出版社 : 文藝春秋
妻子を得て春陰にたたずむ望の胸中には、焦燥あるばかりであった。周公を中心に諸侯は策謀しつつある。しかし独り時代の先を視る望の苛烈な生は、人知れぬ哀しみにみちていた。ひとは己れを超えねばならぬ、あたかも小魚が虹桟を渡り竜と化するように。利に争うものは敗れ、怨みに争うものは勝つ、そしてそれを超えるとは。
ひとを神々に贄として捧げる、そんないまわしい時代は去らしめねばならぬ。諸侯の協力を得て、周公を獄から救いだした望は、さらに機略を尽し周召同盟を成立させる。ここに叛意はととのった、宿望の日である。決戦の朝、牧野は清々しく晴れていた。未到の時空の光と風を甦らせる宮城谷文学の金字塔、完結篇。
愛する妻や家族への想いを断ち切り、北朝鮮の最高幹部・黄長〓@57F6@は韓国亡命の道を選んだ。何百万の人民を餓死させながら戦争ゲームにうつつをぬかす独裁者・金正日を倒すために。長年、金日成・正日父子の身近で働いてきた著者が見た独裁者の正体や奥の院での暗闇、圧政に苦しむ人民の救出策などを明かした衝撃のベストセラー。
「私は拳銃を構える。恐怖にひきつった顔を思い描くだけで、胸のもやもやが晴れていく」-。久しぶりの同窓会で、歌舞伎町に流れ、家出少女から受け取った包みの中身はなんと拳銃。なぜか主婦は警察に届けない。日常に倦んだ市井の人々を狂気に変えていくコルトの魔力。巧みな構成で魅了する連作短篇集。
作詞家として活躍する著者のもとへ、十六年間絶縁状態だった兄の死の報せが届いたー。胸中によみがえる兄の姿。敗戦後に故郷小樽で再会した復員帰りの兄は、どこか人が変っていた。以来、破滅的に生きる兄に翻弄され、苦渋を強いられた弟が、兄の実像と兄弟のどうしようもない絆を、哀切の念をこめて描いた記念碑的傑作。
高瀬舟で江戸に戻る途上で米屋の主人が変死を遂げた。折しも古河藩から迎えた養子と娘の祝言が決まった矢先の出来事だった。東吾が探っていくうちに、主人の懐に百両もの大金が残されていたことが判明。果たして何のための金だったのかー。東吾の推理が冴えわたる表題作ほか「伝通院の僧」「名月や」「紅葉散る」など全八篇。
十三世紀、ユーラシア大陸を席捲したモンゴル軍が占領したペルシャ高原のとある街。モンゴルの将軍とその命を狙うペルシャ人との暗闘を描いた「ペルシャの幻術師」(昭和三十一年、第八回講談倶楽部賞受賞)は司馬氏の幻のデビュー作で、文庫初登場である。同じく文庫初収録の「兜率天の巡礼」等、全八篇の短篇集。
脳に障害をもつ由希が奏でる超人的チェロの調べ。指導を頼まれ、施設を訪れた東野はその才能に圧倒される。名演奏を自在に再現してみせる由希に足りないもの、それは「自分の音」だった。彼女の音に魂を吹き込もうとする東野の周りで相次ぐ不可解な事件。「天上の音楽」にすべてを捧げる二人の行着く果ては…。
「私」はアパートの一室でモツを串に刺し続けた。向いの部屋に住む女の背中一面には、迦陵頻伽の刺青があった。ある日、女は私の部屋の戸を開けた。「うちを連れて逃げてッ」-。圧倒的な小説作りの巧みさと見事な文章で、底辺に住む人々の情念を描き切る。直木賞受賞で文壇を騒然とさせた話題作。
同心大島勇五郎の動静に不審を感じた平蔵が、自ら果敢な行動力で兇盗の跳梁を制する「春の淡雪」、探索方から勘定方に戻されて腐っていた細川峯太郎が非番の日に手柄を立て、ふたたび探索方に立てられるまでを描く「泣き男」など、部下への思いやりをしみじみと写し出して“仏の平蔵”の慈愛溢れる六篇。ファンに贈るこの一冊。
昭和20年7月16日、110余名の乗員と人間魚雷回天を乗せた伊五八潜水艦が呉軍港を出港した。フィリピン東方を通過する敵艦船をグアムーレイテ線上で撃沈せよとの特命を受けた倉本艦長は、宿敵マックベイ大佐と太平洋戦争における艦艇同士の最後の闘いに挑むー。全く新しい戦争サスペンスの誕生。
三十二歳のヒロイン、水越麻也子は、結婚六年目の夫に不満を抱き、昔の恋人野村と不倫の逢瀬を重ねていた。だが歳下の情熱的な音楽評論家、通彦との恋愛で、麻也子は大きな決断を迫られることになる…。「不倫」という男女の愛情の虚実を醒めた視点で描いて一大社会現象を巻き起こし、TV・映画化された、恋愛小説の最高峰。
戦死した兄の思い出を辿るうち、胸に呼び起こされたある不幸な事故の記憶。過去に埋もれた出来事を追い求める表題作ほか、浮気調査を任された大学生が意外な現実を目の当たりにする「尾行」、夫と子を捨てて別の男と失踪した娘を連れ戻しに行く「父親の旅」など、人生の一瞬の揺らぎを捉えた十二の傑作短編集。
不倫を清算し会社を辞めた紗季は、夜の公園で男の死体と「不思議の国のアリス」のウサギを見る。果たして幻覚か?引越したマンションで、隣人の老婦人のお節介に悩む紗季に元不倫相手が自殺したという知らせが。一方「アリス」をモチーフにした奇妙なメッセージによって、十五年前のある事件の記憶が蘇る。
ノンフィクション作家・五十嵐友也のもとに届けられた一通の手紙。それは連続婦女暴行魔として拘置中の河原輝男が冤罪を主張し、助力を求めるものだった。しかし自らの婚約者を犯人に殺された五十嵐にとって、それはとても素直に受け取れるものではない。河原の他に真犯人がいるのだろうか。謎のまた謎の千枚。
丑の刻、貴船神社に夜毎現われる白装束の女が鬼となって、自分を捨てた男を取り殺そうとする。そんな男の窮地を救うため、安倍晴明と源博雅が目にしたものは!?女の悲しい性を描いた「鉄輪」他、全七篇。百鬼夜行の平安時代。魍魎たちに立ち向かう若き晴明と博雅の胸のすく活躍、魅惑の伝奇ロマンシリーズ第三弾。
十年間堪え忍んだ夫との生活を捨て家政婦になった主婦。囚われた思いから抜け出して初めて見えた風景とは。表題作ほか、劇作家にファンレターを送り続ける生物教師の“恋”を描いた「虫卵の配列」、荒廃した庭に異常に魅かれる男を主人公にした「月下の楽園」など全六篇。魂の渇きと孤独を鋭く抉り出した短篇集。
大学の心理学科に通う「僕」は、ひょんなことから自閉的な少女・下路マリの家庭教師を引き受けることになる。「僕」は彼女の心の病を治すため、異空間にワープしたダックスフントの物語を話し始める。彼女は徐々にそのストーリーに興味を持ち、日々の対話を経て症状は快方に向かっていったが…。表題作ほか三篇。