出版社 : 文藝春秋
大人になる途中で、私たちが取りこぼし、忘れてしまったものは、どうなるんだろうーー。封じられた時間のなかに取り残されたあの子は、どこへ行ってしまったんだろう。 かつてカルトと批判された〈ミライの学校〉の敷地から発見された子どもの白骨死体。弁護士の法子は、遺体が自分の知る少女のものではないかと胸騒ぎをおぼえる。小学生の頃に参加した〈ミライの学校〉の夏合宿。そこには自主性を育てるために親と離れて共同生活を送る子どもたちがいて、学校ではうまくやれない法子も、合宿では「ずっと友達」と言ってくれる少女に出会えたのだった。もし、あの子が死んでいたのだとしたら……。 30年前の記憶の扉が開き、幼い日の友情と罪があふれだす。 圧巻の最終章に涙が込み上げる、辻村深月の新たなる代表作。
女性職人を主人公としたシリーズ、好評の第3弾! 文政十二年夏。大火は江戸を焼き尽くしたが、照降町の人びとは復興に向け動き出し、佳乃の発案した船を店に仕立てて履物を売る「船商い」は大繁盛した。一方、花魁道中で履く三枚歯の下駄の制作を佳乃に託していた梅花は、秘めた想いを佳乃に語ったーー。
サン=テグジュペリは、作家であり、飛行士だった。ナチスドイツによってパリが占領され、アメリカへ亡命した彼は、ドゥ・ゴール派にもヴィシー派にも与しなかったため、亡命フランス人たちの間で批判を浴びる。そんな葛藤の時期に描かれたのが、「小さな王子」(邦題「星の王子さま」)だった。そして、念願の戦線復帰が叶い、再び飛行機に乗ることに。武器は積まず、自分が傷つけられる危険だけ背負いながら戦う偵察飛行を繰り返すがー空への憧憬、友情、愛、時代に翻弄される苦悩。サン=テグジュペリの半生を鮮烈に描く傑作長編小説。
『マチネの終わりに』『ある男』と、ヒットを連発する平野啓一郎の最新作。 舞台は、「自由死」が合法化された近未来の日本。最新技術を使い、生前そっくりの母を再生させた息子は、「自由死」を望んだ母の、<本心>を探ろうとする。 母の友人だった女性、かつて交際関係にあった老作家…。それらの人たちから語られる、まったく知らなかった母のもう一つの顔。 さらには、母が自分に隠していた衝撃の事実を知るーー。 ミステリー的な手法を使いながらも、「死の自己決定」「貧困」「社会の分断」といった、現代人がこれから直面する課題を浮き彫りにし、愛と幸福の真実を問いかける平野文学の到達点。 読書の醍醐味を味わわせてくれる本格派小説です。
『その女アレックス』で世界中を驚愕させた鬼才ルメートル、 まさに極上の心理サスペンス。 あの日、あの森で少年は死んだ。 --僕が殺した。 母とともに小さな村に暮らす十二歳の少年アントワーヌは、隣家の六歳の男の子を殺した。森の中にアントワーヌが作ったツリーハウスの下で。殺すつもりなんてなかった。いつも一緒に遊んでいた犬が死んでしまったことと、心の中に積み重なってきた孤独と失望とが、一瞬の激情になっただけだった。でも幼い子供は死んでしまった。 死体を隠して家に戻ったアントワーヌ。だが子供の失踪に村は揺れる。警察もメディアもやってくる。やがてあの森の捜索がはじまるだろう。そしてアントワーヌは気づいた。いつも身につけていた腕時計がなくなっていることに。もしあれが死体とともに見つかってしまったら……。 じわりじわりとアントワーヌに恐怖が迫る。十二歳の利発な少年による完全犯罪は成るのか? 殺人の朝から、村に嵐がやってくるまでの三日間ーーその代償がアントワーヌの人生を狂わせる。『その女アレックス』『監禁面接』などのミステリーで世界的人気を誇り、フランス最大の文学賞ゴンクール賞を受賞した鬼才が、罪と罰と恐怖で一人の少年を追いつめる。先読み不可能、鋭すぎる筆致で描く犯罪文学の傑作。
銀座の高級クラブで放火事件が発生。オーナーと容疑者の女が命を失った。警視庁捜査一課の刑事・滝上亮司が、捜査を進めると、背後に政治家である父の存在が浮かび上がってきた。かつて父を憎み、故郷を捨てた刑事は、封印した「汚れた過去」と向き合わざるを得なくなる。この事件は、父を失墜させるのか、自らの破滅を招くのか。
