出版社 : 新潮社
人は一遍は死ぬけん、怖がることないきにー鰹船に乗り、命を張って富を求めようと少年は水平線を見据える。土佐・中ノ浜の貧家に生まれた彼が歩むことになる破天荒な人生を、このとき誰が予想しただろうか。時化の海での遭難、無人島漂着、捕鯨船による救出、そして異郷アメリカでの生活…時代を越えて記憶され続ける“ジョン万次郎”の壮大なドラマが今、始まろうとしている。
異郷アメリカでの人生を順調に歩み始めたかに見えた万次郎。だが最愛の妻の死をきっかけに、彼の胸に望郷の念が再び沸き上がる。鎖国を続ける故国への命懸けの渡航、肉親との再会、幕府要人たちの交流、そして咸臨丸での再渡米…。幕末の激動期に無二の国際通として活躍した中浜万次郎。自らの知恵ひとつに頼って生き抜いたその波瀾の生涯を雄渾な筆致で描きだす傑作長編小説。
東京郊外に暮らす美術大学の講師、川久保悟郎。その娘でララという名の猫にだけ心を開く孤独な少女、桃子。そして、家庭教師として川久保家にやってきた画家志望の雅代。微妙な緊張を抱きながらもバランスのとれた三人の生活はそれなりに平穏だった。そう、あの日、あの女が現れるまでは…丹念に描かれた心の襞と悲劇的なツイスト、直木賞作家の隠れた名作待望の文庫化。
強大なる経済力のため、多国籍軍の猛攻を受け『永遠に経済力を保持しない』という条文をのまされた日本国の底力を描く表題作。父を五輪のメダリスト、母をノーベル賞受賞の物理学者に持つIQ186の天才青年が凡庸なる日本人を目指す悲喜劇「インドから来た青年」など、抱腹絶倒のパロディカル・コメディーとも痛快無比の知的文系SFとも大絶賛された愉快な愉快なケッサク9編。
米国連邦政府証人保護機関の腕利き、イレイザーは、うら若き美女の生命保護を命じられた。大手軍需企業筆頭重役の彼女は、同社が政府の要請で開発中の新兵器の、他国への密売計画を追うFBIに協力したのだ。たちまた彼女に襲いかかる殺し屋の影。彼らは既にその新兵器、高性能電磁波銃を手にしていた。辛くも敵を倒したイレイザーと美女を、更に恐るべき第二、第三の罠が…。
白亜紀、北米ユタ州。一頭の恐竜が悲しみに沈んでいた。彼女は狩りで、つがったばかりの夫を失ったのだ。高度の知能を持ち、体系だった社会生活を営むラプトルたちは、ひとりでは暮せない。自己の遺伝子を残すために、より良い伴侶を捜さなければ…。恐竜は絶滅しなかった、鳥に姿を変えたのだと主張する著者が、最先端の学説と大胆な想像力で再現する、太古のラブストーリー。
明日のスターを夢見る彼女はバイトで暮らしながらオーディションに通う毎日。ところが今をときめく有名監督の面接をしくじって、エージェントからクビを宣告されてしまった。行き詰まった彼女が飛び込んだのはなんとテレホン・セックス・サービスのオフィス。瞬く間にナンバー1になったはいいけれど、だんだん深みにはまって…夢と現実、奮闘と努力。NY娘のクールなコメディ。
1928年、28歳のヘミングウェイは、キー・ウエストに居を移した。戦争と革命と大恐慌の’30年代、陽光降り注ぐこの小島に腰を据え、気鋭の小説家は時代と人間を冷徹に捉えた数数の名作を放ってゆく。本書は、経験と思考の全てを注ぎ込んだ珠玉短編集『勝者に報酬はない』、短編小説史に聳える名編「キリマンジャロの雪」など17編を収録。絶賛を浴びた、新訳による全短編シリーズ第2巻。
あの時代に限ったことではない。金や地位や見栄を求めれば、それがどんな社会であろうと、順応しなければならないのである。それがいやな者は、社会から冷遇されて当然である。そう思っても順応できない。そういう者は、どうすればいいのだ。死ねればそれにこしたことはないのだが…(「真吾の恋人」より)。珠玉の九篇。
