出版社 : 文藝春秋
徳川旗下の武将・水野忠重の嫡男勝成は、十六歳の時遠州高天神城での初陣で手柄を立てた豪勇の士であったが、ささいなことで人を斬り出奔。豊臣秀吉、佐々成政、黒田長政に仕えた後、関ヶ原の合戦前に徳川家に帰参する。その男の意地を貫き通した爽快な一生を描いた表題作の他、珠玉の短篇9本を収録。
十歳にして、赤貧から志を持って家出。銀行、鉄道、紡績、ビール会社など、次々と創業し、“西の渋沢栄一”と言われた松本重太郎。関西実業界の帝王として名をはせた彼だったが、その後、倒産で私財をことごとく手放すことになる。常に走りつづけた男の、潔い生涯と、次の世代に受け継がれたその精神を描いた傑作長篇。
「半どのに、会いとうて、ここへ来た…」はじめて女の体を教えてくれた於蝶と再会した半四郎。二人の忍びの交わりは戦場に熱く燃える。が、ただ独り信長の首を付け狙う於蝶との愛撫は、立場の違う半四郎の運命を変えてゆく。信長の小谷城攻めのさなか、決死の忍び働きに出た二人はかつての味方に包囲され散り散りになるが…。
於蝶とともに信長の本陣を襲ったあの夜、半四郎は織田軍の中を必死に逃げのびた。五年余、かつて自分を弟のように扱ってくれた鳥居強右衛門にめぐりあい、織田・徳川の前衛として孤立した長篠城に立て篭る。信長を討つことに執念を燃やす於蝶はどこかで生きているのだろうか。於蝶の悲願も空しく、天正六年、安土城は完成した。
信長の対抗勢力は次第に駆逐されつつある。於蝶の胸に密かな決心が湧きあがった。高遠攻めの本陣で、信長の長男、信忠はふとめざめた。(女忍びか…おれの寝首を掻きに来た)一瞬、於蝶の呼吸はおもわずゆるんだ。織田信忠は類い稀な美貌であった。信忠の手が於蝶の下着にふれる…。天下動乱をよそに女忍びの血はせつなく騒いだ。
戦争文学の「幻の名作」として本篇ほど長く文庫化が待望された作品はない。中国雲南の玉砕戦から奇跡の生還をし、郷里で老いてゆく二人の兵士。戦争とは何か。そして国家とは?答えられぬ問いを反復し、日々風化する記憶を紡ぎ、生と死のかたちを静謐に語る。この稀有な作家でなければ到達しえなかった清澄な文学世界である。
無類の刀好きだった秀吉は膨大な量の名刀を収集していたが、中に「にっかり」という不思議な名と由来をもつ一腰があったー。古来、刀は武器としてのみならず邪を祓い、身を守護すると信じられた。ゆえに、武将たちは己の佩刀に強いこだわりを抱いた。知将、猛将と謳われた武人たちと名刀との不思議な縁を描く傑作短篇集。
調首子麻呂は百済からの渡来系調氏の子孫。文武に優れ、十八歳で廏戸皇太子(聖徳太子)の舎人になった。完成間近の奈良・斑鳩宮に遷った廏戸皇太子に、都を騒がす輩や謀叛人を取り締まるよう命じられた子麻呂は、秦造河勝や魚足らとともに早速仕事に取りかかるが、その矢先、何者かが子麻呂の命を狙う。
昭和十年に始まった芥川賞が百一回を迎えたのは、日本近代文学の流れによりそうかのように、奇しくも時代が昭和から平成へと移ったときでした。第百回までの全受賞作を収録して好評を博した第一期・第二期十四巻に引き続き、文芸春秋八十周年記念出版として刊行される芥川賞全集第三期五巻は、新時代の文学の息吹を生き生きと伝える第百二十五回までの受賞作二十九篇を収録、既刊同様、選評、受賞者のことば、自筆年譜を併載しています。
「あのう、ホテルであなたの免許証を拾った者ですけど…」会社のデスクにかかってきた見知らぬ女性からの電話。謝礼はいらない、できれば顔をあわさずに返したいという奇妙な申し出の顛末は…表題作など、読者から送られた小さな新聞記事をヒントに作られた都会派ミステリー9篇。人気シリーズ第2弾。
軍人としては陸軍大将、政治家としては実に三度も首相の座についた桂太郎。激動の明治時代を生きたこの武人宰相は妥協と忍従の姿勢の陰で、癌研究会、日本赤十字社、そして拓殖大学の創立に尽力、「新生日本」のための布石を次々に打っていたー。「ニコポン首相」と呼ばれた男の知られざる豪胆さを描く。
35歳になった男は義理の妹の媚態が頭から離れない。若い母親は仕組まれた売春の罠に堕ち、青年はSMクラブに足繁く通うようになる…。些細なきっかけで異常な性の世界にはまった者たちが、苦悩と快楽、そして絶望の果てに見るものは?日常に潜む背徳の姿を残酷なまでに描ききった異色作品を4編収録。
「アロエが、切らないで、って言ってるの。」ひとり暮らしだった祖母は死の直前、そう言った。植物の生命と交感しあう優しさの持ち主だった祖母から「私」が受け継いだ力を描く「みどりのゆび」など。日常に慣れることで忘れていた、ささやかだけれど、とても大切な感情ー心と体、風景までもがひとつになって癒される13篇を収録。
「私の赤ちゃんを返して!」誘拐された子供を求めて妻は出奔した…やがて子供は戻されたが、妻は行方をくらましたまま。その20年後、写真週刊誌に載った1枚の写真がきっかけで、怨念と狂気に染まった女と男たちが、ある一点をめざして急激に動きだす。そこに用意された誰も予期しえない衝撃の結末とは。
飲料会社宣伝部課長・堀江はある日、会長・石崎から人命救助の場面を偶然写したというビデオテープを渡され、これを広告に使えないかと打診されるが、それがCG合成である事を見抜き、指摘する。その夜、会長は自殺した!!堀江は20年前に石崎から受けたある恩に報いるため、その死の謎を解明すべく動き出すが…。
殺人の咎を逃れるため、修道院兼教護院に身を寄せている青年・朧。暴力と性の衝動の中で、自分の倫理を構築しようとする朧は、ある日施設を辞めた元修道士の赤羽をひそかに訪ねる。朧の傍らには妊娠したシスターの姿が…。芥川賞を受賞した『ゲルマニウムの夜』の続編、『王国記』シリーズ第二弾の待望の文庫化。
お臍の整形手術を娘にせがまれた母親。女性の膝に異常に興奮する中年サラリーマン。頭髪を気にして怪しい育毛剤に手を出した青年。「アヒルのようなお尻」と言われた女子高校生。顎を殴ることに魅入られたプータロー。日常が一瞬にして非日常に激変する「怖さ」を描いた新感覚ホラー小説集。