出版社 : 文藝春秋
傷つき、悩み、惑う人びとに寄り添っていたのは、一匹の犬だったーー。 2011年秋、仙台。震災で職を失った和正は、認知症の母とその母を介護する姉の生活を支えようと、犯罪まがいの仕事をしていた。ある日和正は、コンビニで、ガリガリに痩せた野良犬を拾う。多聞という名らしいその犬は賢く、和正はすぐに魅了された。その直後、和正はさらにギャラのいい窃盗団の運転手役の仕事を依頼され、金のために引き受けることに。そして多聞を同行させると仕事はうまくいき、多聞は和正の「守り神」になった。だが、多聞はいつもなぜか南の方角に顔を向けていた。多聞は何を求め、どこに行こうとしているのか…… 犬を愛するすべての人に捧げる感涙作!
インパール作戦で多数の戦友を失った男が戦後にとった行動とは?(『暴力計画』)。死に直面する作家が自在なリズムで自己と対話する(『-ある奇妙な小説ー老惨』)。末期患者と看護人の間に芽生えた奇妙な友情(『死者との対話』)。ある少女を襲った残酷な運命(『いつ死なせますか』)。切れ味の鋭い掌編の連打(『噂の八話』)。「これは私の一生を通じて唯一の私小説だ」(『死線を超えて』)。ヨットレースを引退した男の胸に去来するものは(『ハーバーの桟橋での会話』)。齢87を迎え、死と直面する自らをも捉える作家の冷徹な眼ー珠玉の七編。
比叡山のふもとに建つ豪奢な比丘尼御所。二人の皇女を中心に公家文化が息づくこの寺に、それぞれの苦しみを抱えて逃げてくる者たちがいた。古い友人から借金をして逃げた老女。非の打ちどころのない縁談から逃げる若者。妻子を捨てて出奔した武士。幼子を寺の前に捨てる老夫婦。「僧尼とは古来、いたいたしい者を助け、手を差し伸べるが勤め」心があたたかくほどける連作短編集。
【不世出の天才・初代市川團十郎、空前の一代記】 なぜ江戸の民衆は團十郎に熱狂したのか。 團十郎が命をかけた〈荒事〉とは何か。 そして、なぜ舞台上で命を落としたのか。 元禄時代から現在まで常に歌舞伎界に君臨し続けた 大名跡・市川團十郎、そのはじまりの物語。 ●あらすじ 寛文7年(1667)、浪人の娘・恵以はひとりの少年と出会う。 子どもながらに柄の悪い侠客たちに囲まれ、 芝居に出れば大暴れして舞台を滅茶苦茶にする破天荒さに呆れながらも、 恵以は自然と人の注目を集める彼の素質に気づく。 少年の名は海老蔵。 長じて市川團十郎を名乗り、〈荒事〉の追求の果てに 江戸の民衆から信仰にも近い人気を集め、 劇作家としても今なお愛される名演目や斬新な演出を 次々と生み出した不世出の天才。 彼が命をかけた〈荒事〉とは何だったのか、 そして、なぜ舞台上で命を落とすこととなったのか。 謎多き初代市川團十郎の波乱万丈の生涯を、 元禄の狂乱と江戸歌舞伎の胎動とともに描く 空前の一代記がここに誕生!
ナチス・ドイツによる絶滅戦争=ソ連侵攻を控えた1941年5月10日、ヒトラーの代理人といわれたヘスは単身メッサーシュミットを操り、スコットランドをめざしてミュンヘンを飛び立った。イギリスとの講和工作のために。しかし、それを知ったヒトラーは激怒し、チャーチルはとりあわなかった。世界は破滅へ向かって動きはじめる…。「わたし」という主語がない奇妙な手記が綴るルドルフ・ヘス(1894〜1987)の生涯。構想20年、同じ時代に生きあわせた証しとして書き上げた、吉田喜重監督渾身の長編小説!
ヘルシンキ五輪(1952年)に派遣された無頼派の人気アナウンサー和田信賢は、長年の無理がたたって心身ともにボロボロの状態だった。現地から「日本」を鼓舞する中継を懸命に続けるも、次第に目も見えなくなり…。
東京オリンピックを控え、警視庁の十津川警部は、警備計画について、連日、討議を重ねていた。十津川は、かつて、直前に返上となった「幻の東京オリンピック」に着目する。失敗の研究過程で、ある黒幕の存在が浮上する。昭和十五年の五輪開催を控え、東京市の五輪宣伝担当・古賀は、国際関係の悪化に悩みつつも、日中戦争停戦を画策する石原莞爾と協力し、アメリカ大統領と交渉するため、海を渡った。1940年の「幻のオリンピック」失敗の研究過程で浮上した謎とは!
