出版社 : 文藝春秋
突然はじまった学校でのいじめは、一向に止む気配がない。理由も分からないまま、夏美は14歳の誕生日を迎えた。雨の公園でいじめっ子たちに責められていた彼女に訪れた、ある転機とは…。(表題作「誕生日の雨傘」)ままならない毎日に、それでも前を向く勇気を与えてくれる、お守りのような小説集。
天賦の作詞作曲の才に恵まれた福田葵。幼馴染と組んだバンドが、とうとう大手レコード会社の目に留まった。プロデューサーの条件を受け入れた葵はー。バンドのデビューのために幼馴染を外すことを選んだ。その瞬間から音楽の神は葵にますます愛を注ぎ始め、-あるいは天罰を下す。
ベテラン騎手の元春は、6年ぶりにG1レースで優勝する。馬主との喧嘩別れや減量苦を経ての復活だった。しかしネットで誹謗中傷され、それを書き込んだと思われる亡き後輩の妻を訪ねると、その夜、彼女はマンションから転落死する。ほぼ同時刻、元春は自宅で車の盗難未遂にあい、さらに数日後には空き巣に入られた。自分はいったい何に巻き込まれているのか?そして彼女の死は事故か、自殺か、あるいは殺人なのかー。
エリート棋士の父を持つ京介と、落ちこぼれ女流棋士の息子・千明。二人の“天才”少年は、またたく間に奨励会の階段を駆け上がる。期待を背負い、プロ棋士を目指す彼らに、出生時に取り違えられていたかもしれない疑惑が持ち上がり…運命と闘う勝負師たちの物語。
異国情緒あふれる新大久保に構える「道明寺探偵屋」。真田紅は、事務所に飛び込んできた少女ハイタカにボディガードを依頼される。同じ頃、相棒の黒川橡は公安の追う偽札事件に巻きこまれ…やがて、2つの事件は重なり始める。
草原に額縁を立て、その中で演手たちが鮮やかな物語を繰り広げるー。遊牧の民アゴールは、その伝統を「生き絵」と呼んで愛していた。物語を作り、演出を手掛ける「生き絵師」のマーラは、若くして部族長たちの前で生き絵を披露する役目に大抜擢される。だが、その矢先に突然の悲劇が。“動くもの”が、全ての人々に見えなくなってしまったのだ。そんな世界で、もはやマーラの「生き絵」は無力なのか。そして、遊牧が困難になったアゴールの民の運命はー。第29回松本清張賞受賞作。
忘れられていた「ブータン」は、中学の同級生だった。アラフォーになった彼女は、出会った人たちに幸せを運んでくれている……。 せつなさに胸が熱くなる、女ともだちの物語。 いつの頃からか、私は生涯の友というものを望まなくなった。女はいっときの悩みを共有できるともだちがいればじゅうぶんなのだ……。 四十を過ぎて、そんなことを思っていた頃、伯父の介護に通っていた病院の玄関を出ようとしたら、「覚えてない? この顔」と、嬉しそうに駆け寄ってきた女性がいた。 彼女の名前は、丹野朋子さん。中学の同級生で、昔は存在感ゼロだった。ブタみたいに太っていたので、「ブータン」と呼ばれていた。 アラフォーになって再会した彼女は、ブータンという国に暮らしている人びとのように、世界一幸せ度の高い人間になるというのが、人生の目標になっていた。そして彼女は、夢を実現しているらしい。 ブータンに強引に連れられて、私は生まれて初めてカラオケボックスに行った。深呼吸するように、自分の思いを吐き出していた……。(「ブータンの歌」より) 不思議な存在感のある「ブータン」をめぐって、さまざまな女性たちの人生が交錯する。懐かしい同窓会のような物語。
その秘密文書のために父は死んだ。 世界を揺るがすほどの何が 100年前の文書に書かれているのか? 非業の死を遂げた父ーー流浪の名探偵コルター・ショウは父の遺志を継ぎ、民間諜報会社「ブラックブリッジ」の闇を追っていた。父の命を奪ったのは彼らが狙う文書「エンドゲーム・サンクション」。謎めいたコードネームのつけられた百年前の文書である。しかし、いかに重要なものであろうとも、書類ひとつに多数の人間を殺害するほどの何が書かれているというのか? 秘密に迫るコルターを待つ幾重もの罠。強大な敵に単身たちむかうコルターに手をさしのべた意外な人物。ついにコルターが手にした「エンドゲーム・サンクション」の驚愕の内容とは?『007 白紙委任状』でみせた陰謀スリラーの手腕を発揮して、名手ディーヴァーが緊迫とアクションの果てに用意した「最後の大逆転」! コルター・ショウ・シリーズ、白熱の第一期完結編。
2022年6月金城華が夫の一を刺殺。DVに耐えかねた妻が夫を殺した単純な事件として解決するはずだった。しかし、担当検事の冨永真一は不審を感じ、自ら捜査に乗り出す。ほぼ時を同じくして糸満市で自衛隊の戦闘機の墜落事故が発生。民間人が死亡したことで軍事基地が集中する沖縄では、抗議デモが巻き起こる…。かつてない臨場感で沖縄の姿を炙りだす、冨永検事シリーズ第三弾にして最高傑作!
