出版社 : 新潮社
愛は成就されず、成就されるのは愛でないものばかり。十二月の最初の日曜日、十二歳になる侯爵のひとり娘シエルバ・マリアは、市場で、額に白い斑点のある灰色の犬に咬まれた。背丈よりも長い髪の野性の少女は、やがて狂乱する。狂犬病なのか、悪魔にとり憑かれたのか。抑圧された世界に蠢く人々の鬱屈した葛藤を、独特の豊饒なエピソードで描いた、十八世紀半ば、ラテンアメリカ植民地時代のカルタヘーナの物語。
英国ブッカー賞受賞。瀕死のイギリス人患者と若く美しい看護婦ハナ-砂漠の情景から不倫の愛の行方まで、詩的言語に包まれた物語が静かに溢れ出す…カナダ人作家の最高傑作。時は第二次世界大戦の末期である。場所はフィレンツェの北、トスカーナの山腹に立つサン・ジロラーモ屋敷。ここで、四人の男女が出会う。若いカナダ人の看護婦は、ハナ。…ハナの父親の友人で、泥棒のカラバッジョ。…インド人でシーク教徒のキップは、爆弾処理を専門にする工兵。…そして、ベッドに寝たきりながら、その発揮する強大な求心力に三人をつつんでいるイギリス人患者。…心の内にそれぞれの物語を抱え込んだ四人が、互いに相手の物語を読もうとし、そこにすばらしい小説世界が出現する。
「壮烈な撃墜死」は軍部の捏造だった。戦史をリアルに覆す実録小説。海軍の高官と思しきその男は、乗機が墜落したあとも、しばらく生きていたものと推測された。致命傷は、敵機の機銃でなく、自らの手によるものらしかった。しかし軍医は、事実をありのままに記し止めることを禁じられ、目撃者たちは最前線に赴かされて次々と戦死していった…。真珠湾の英雄を、あくまで英雄として葬るために、自決は伏せられ、また伏せられるために多くの血が流れた…。綿密な史料を駆使してブーゲンビル島秘話を再現する、大作ノンフィクションノベル。
地が滑り、地底に流れる水音が泥沼に誘うが如くに山奥にこだまする、愛と死、生の淵に刻むロマン。真宗王国北陸を舞台に壮大な構想で描く長篇。神隠しではないか-。行方不明になった幼女に、土地のひとの心は騒ぐ。二十五年前の地滑りで離散した山村に、一人残る老人。其処を訪ねる都会育ちの孫娘。その無垢の娘が惹かれる中年男性の思惑は-。日中戦争の傷痕が今なお、深く突きささるこの地に、混沌とした現代社会の歪みを、人間の罪と罰、情念の世界に焙り出す。
翼よ、あれは何の灯だーリンドバーグよりも一足先に大西洋横断飛行に成功しながら、アフリカに着陸してしまった日本人。アポロ11号に乗って月まで行き、着陸に成功したのに、月に隆りられなかったクルー。歴史に名を残した幸運な人の陰には、もうちょっとで有名になれたはずの人がきっといた。陽の目を見なかった運のない人々のドラマを愛を込めて描く著者新機軸の仮想伝記小説集。
政治の大転換を予見して衝撃を与えた謎の作家が、今、遂にヴェールを脱いだ。-非自民連立政権誕生の裏で、宮沢喜一と羽田孜はどんなやり取りをしたか。コメ市場部分開放に到る過程で小沢一郎やコメ・マフィアがいかに暗躍したか。政変の陰で繰り広げられた会話の細部までが、黒河小太郎によって白日の下に晒された。しかし、これは全て想像力によって紡ぎだされた小説なのだ。
アザゼルがね、とジョージが話し出した。絶対秘密だけど、奴は親しくしている悪魔なんだ。身長2cmのチビだけど、人が、いや悪魔が好くてね、困っている友達の願いを何回も叶えてくれた。女の子を美人にしたし、刑事に嘘を見抜く力を与えた。科学狂の運ちゃんに空を飛ばせたこともある。でもなぜか皆幸せにならないんだ…。著者の友人ジョージが語る奇想天外なエピソード18編。
1956年2月、ふたりの青年はペンシルヴァニア大学のキャンパスで出会った。刑事弁護士を目指すジェシーと、ジャーナリスト志望のマイク。彼らは野望に燃えていた。そして、それを実らせる術を心得てもいた。戦争と暗殺という病魔に蝕まれつつあったアメリカ。ふたりはそこで、ユダヤ社会、マフィア、政界と、あらゆる人脈を利用したー。パワーエリートの世界を活写する問題作。
次々と秘策を繰り出し、法廷を沸かせながら連勝を記録するジェシー。一方マイクはジャーナリストとしての手腕を高く評価され、ロバート・ケネディに秋波を送られるまでになる。だが彼は歴史的スクープをものした後、父の死を受けてアイルランドへと移り住む。そして現代ー。法曹界の仇敵に弾劾されたジェシーは倒産詐欺事件の被告となり、自らを弁護する戦いの舞台に立った…。
かつて愛したマリイカが映画デビューする。報道カメラマン・ボロは、愛を確認するため、ブガッティを飛ばした。だが、女は愛を躊躇い、再会を祝すライカを贈るだけだった…。偶然撮ったライカに重大機密が刻印されていた。ボロのフィルムを奪うため、ナチはマリイカを軟禁。ボロは巧妙な作戦でマリイカを救出し、パリ行き列車でドイツ国境突破を謀る。軍用機で追うナチ。超大型冒険小説。
私も、齢八十になって悟ったのだ。生かしたろ、と神サンがいいはる限り、生きてやろう。やりたいことをし、会いたい人にも会う。老いては子に従わない。若い人には合わせない。今日はお習字、英会話、明日は社交ダンスにスイミング。老いてこそ勝手に生きよう、今こそヒト様に気がねなくー。息子たちの心配をよそに、いよいよ元気いっぱいに生きる歌子サンの人気シリーズ最終巻。
相談したいことがある-実家から呼び出されて久々に玄関をくぐると、居間には見たこともない美人が両親の間に坐っていた…。美容整形で変貌した妹を引き鉄に、世界の歯車が少しずつねじれてゆく。鼻に埋め込まれたシリコンは、家族に一体何をしようと企んでいるのか。
「貝がらを耳に当てると、海の音が聞えるの」「よく知ってるね。こんちゃんも子供のころ、貝がらを耳に当てて海の音を聞いたよ」孫娘と妻との話し声が流れてくる。もうすぐ結婚50年の年がめぐってくる…。穏やかな眼差で描くかけがえのない日々。