出版社 : 新潮社
夫は私の気持ちに気づかない。駐在妻のマリが求めたのは、無垢で危険な愛。バンコクの高級アパートで暮らすマリは、コロナ禍で出張先から帰ってこられない夫と別居生活を送っている。日本にいた母の葬儀にも参加できず、孤独なマリに声を掛けたのは、テオというタイ人青年だった。寄り添い、理解しようと向き合ってくれるテオに、マリは心惹かれるようになる。魂が震える最高純度の恋愛小説。
化け猫、河童、そして山姥ーー狂気に塗れた苦界を生き抜く女と、化生の者どもが織りなす怪奇譚。江戸は神田三島町にある三島屋の次男坊富次郎は、変わり百物語の二代目聞き手。飼い主の恨みを晴らす化け猫、命懸けで悪党壊滅に挑む河童、懺悔を泣き叫ぶ山姥が登場する客人の身の上話を聞いている。一方、兄・伊一郎の秘密の恋人が出奔。伊一郎の縁談を巡って、三島屋は大騒動に巻き込まれてしまう……。
許されなくてもいい。だから優しく無視して。絶望的な幸福感とモラルの間で揺れる、18歳差の叔父と姪の愛の行方はーー。弁護士の永遠子は33歳。結婚3年目の夫と問題のない関係性を保ちながら、18歳年上の実の叔父・遼一としばしば逢瀬を重ねている。しかし信じていた夫が浮気相手を妊娠させ離婚し、その後、惰性で付き合った若い恋人とも別れてしまう。子供の頃から抱く自らの叔父への歪な欲望に向き合った永遠子が気付いた唯一無二の愛とは。
ドン・ファンと呼ばれた老資産家殺しは元妻が真犯人なのか、彼女は拘置所から私を操るのか。「銚子のドン・ファン」の異名をもつ好色な老資産家が死んだ。殺人罪で起訴されたのは、結婚したばかりの55歳下の若妻ーー。接見を重ねる新人女性弁護士は、被告の曰くありげな言動に翻弄されつつ、不可解な示唆と時に鋭い指摘に誘導されるように、事件の真相に迫っていく。異様な感動へ跳躍する新たな実話系ミステリー。
突然の激震に襲われ、男は裏山に駆け上がった。直後、自宅は津波に飲み込まれた。……なすすべもなくその様子を眺める男。だが、その手には分厚い原稿の束があった。それは十二年にわたって書き続けたもの。生と死、理解と誤解、希望と絶望。普遍の理。閉塞された空間、限られた時間。癌患者と臨む極限。その全てを「観て、覚え、感じ、捧げ、描い」た「看察(看病×観察)」の記。被災地の混沌を潜り抜け、今、ここに。
大切なひとを守るとき、私は刀を選ばない。若き私塾の主が仰ぐ、これから。お役目がなく学問で身を立てることもできない淳之介は、幼なじみの同心から頼まれたある娘の見張りをきっかけに、攘夷の渦中へと吞み込まれてゆく。徳川の世しか知らないながらも、武士という身分に疑問を抱き始めた青年がようやく見つけた、次代につながる道とは。生へのひたむきな問いが胸を打つ、人間味溢れる時代小説。
中国歴史小説の巨匠の最高傑作、謎の英傑の活躍を描く四部作いよいよ完結。春秋戦国時代末期、周王朝の末裔という出自を隠して生きる商人・公孫龍は、天賦の才により諸侯のブレーンとして名をはせてきた。だが、西の大国秦の台頭で諸国の均衡が揺らぎ、徳より力が支配する時代が近づいてくる。それは公孫龍にとって青年期の終わりでもあったーー歴史小説の面白さを刷新する著者渾身の大長編最終巻。
目の前の女性はまっすぐ裕也に訊いたーーあなたは、わたしの祖父ですか? 祖父を探していると女性は言った。祖母は安西早智子といい、未婚のまま出産、何も語らずに亡くなった。裕也はその名を知っていた。古い記憶が甦る。一九七六年ベルリン国際映画祭、祝祭の夏。あのとき彼女に何があったのか。祖父とは誰か。探索の果て裕也が辿りついた真実とは。過去と現在が交錯する人生探しのミステリー。
今日こそ彼らに往復ビンタ。もやもやはびこる職場と私を描く芥川賞候補作。同じ部署の三人が近頃欠勤を繰り返し、その分仕事が増える私はイライラが頂点に。ある日、三人のうちの一人、先輩女性の下村さんから、彼らの三角関係を知らされる。恋人を取られたのに弱っているのか開き直っているのか分からない下村さんの気ままな「ダンス」に翻弄される私は、いったいどうすればーー新潮新人賞受賞作。
もう二度と SNSができない身体にしてほしい。承認欲求を巡る新たな傑作。フォロワー獲得に死力を尽くすミクルは思う。「何故この世界は自分にフォロワーが増えないように作られているのだろう」。自撮りを繰り返すとイソギンチャクになる顔面。オート化された無人回転寿司。まさかのフォロワー爆増ーー狂った現象が次々とミクルを襲う、地獄展開に抱腹絶倒、気分は爽快。約十年ぶり、待望の長編!
