出版社 : 新潮社
「あす、きみとお別れしなければならなくなりました」死刑囚楠本他家雄は、四十歳の誕生日を目前にしたある朝、所長から刑の執行宣告を受ける。最後の夜、彼は祈り、母と恋人へ手紙を書く。死を受容する平安を得て、彼は翌朝、刑場に立つ…。想像を絶する死刑囚の心理と生活を描き、死に直面した人間はいかに生きるか、人間は結局何によって生きるのかを問いかける。
白内障にかかった自分の目玉をプラスティックの人工水晶体にとりかえる大手術。その模様を、焦燥とも悲愴感とも無縁な、子供のような好奇心でクールに眺める作家の視線ー。読者の意表をつき、ユーモアさえ感じさせる表題作のほか、鋭利な感性で研磨された過去の記憶が醸しだす、芳醇な吉行文学の世界。7編収録。
腹違いの弟を殺害した罪により、大阪で服役していた竹原秋幸が、三年ぶりに故郷に帰ってきた。しかし、その紀州・熊野の地にも都市化の波が押し寄せ、彼が生まれ育った「路地」は実父・浜村竜造の暗躍で消滅していたー。父と子の対立と共生を軸に、血の宿命と土地の呪縛が織りなす物語を重層的な文体で描く、著者渾身の力作。『枯木灘』『鳳仙花』に続く紀州神話の最高到達点。
〈ある種の感染症〉により、放尿時の異常な痛みに苦しむ男、フレッド・トランパーは、古代低地ノルド語で書かれた神話を研究する大学院生である。将来の見込みは殆どない。しかもスキーのアメリカ代表選手ビギーを妊娠させたことで父の逆鱗に触れ、援助を絶たれてしまう。息子コルムも生まれたものの、トランパーの生活はいっこうに落ち着かない…。ファニーで切ない青春小説。
トランパーは遂に家出し、旧友メリルに会うためウィーンへ飛ぶが、行方不明だった彼はドナウ河で水死していたことがわかる。その上、帰国してみれば、妻ビギーはトランパーの親友と結婚していた。傷心のトランパーはニューヨークで映画製作に加わり、トゥルペンという女性と暮らし始めるが…。現実から逃げ続けてきたトランパーに救いは訪れるのか?コミカルな現代の寓話。
アンソニー・コルトは環境汚染ゆえに妻子を失い、復讐に燃えるテロリストとなった。彼の最大の標的となった化学薬品のメーカーのトップは、合衆国当局との秘密会議に臨むため、ワシントンへと向かう。コルトの策謀を探り、迎え撃つFBI捜査官ダギットも、かつて肉親を奪ったコルトへの復讐を誓い、苛烈な大追跡劇の末に国際空港で最後の決戦を挑むー。『深層海流』につづく待望作。
「ぼくは殺される」-。心理カウンセラーのエイリーンが託された少年の訴えは、単なる妄想なのか?少年を観察するうちに、彼はまぎれもないわが子ではないかと疑念を抱くエイリーン。彼女には、混乱が支配する60年代、誤って胎児を死亡させた悲惨な過去があった。現在と、過去、現実と幻想が錯綜し、読む者を果てしなきトリップに誘う注目のアシッド・サイコ・サスペンス登場。
いまなお人種差別の色濃く残るアメリカ南部の街クラントン。ある日この街で、二人の白人青年が十歳の黒人少女を強姦するという事件が起きた。少女は一命をとりとめ、犯人の二人もすぐに逮補されたが、強いショックを受けた少女の父親カール・リーは、裁判所で犯人たちを射殺してしまう。若いけれど凄腕のジェイクが彼の弁護を引受けたのだが…。全米ベストセラー作家の処女長編。
カール・リーの弁護を務めるジェイクの周辺では、庭先に燃える十字架を立てられるなどのいやがらせや脅迫が相次ぐ。才気煥発な女子学生エレンと共に準備を進めるが、確信犯ともいえる犯罪で無罪を勝ち取るのは不可能に近い。公判が始まり、黒人と白人の対立が頂点に達するなか、ついに評決のときを迎えたがー。アメリカの裁判の雰囲気をリアルに伝える、第一級の法廷サスペンス。
IRAの女闘士アニーは、大義の下に行われる非道な無差別テロに嫌気がさしていた。彼女は、同じく武力行使に批判的だった英国陸軍の将校マーカスを抱き込み、死闘に終止符をうつ壮大な計画を企てる。しかしそれはIRA、英国陸軍のどちらにとっても都合の悪いものだったため、二人は双方から追われる身となった。執拗な追跡網をかいくぐり、計画を実行することはできるのか…。
『誹風柳多留』の板元二代目・花屋二三が馴染みの女の部屋で偶然目にしたそれは、かつて見たこともないほどの強烈な役者絵だった。しかも役者は大坂で行方の知れない菊五郎。だれが、いつ描いたのか…。上方と江戸を結ぶ大事件を軸に、浮世絵、芝居、黄表紙、川柳、相撲、機関等江戸の文化と粋を描ききった力作。
「親の敵…」夜の闇につつまれた猿子橋のたもとで、秋山大治郎は凄まじい一刀をあびせられた。曲者はすぐに逃げ去り、人違いだったことがわかるが、後日、当の人物を突き止めたところ、秋山父子と因縁浅からぬ男の醜い過去が浮かび上がってくる「待ち伏せ」。小兵衛が初めて女の肌身を抱いた、その相手との四十年後の奇妙な機縁を物語る「或る日の小兵衛」など、シリーズ第9弾。
SF作家のおれのところに歴史小説の依頼がきた。しかもおれの先祖であるらしい。洞ヶ峠の日和見で悪評高い筒井順慶を書けというのだ…。型破りの発想で小説のジャンルの壁を破壊した表題作。芸能プロのグロテスクさを際立たせた「あらえっさっさ」、連続殺人犯に群がり利用するマスコミの本質を突いた「晋金太郎」、新宿騒乱事件を戯画化した「新宿祭」。初期の力作4編を収める。
ワシントンの情報屋から送られた極秘ファクスは、蔵元、高原、外岡の3人の総理大臣秘書官に、次期支援戦闘機開発をめぐる政界疑獄の発生を告げていた。彼らは、腐敗した政治家を放逐し、新たな政治理念に依って政界再編の道を切り開くべく、決然と行動を開始したー。恋人との別離や愛妻の死など、それぞれに苦悩しつつも繰り広げられる、誇り高き平成の官僚たちの熱い闘いは今。
むごたらしい恰好で男は絶命していた。両手の爪を剥ぎ取られ、額には深々と釘が打ち込まれ、内臓を泥のように破壊されていた。同じ頃、ヒューストンのハイウェイでは六人の男が機関銃の猛射を受け全員が憤死する。殺人課の刑事ヘイドンは二つの事件の捜査線上に浮上した狂信的組織〈テコス〉への接近を試みるが…。都市開発に絡む習慣的腐敗と、凄惨な拷問劇を描く異色サスペンス。