誰かに食べさせたい。願いがかなって杉の木に転生した亜沙は、わりばしになって若者と出会う(「木になった亜沙」)。どんぐりも、ドッジボールも、なぜだか七未には当たらない。「ナナちゃんがんばれ、あたればおわる」と、みなは応援してくれるのだが(「的になった七未」)。夜の商店街で出会った男が連れていってくれたのは、お母さんの家だった。でも、どうやら「本当のお母さん」ではないようで…(「ある夜の思い出」)。『むらさきのスカートの女』で芥川賞を受賞した気鋭の作家による、奇妙で不穏で純粋な三つの愛の物語。
司馬遼太郎による国民的ベストセラー、映像化に合わせて待望の新装版刊行。 俺は今日から武士になるーー。 佐幕派と倒幕派が対立する幕末の激動期。 武州多摩のバラガキだった土方歳三は、近藤勇、沖田総司らとともに、 幕府徴募の浪士組にまじって、京へ向かう。 京都守護職御預の名のもと、「新選組」を結成。 副長・土方は厳しい局中法度を定め、類のない苛烈な軍事集団を創り上げ、 池田屋事件などで、世にその名を轟かせていくーー。 しかし、薩長同盟成立で、時流は一気に倒幕へ。 土方は最後まで激しく抵抗、夢と信念を貫き、江戸、会津、箱館へ向かう。 稀代の男の生涯を巧みな物語展開で描いた、傑作長編。 〈名著が一冊で読める、大変お得な決定版!〉 司馬さんによる「あとがき」、原田眞人監督による特別寄稿「そびえ立つ歴史的遺産『燃えよ剣』を映画化して」を収録。
「夜の記憶」-『十三番目の人格ーISOLA-』『黒い家』の本格デビュー前に書かれた貴重な一編。貴志祐介ワールドの原点!「呪文」-『新世界より』の刊行後ほどなくいて発表された短編。惑星「まほろば」で何かが起きている…。「罪人の選択」-「罪人」の前に出されたのは、一升瓶と缶詰。一方には猛毒が入っている。果たして正解は?「赤い雨」-新参生物のチミドロによって、地球は赤く蹂躙された。スラム出身の瑞樹はRAINの治療法を探る。最新SF!
「僕の名前はポール」-再開発計画に揺れる駅前ビルに突如現れたのは、一匹の喋るクマネズミ!市議会議員の浦田さんの助けを得ながら、欲望うずまく人間たちの世界に飛び込んでいく。ついには、堂々市議会に登場し、大演説をぶつことに。マスコミも巻き込んだ騒動は、はたしてどのような結末を見ることになるのか?芥川賞作家が新境地に挑んだ仰天寓話小説!
「横道世之介」(柴田錬三郎賞)、「長崎乱楽坂」、「自伝小説」(書き下ろし完結篇)など。「一緒に変わろうぜ。もう昔の自分なんて忘れてさ」(「横道世之介」より)いまを生きる人気作家の全9作品。愛蔵版コレクション、ついに完結!
江戸を壊し“東京”を建てねばこの国はほろびるー留学から帰国した辰野金吾は、瓦屋根がぺたりと広がる町並みを眺め焦燥に駆られる。建物と風景が近代国家を支えると信じた日本人初“建築家”の熱い生涯!
結婚して五年、定職にもつかず浮気と借金を繰り返す夫に絶望した絵乃は、身ひとつで家を飛び出し、離縁の調停を得意とする公事宿「狸穴屋」に流れ着く。夫との離縁を望むも依頼できるだけの金を持たない彼女は、女将の機転で狸穴屋の手代として働くことに。果たして絵乃は一筋縄ではいかない依頼を解決しながら、念願の離縁を果たすことができるのか!?
この主人公、バカだろ。あなたはそう思うかもしれない。でもやがて途方もない悲しみが湧きあがり、あなたの心をかき乱す。これはそういう小説です。スタッカートする荒い文体と会話ー戦争とドラッグと犯罪。破滅するしかなかった青年を痛ましく描き出す犯罪文学。