生活に復帰するも、記憶喪失による違和感は拭えずにいる。そんな中発生した「7・6」落書き事件。自分自身に関連する“何か”を感じた古谷野は、同じクラスで同じ写真部の親友・生駒桂佑や春日まどかと共に調査を進めることに。その謎を追っていくうちに次々と明らかになっていく、かつての自分と親友達の秘密。忘れてしまった「真実」に辿り着いた古谷野が下した決断とは。青春小説の旗手、額賀澪による初の学園ミステリー×純愛小説、待望の文庫化。衝撃のラストが胸に迫る一冊。
新選組元隊士・沢忠輔の長屋に、新選組最後の隊長・相馬主計が割腹自殺したという報が届けられる。遺言は夏帯に墨で書かれた「一ツ」。その一語だけだったー。相馬と沢、そして同じく隊士だった安富才助は、箱館五稜郭の戦いで土方歳三の最期を看取った。この激戦では、相馬と安富もそれぞれ腕と指を失ったものの、彼らは明治の世へと生き残る。流刑での島暮らしの中、思わぬ邂逅と避けがたい確執を経た相馬と安富。やがて彼らの人生は、「御一新」の荒波に翻弄されていくー。人の生き様、心の痛みを精緻に描ききった傑作時代長編。第10回舟橋聖一文学賞受賞作。
一目惚れした女の子に誘われ、日舞教室に通うことになった非モテ大学生の駿介。師匠の息子である吉樹とソリが合わず衝突するが、彼の踊りからは目が離せなくてー。冴えない男が飛び込んだ厳しくも魅力的な芸事の世界。日本舞踊の名取でもある著者が、熱くリアルに描いた長編小説!
最上級職“竜騎士”から初級職“運び屋”に転職したアクセル。一行は『砂塵都市』に辿り着く。しかし、街では奇妙な砂嵐が発生し、人々を蝕んでいた。そんな中、アクセルは嵐の中ですら活躍し、街の人々や彼らが奉る土地神を救って頼られまくる!!元竜騎士の最強運び屋がお届けする、トランスポーターファンタジー第四弾!
魔王。それがワシ、ガルトー・リューゼンの職業だ。妻と死別してからは、仕事一筋の毎日ーだった。ひょんなことから女勇者アンジェリカの母親レイティアさんと再婚し、ワシたちは三人の家族になった。義理の娘とは以前より自然な父娘になれたと思っている、のだが…じつはレイティアさんのおめでたが発覚した。アンジェリカは、このことをどう思うだろうか。初めての実子だ。正直、不安もある。しかし、魔王として、父親として!必ずやワシは素晴らしい家庭を築いてみせる!異世界式アットホームコメディ、待望の第3弾☆
フランス北部に広がるフランドル地方のサンヴナン精神病院に勤務する日本人留学生コバヤシの精神科医としての日常を描く、著者自身の留学経験をベースにした長編処女作。1967年に発表され、芸術選奨新人賞を受賞。精神を病んだ患者たちとの想像を絶する日々-それは正に過酷そのものだった。若い看護婦との同棲や、フランス人医師たちとの交流は深まるものの、コバヤシは青空が殆どないフランドルの空の下、自己と患者との境界を踏み越えて正気と狂気の間をさまよい始めるのだった。復刻にあたって、著者あとがきも新たに併録。
“第三の新人”を代表する作家・小島信夫が、文芸誌「群像」に1968年10月から1981年3月まで全150回に亘って連載した“執念の大作”ともいえる全6巻の序章。第1巻には第1〜22話までを収録。幻想のごとき脆い夫婦関係を描いた名作『抱擁家族』から数年を経て主人公は三輪俊介から前田永造と変貌したが、本作でも「姦通」をテーマに据えている。夫婦の愛、男女の愛、人間の愛のカオスを複層的、かつエネルギッシュに描き、伝統的な小説の手法を根底から粉砕した文学世界が展開される。第38回日本芸術院賞、第35回野間文芸賞を受賞。