世界中の読者を熱狂させる、村田沙耶香の最新短篇&エッセイ 「なあ、俺と、新しくカルト始めない?」 好きな言葉は「原価いくら?」で、 現実こそが正しいのだと、強く信じている永岡。 同級生から、カルト商法を始めようと誘われた彼女はーー。 信じることの危うさと切実さに痺れる8篇。 〈その他収録作〉 ★生存 65歳の時点で生きている可能性を数値化した、 「生存率」が何よりも重要視されるようになった未来の日本。 生存率「C」の私は、とうとう「野人」になることを決めた。 ★書かなかった小説 「だいたいルンバと同じくらいの便利さ」という友達の一言に後押しされて、クローンを4体買うことにした。 自分を夏子Aとし、クローンたちを夏子B、C、D、Eと呼ぶことにする。 そして5人の夏子たちの生活が始まった。 ★最後の展覧会 とある概念を持つ星を探して、1億年近く旅を続けてきたK。 彼が最後に辿り着いた星に残っていたのは、1体のロボットだけだった。 Kはロボットと「テンランカイ」を開くことにする。 ほか全8篇。
宇野と女子大生・夕子が訪れた温泉街では、いたるところに、監視カメラが設置されていた。かつて娘を誘拐された町長が、家族と町民たちの安全を守るために、独断で実施している施策だった。どこにいてもカメラに見られてしまうため、町全体が不穏な空気に覆われる中、夕子は「ある秘密」に気がつく。すると今度は、殺人事件が発生して…。大好評“幽霊”シリーズ第29弾。
二〇〇四年の暮れ、北町貫多は、甚だ得意であった。同人雑誌「煉炭」に発表した小説「けがれなき酒のへど」が〈同人雑誌優秀作〉に選出され、純文学雑誌「文豪界」に転載されたのだ。これは誰から認められることもなかった三十七年の貫多の人生において味わったことのない昂揚だった。次いで、購談社の「群青」誌の蓮田という編集者から、貫多は三十枚の小説を依頼される。貫多にとって純文学雑誌に小説を発表することは、二十九歳のときから私淑してきた不遇の私小説作家・藤澤清造の“歿後弟子”たる資格を得るために必要なことであった。しかし、年が明けても小説に手を付ける気にはなれなかった。貫多に沸き起こった、恋人を得たいとの欲求が、それどころではない気持ちにさせるのだ。貫多は派遣型風俗で出会った〈おゆう〉こと川本那緒子の連絡先を首尾よく入手し、デートにこぎつける。 有頂天の貫多は子持ちの川本と所帯を持つ妄想をする。しかし、一月二十九日、恒例の「清造忌」を挙行すべく能登を訪れた貫多は、取材に来た若い新聞記者・葛山久子の、余りにも好みの容姿に一目ぼれをしてしまう。東京に戻るや否や、小説家志望の葛山に貫多は自作掲載誌を送るが、その返信はそっけないものだった。手の届く川本と脈のなさそうな葛山、両者への恋情を行きつ戻りつしながらも、貫多は「群青」に短篇、匿名コラム、書評を発表していく。そして、「群青」九月号には渾身の中篇「どうで死ぬ身の一踊り」が掲載されたが、その反響は全く感じられなかった。同じころ、葛山からは返信が途絶え、川本にはメールが通じなくなる。順風満帆たる新進作家・貫多の前途に俄かに暗雲が立ち込めるのだった。 完成直前で未完となった、著者畢生の長篇1000枚。
かけがえのない人間関係を失い傷ついた者たちが、再び誰かと心を通わせることができるのかを問いかける短編集。 コロナ禍のさなか、婚活アプリで出会った恋人との関係、30歳を前に早世した双子の妹の彼氏との交流を通して、人が人と別れることの哀しみを描く「真夜中のアボカド」。学校でいじめを受けている女子中学生と亡くなった母親の幽霊との奇妙な同居生活を描く「真珠星スピカ」、父の再婚相手との微妙な溝を埋められない小学生の寄る辺なさを描く「星の随に」など、人の心の揺らぎが輝きを放つ五編。