飢饉にあえぐ天明年間、すべての厄を払う超人の出現を願う庶民の前に、忽然と現れた力人-。史上最強の実力を誇りながら、抱え主松平不昧侯や相撲会所の思惑に絡め捕られ、辛酸をなめる雷電が、苦悩のすえに抱いた大望とは…。伝説の力士雷電の、数奇な生涯の物語。
ロンドンから鉄道で一時間余りの小さな町。その町でレストランを営む日本人の娘のもとに滞在する初老の男が出会う様々な出来事。“麗人”に翻弄される日本人画家やアメリカ兵や町の男たちの恋愛沙汰は、静かな町を時に騒然とさせる。-個人主義的でありながらも心情あふれる郊外の情緒を交えて物語る、円熟の連作小説。
少年時代に眼にした法師蝉の羽化の情景。僅か十日ばかりの残された時間を過ごすために幼虫の固い殻を脱ぐとき、蝉は体内のすべてが透けて見える儚げな姿をしていた。人もまた、逝く時が近づくと淡く透きとおった様子になってゆくものなのだろうかー。平穏な日々に忍び込む微かな死のイメージを捉えた表題作ほか、人生の秋を迎えた男たちの心象を静謐な筆致で描く短編9編を収録。
南洋の島国ナビダード民主共和国。日本とのパイプを背景に大統領に上りつめ、政敵もないマシアス・ギリはすべてを掌中に収めたかにみえた。日本からの慰霊団47人を乗せたバスが忽然と消えるまでは…。善良な島民たちの間でとびかう噂、おしゃべりな亡霊、妖しい高級娼館、巫女の霊力。それらを超える大きな何かが大統領を呑み込む。豊かな物語空間を紡ぎだす傑作長編。谷崎潤一郎賞受賞作。
私の衝動的なプロポーズに対して、長い沈黙の後とかげはこう言った。「秘密があるの」-。幼い頃遭遇したある事件がもとで、長い間目の見えなかったことのあるとかげ。そのとかげにどうしようもなく惹かれてゆく私。心に刻まれた痛みを抱えながら生きてきたカップルの再生の物語「とかげ」。運命的な出会いと別れの中に、ゆるやかな癒しの時間が流れる6編のショート・ストーリー。
レコード会社の制作ディレクターの僕には、時々幻聴が聞こえる。不規則な生活を十年も続けているのが原因だろう。好きな音楽の仕事だが、ストレスはある。恋人ともうまくいかない。そんな時、音に宿る神を探し求める男に出会ったー。世界のシステムがアナログからデジタルに変わった現在、本当に人の心に響く音とは。孤独を抱え癒しを求める青年を繊細に描いた表題作他一編。
入水自殺を図った若い女性は、記憶を失っていた。恋人だった青年は遠洋マグロ漁船の上にいる。二人の間に一体何があったのかー。運命をあらかじめ知っている人間はいない。しかし、はっきりとした確率があるとしたら。偶発的に誕生した遺伝子が特別の意味を持った時、恋人達はある宿命を背負い、日常の裂け目には一つの危うい人間関係が生じた。気鋭の作家が描く新しいミステリー。
バブルで破壊される前の麻布、白金周辺をよく知る人々が慈しんで語る“変な話”。夜桜見物に乗り込んだ水上バスで、髷を結った侍姿の男に話しかけられ不思議な目に逢う「花見の人」、廃業した銭湯に一人残って暮らす三助あがりの元経営者が、昔語りを聞かせる「タイル絵」等、古き良き時代の東京を垣間見させつつ、読者を違和感なくお伽話の世界へ誘い込む、現代の“奇譚”7篇を収録。
女子大生ローリーは教授殺しで逮捕された。凶器からは彼女の指紋が検出されたが、彼女には何の記憶もない。幼い時、誘拐され、虐待され、深く傷ついた彼女の心は、あまりに辛い現実を生き延びるために多重人格を形成していた。犯人は教授に夢中な彼女の別人格なのか。法は彼女を裁くことができるか。そしていまだに彼女に執拗な愛を抱く誘拐犯人の魔手…心理サスペンスの逸品。
天才的ヘリ・パイロットのプロスは、旧知の美人諜報員に連れだされた夜の湖畔で、英国が極秘に開発した最新最強の戦闘ヘリ“ハマーヘッド”に試乗しようとしていた。が、突如ミサイル攻撃に遭い、テスト・フライトは地獄の実戦飛行と化す。いったい誰が、何の目的で。ヘリの機密はいつ洩れたのか。だがそれは、国際的な規模でくリ広げられる策謀の、ほんの序幕にすぎなかった…。