ああもう、本当に、世界が滅びるなんて最高だ。「お前ら愛する人に気持ちは伝えたかい?」--底辺YouTuberの生配信「こなるんの予言ちゃんねる」で告げられたのは、世界の滅亡。嘘か真か一切不明、だが同じように終末を確信した者たちは最後の行動に出る。驚きと企みに満ちたクライマックスへ向け疾走する、常識も正論もぶっ飛ばすジェットコースターエンタメ。
美術業界と保存との葛藤を鋭く描き、20以上の賞を受けた衝撃のデビュー作。ルーヴルの至宝を500年前の素顔に戻せ! 古きを愛する学芸員オレリアンは、実利優先のヤリ手新館長ダフネに無茶ぶりされた修復プロジェクトの旅に出る。国家をも巻き込む大騒動の末、姿を現したモナ・リザの本来の顔とは? 視覚情報に溢れたSNS時代に、美とは何か、本物とは何かを問いかける絶品アート小説。
認知症の母に僕は救われていたのだと思う。幼なじみの真弓と街に出かけた“僕”。とある映画を見た僕の脳裏に忌まわしい記憶が鮮烈に蘇り、青年期に抱えた嫉妬、憎しみ、恐怖、偽善の念に再び苛まれる。真弓、高校時代の友人、そして妻。3人との関係に苦悩する僕は、重度の認知症を患う母の元へと逃避し、すがってしまう。
磨きをかけた悪の手管で、しぶしぶ善をなす、あの長屋の面々が帰ってきた! 表向きは善人ばかり、実は悪党揃いの善人長屋に、大事な根付を失くして憔悴するお内儀が訪ねてきた。加助の人助け癖がまた出たと嘆息する一同だったが、その根付がかつて江戸を騒がせた盗賊・白狐の持ち物とわかりーー。「白狐」「三枚の絵文」など六話を収録。粋な情けと謎解きで大向こうを唸らせる大人気シリーズ最新刊!
書かねば、夢は終らない。名著『北越雪譜』、刊行に至る四十年の数奇な道。江戸の人々に雪国の風物や綺談を教えたい。越後塩沢の縮仲買商・鈴木牧之が綴った雪話はほどなく山東京伝の目に留まり、出板に動き始めるも、板元や仲介者の事情に翻弄され続けーーのちのベストセラー『北越雪譜』誕生までの長すぎる道のりを、京伝、弟・京山、馬琴の視点からも描き、書くことの本質を問う本格時代長篇。
コロナ禍で経験した日常のキワが蘇る、超絶細密描写にハマること必至の連作。夫に付き添い初めての救急車でやってきた深夜の病院の待合室。ふと思い出したのは、子供の頃に聞いた、赤い猫を見ると死ぬという噂ーーパンデミックというついこの間の出来事を背景に、ある平凡な夫婦とその周りの人々の生活を精緻に描き、日常の外側に読者を連れていく。海外でも翻訳多数の気鋭作家による最新連作長篇。
本書は、あらゆる角度からの深読みを許容する。求む、全てを読み解く猛者! 末期癌の宣告を受けた父は安楽死を望むが、日本ではそれが叶わない。残された日々の家族像を描いた「ボート」。虎の脱走事件、美術館で見たベラスケスの絵画のエピソード等を、緊急待機中のF15パイロットが独白する「鏡」。異なる二つの物語が絡み合ってはほどけ、まったく新しい見え方を立体的に浮かび上がらせる。
歴史の奔流に抗うには、人ひとりの命はあまりに儚いーー。李朝最後の王高宗は、閔妃を日本人に斬殺され、息子をロシア語通訳に毒殺されかかりながらも強かな抵抗を続けた。日本統治下の作家や詩人、語り手の中村をガイドしてくれた在日の女子留学生。儚い生の連なりが、激動の朝鮮史を織りなしてゆく。過去を掘り下げることによって未来を見晴るかす視野を開く刺激に満ちた歴史長篇。
少年は何度も何度も成長し、愛しい人々と青春を駆け抜ける。1947年、ユダヤ系の家庭に生まれたアーチボルド・ファーガソンの、驚くべき仕掛けに満ちた成長物語。ドジャースLA移転、ケネディ暗殺、ベトナム反戦運動。50〜70年代のアメリカを生きる若者の姿を、緻密で独創的な四重奏で描く。「この本を書くために一生待ち続けていたような気がする」というポール・オースターの、作家人生の総決算となる大長篇。