台湾発、私立探偵小説の新たなる傑作が登場! 監視カメラの網の目をかいくぐり、殺人を続ける犯人の正体は? 劇作家で大学教授でもある呉誠(ウーチェン)は若い頃からパニック障害と鬱に悩まされてきた。ある日、日頃の鬱憤が爆発して酒席で出席者全員を辛辣に罵倒してしまう。恥じ入った呉誠は芝居も教職もなげうって台北の裏路地・臥龍街に隠棲し、私立探偵の看板を掲げることに。 にわか仕立ての素人探偵は、やがて台北中を震撼させる六張犂(リョウチャンリ)連続殺人事件に巻き込まれ、警察から犯人と疑われる羽目に陥る。呉誠は己の冤罪をはらすため、自分の力で真犯人を見つけ出すことを誓う。 監視カメラが路地の隅々まで設置された台北で次々と殺人を行う謎のシリアルキラー〈六張犂の殺人鬼〉の正体は? 探偵VS犯人のスリリングなストーリー展開と、ハードボイルド小説から受け継いだシニカルなモノローグ、台湾らしい丁々発止の会話。 台湾を代表する劇作家が満を持して放った初めての小説は台湾で話題を呼び、台北国際ブックフェア大賞を受賞したほか、フランス、イタリア、トルコ、韓国、タイ、中国語簡体字版が刊行された。
不世出の絵師、河鍋暁斎が死んだ。残された娘のとよ(暁翠)に対し、腹違いの兄・周三郎は事あるごとに難癖をつけてくる。早くから養子に出されたことを逆恨みしているのかもしれない。暁斎の死によって、これまで河鍋家の中で辛うじて保たれていた均衡が崩れた。兄が河鍋の家を継ぐ気がないのは明白であった。弟の記六は根無し草のような生活にどっぷりつかっていて頼りなく、妹のきくは病弱で長くは生きられそうもない。河鍋一門の行末はとよの双肩にかかっているのだったがー。父の影に翻弄され、明治から大正を駆け抜けた女絵師の一代記。
夫は銀行員、妻は大使館職員を務める傍ら、私塾を立ち上げ日本人子女を週二日教える。二人は異国の風土に溶け込みながら、日本の文化を大切に日々を過ごすー沖縄で出会い、アメリカに渡り四〇年。帰国して悠々自適となる直前、最愛の妻が突然帰らぬ人に。夫婦の清冽な半世紀の足跡を記す私小説。
文政十二年三月。神田佐久間町の材木置き場で、小さな火がくすぶり始めた。やがてそれは、「己丑の大火」となって江戸の町を襲う。 鼻緒挿げの女職人・佳乃と弟子の浪人・周五郎は、照降町の象徴であり神木の老梅を猛火から守り抜こうと、夜を徹して決死の行動に出るーー。 著者初、江戸の女職人を主人公とする書き下ろしシリーズ第2巻!
人気キャラクターたちの秘められた過去や、知られざる思い。本編では描かれることのなかった珠玉のエピソード。 「オール讀物」に掲載された「あきのあやぎぬ」「ふゆのことら」「なつのゆうばえ」「はるのとこやみ」「ちはやのだんまり」「おにびさく」のほか、「かれのおとない」、さらに書下ろしを加えた全8編を収録。
一人の男が「20年の眠り」から目覚めた。北海道の将来を担う若手頭取と期待された松崎公平は、かつてバブル崩壊の責任を取る形で収監された。社会に絶望した松崎は、元NASA研究員による、人間を長期の睡眠状態にする「コールドスリープ」実験の対象となることを買って出た。目覚めると、頼りにしていた元秘書が、石北本線「オホーツク1号」に乗って消え、財界仲間も次々と殺害されていった。
★篠田節子の魅力全開! 心躍るロードノベル3篇 実家の農家を飛び出した女性 リタイヤした元企業戦士 夫に先立たれた介護士ーー それぞれ秘めた思いを抱いて トラブル連発のロングドライブへ 【収録作】 「田舎のポルシェ」…実家の米を引き取るため大型台風が迫る中、強面ヤンキーの運転する軽トラで東京を目指す女性。波乱だらけの強行軍。 「ボルボ」…不本意な形で大企業勤務の肩書を失った二人の男性が意気投合、廃車寸前のボルボで北海道へ旅行することになったがーー。 「ロケバスアリア」…「憧れの歌手が歌った会場に立ちたい」。女性の願いを叶えるため、コロナで一変した日本をロケバスが走る。
文庫書き下ろしの雄・佐伯作品の新シリーズが単行本で登場! 文政11年暮れ。日本橋のほど近く、傘屋や下駄問屋が多く集まる町・照降町に「鼻緒屋」の娘・佳乃が出戻ってきた。佳乃は3年前、男と駆け落ちしていたのだ。 父は病に伏し、見習いとして浪人の八頭司周五郎を受け入れていた。 町の人びとの人情に触れ、佳乃は女職人として鼻緒挿げの腕を磨く決意をするが、そこへあの男が追ってくるーー。 著者初・江戸の女性職人が主人公の書下ろし新シリーズ〈照降町四季〉全4巻、文庫版と電子書籍も同時発売で4ヶ月連続刊行!
