出版社 : 文藝春秋
終戦前後、日本人少女と中国人親子の交流を清冽に描き上げた加藤幸子氏の「夢の壁」。現実の事件を引金に自由な劇的空間を遊泳する唐十郎氏の「佐川君からの手紙」。無気力な弟を追憶しつつ生の儚さを追究した笠原淳氏の「杢二の世界」。非行に染まる女子高生に近づく優良女生徒の友情を通して揺るぎない人間観を明示した高樹のぶ子氏の「光抱く友よ」。診療を一切拒否して癌にたおれる叔母への心の揺れを丹念に追った木崎さと子氏の「青桐」。第88回ー第93回受賞作。
もえ、こがれ、そして…自らの求めのまま、ひとを恋し愛し、墜ちながらなお輝きつづける女・羽季子。許されぬ恋にはしる一人の女の、性のものぐるおしさと切実な生き方を、玄海灘の波よせる壱岐の四季の中に描く問題の恋愛小説。同情、共感、そして…あなたの中の“もう一人のあなた”とめぐりあう。
貧しい殿上人の娘・六の宮の姫君は、新婚のつかの間のしあわせもむなしく、陸奥へ赴く夫と五年の約束で悲しい別れを強いられてしまったが…。『今昔物語集』を中心に、『古事記』や『お伽草子』、江戸時代の書物などに材を得て、原話の持つ自然の面白さを新鮮な語り口で描き、説話文学のおおらかなロマンを堪能させる好読物。
アルコール依存症患者のこの世のものならぬやさしさ、清らかさ。純粋な心ゆえに傷つき、苦しむ者がたどる克服へのみち。“社会の病”を魂のドラマにえがく問題の作品。他に、著者のふるさと中国東北部(満州)によせる『承徳の切り絵』『梅花鹿』を収める。
ジョギング中のルポライターが殺された。数日後、今度はその恋人が車にはねられた。事件を解くカギは、被害者がワープロで書いた消えゆく急行同乗ルポにあると思われた。
1983年8月のある朝、ラングレーのCIA本部にモスクワから緊急報が入った。ソ連の最新型原潜を設計した科学者がアメリカ亡命を望んでいるとの秘密情報だ。CIAはただちに危機対策本部を設けるが、一方ソ連では…。KAL007便撃墜までの意外な経緯と展開。迫真性が話題の国際サスペンス。
セヴェロドヴィンスクからモスクワへ、モスクワからイルクーツクへ、そしてシベリア鉄道で一路東…。息づまる追跡行のはてに、あの運命の瞬間が用意されていようとは!すべては“そのとき”に向かって収斂する。CIA、KGB、GRUの虚々実々の駆け引き。
清流とゆたかな木立にかこまれた城下組屋敷。普請組跡とり牧文四郎は剣の修業に余念ない。淡い恋、友情、そして非運と忍苦。苛烈な運命に翻弄されつつ成長してゆく少年藩士の姿を、精気溢れる文章で描きだす待望久しい長篇傑作!
軽輩の子・桑山又左衛門は家老職につくが、栄耀とはまた孤独な泥の道にほかならなかった。ある日、かつての同門野瀬市之丞から果し状が来る。運命の非情な饗宴を描く長篇。(皆川博子)
かつての軽輩の子は、家老職を占めるに至る。栄耀きわめたとはいえ、執政とは孤独な泥の道である。策謀と収賄。権力に近づいて腐り果てるのがおぬしののぞみか、市之丞は面罵する。又左衛門の心は溟い、執政などになるから友と斬り合わねばならぬのだ。逼迫財政打開として荒地開墾の鍬はなお北へのびている。