人の運命を踏みにじろうとする本当の敵は誰か? 峠で茶屋の給仕をする娘・小鼓は、ある日すべてを失うことになる。 都から来た高僧・青蓮院義圓(のちの義教)が、故郷坂本の町を焼き払ったのだ。 義圓は小鼓の父を追って、坂本までやってきたらしい。 なぜしがない足軽にすぎない父の命が狙われるのか? しかも父は「良兼」という小鼓の知らぬ名前で呼ばれていた。 義圓が父に向って刀を振り下ろす寸前、小鼓は父の前に飛び出したーー。 その後の意識は小鼓にはない。 目を覚ました小鼓は、左の肩から先を失っていた。あのとき腕を切り落とされてしまったのだ。 なぜ私が腕を失わなければならなかったのか? 父親は何者なのか? この腕でどうやって生きていけばいいのか。 小鼓は、突如としてこの世の理不尽の渦に巻き込まれることになる。 だが、途方に暮れる小鼓が生き残る道を探る中で、父に手ほどきされた軍略の才能が自らにあることに気づく。 そうだ、誰も助けてくれないのなら、私は与えられたこの「力」で私を助ける! 小鼓は自らの力で戦場を渡り歩きながら父の謎を追い、そしてその謎の解明が、義圓への復讐心を育てていく……。 デビュー作『虎の牙』で歴史時代作家クラブ新人賞を受賞した気鋭の書き手が放つ、渾身の書き下ろし長編。
平穏な町フリントシティで少年の惨殺死体が発見された。だが刑事ラルフの目に、真相は明白だった。数々の目撃証言がハイスクールの教師であり少年野球のコーチであるテリーが犯人だと指し示していた。ラルフは彼が犯人と断定、野球の試合のさなか、衆人環視のもとで逮舗する。テリーは否認を続けるも、逮捕の一幕を目にした町の人々は殺人犯への怒りと憎しみを燃やし、テリーの妻と娘たちにも冷たい目が注がれはじめた。そのとき衝撃的な事実がもたらされる。事件があった夜、テリーは同僚の教師たちと遠い町での講演会に出席しており、それを裏づける動画も発見されたのだ。一人の人間が二つの場所に同時に存在した?そんなことはありえない。だが、テリーがあんな残虐な事件を起こすだろうか?とまどうラルフ刑事をよそに、町民はテリーを町の歴史はじまって以来の異常殺人犯とみなし、新たなる悲劇へのカウントダウンがー。恐るべき緊迫感がページを繰るたび高まってゆく。矛盾する証拠が心優しい教師テリーを追いこんでゆく。読む者の心を不安と恐怖で締めつける前半。この不可能犯罪の背後に何が隠れているのか?恐怖の帝王が容赦ないスピード感で物語を臨界点に向けて疾走させてゆく!
裁判所の悲劇で惨殺事件は幕を閉じた。しかしラルフの気持ちは晴れない。あの日にテリーが遠い町にいたことは証拠が示していた。ならば犯行当夜にテリーを見たという証言は何だったのか。血まみれの服で目撃者と言葉を交わしたのはテリーではなかったというのか?ラルフは別の署の刑事ユネルと探偵のホリーの手を借りて、密かに再調査を開始する。新たな証拠、新たな証言が、新たな不可解をつぎつぎにラルフに突きつける。そしてついに、彼らは同じような事件が過去に複数起きていたことを突き止める。同様の惨殺事件。無数の証拠が指し示す「犯人」。しかし逮捕された容疑者は犯行を否認する…。テリーだけではなかったのか。テリーの幼い娘の前にあらわれた「目の代わりに藁がついている男」は現実のものなのか?ユネルが言う、メキシコの伝承に「エル・クーコ」というのがいる、それは黒い袋を持った黒い男、子供を犠牲にする悪鬼ーついに恐怖があふれだす。アウトサイダー。エル・クーコ。そいつはまた子供を殺すだろう。その正体を知るのはラルフたちしかいない。読む者の心を苛む恐怖と、それに戦いを挑む勇気。『呪われた町』『IT』などの初期に回帰したかのごとく巨匠がフルスロットルで描き出すノンストップ・モダン・ホラーの登場。