出版社 : 新潮社
作家のベルナールは、20も年の離れた青年のマルクと同棲していた。かつては、同性愛者であることは、世間の除け者として非難の対象だった。だが、今では、ライフ・スタイルの一つとして公認されている。長年、除け者として生き、そのことに衿持すら感じていたベルナールにとって、こうした風潮は喜こばしいどころか、苦々しいものだった。ところが、ある日、ベルナールがエイズ患者であることが判明し、マルクの献身的な看護が続く。しかし、新たに世間の除け者として死んでいきたいというベルナールの願いを入れたマルクは、毒薬を注射器に注入する…。
女子大で美術を講ずる母は、女性の完璧な自立を目指している。おまけに“恋多き女”。が、その生き方にはどこか危うさがつきまとい、私の心はしばしば、別れた版画家の父の方に傾く。母親の新たな愛と挫折。初恋に似た同級生との心の交流。父森にかかった国際的な盗作の疑い。会話主体の野心的手法で描く少女と家族の日常。
突然狂ったように踊り出したり、デパートの婦人服売り場で女物の服を手当り次第に着たりする男がいた。しかも、彼は自分の行動を全く憶えていないという。-そのヘンな男が、ある日、死体で発見され、一人住まいの彼の部屋には、無数のこわれた人形が散乱していた…。孤独なセールスマンの死の謎を探る「踊る男」など、奇抜なアイデアとユーモアで描いたショートショート34編。
直子はなんとなくお見合をしようと決心した。叔母から薦められた相手は、ちょっと年齢はいっているが、人柄も学歴も収入も申し分なく、写真うつりのいい男だった。彼は、毎週日曜日の夜九時になると、叔母のアパートに、なぜかやって来るという。そしてお見合の夜、直子が叔母の家に行って目撃したことは…!?奇抜な展開であなたを不思議な世界に誘う傑作ショートショート26編。
流れ落ちる滝のような一条の白い線と、梅の花びらを思わせる美しい紋様ー。見る者の心に戦慄さえ呼びおこす名石“深山の梅”に憑かれた二人の武士の友情と、決して消すことのできない親友の妻への慕情を描く表題作ほか、娼妓として売られた女の初々しい心持ちを伝える「朝の雀」、桜の精に心奪われた男がやがて身近な女の献身に気づく「花かげの女」など、哀歓を奏でる時代小説8編。
私設情報機関〈SSC〉社長スタンホープには息子が3人いた。長男が殉職し、次男ピーターはその悲しみと父への不信から家を出た。ところが死んだはずの兄から、結婚するので式に出てほしいと電話がかかった。5年ぶりに帰国した彼を迎えたのは、花婿姿の弟と、そして命を狙う銃口だったー放浪するイラン国王の動きを背景に、凄絶や復讐戦を繰り広げる男たちの死闘を描くサスペンス。
ネコと同居し、ヨガと中国拳法を操る、タフでクールなヴェトナム帰りの私立探偵エルヴィス・コールとマッチョな相棒ジョー・パイク。「軽い仕事」のはずだった失踪父子の捜索は映画界につきもののコカインがらみでシンジケートとの対決へ…スプリングスティーンのしゃがれ声が似合う冬のロサンジェルスを舞台に粋な探偵の生き様を描く、エルヴィス・コールシリーズ第1弾。
生まれたばかりの赤ん坊を抱えた若夫婦が、ナニー(住込みのベビーシッター)を雇った。有能なナニーは、赤ん坊を巧みにあやし、家事を片づけ、若夫婦の世話まで焼いた。しかし、ナニーの行動にはどこか不気味さが漂った。そこで夫は、謎に包まれたナニーの過去を密かに探ってみるのだが…。“純粋で完壁な愛”を求めてさまよう魂が若夫婦を追い詰めていく、長編サスペンス・スリラー。
大正は14年、〈彼〉は大阪に生まれた…。貧しい下駄職人の三男坊・平吉は、一家心中が失敗してサーカスに入団。そこで師と仰ぐ丈吉が突然姿を消してしばらく後、謎の怪盗が巷を騒がせ始めた…どこか懐かしい昭和初期の風景の中で展開される数々の事件。その真相が二十面相側から語られる、ユニークな長編小説。
死体のパーツが新たな犠牲者の体内に-酸鼻をきわめるリレー式連続殺人事件。午前4時の家々に病院に、殺人機械は音もなく侵入する。狂気の匂うナイフは、いかなる怨恨を切り取ってゆくのか…。一分の隙もなく構成された迫力満点のホラー・サスペンス。
迷宮入り寸前の殺人事件がきっかけだった。とるに足らぬダイイングメッセージが「絶対にバレない詐欺」解明の唯一の糸口だった。被害届もないまま、組織の綻び目を手繰ってゆく2人の刑事。犯人を絞り、詐欺の全容も明らかにした矢先-。現代社会に潜行する悪のトレンドを逸早く掬いあげる、著者ならではの同時代ミステリー。
13年前、新宿裏通りで殺人事件が起きた。犯人とされた男は有罪判決を受け、無実を訴えたまま獄中で病死した。この事件は、他の大きな事件の陰で忘れられたかに見えたがー。ある日、汚名をそそぐ機会も与えられなかった父の無念をはらしたいと、若い女性が水木弁護士を訪れた。正義感に燃える水木は、困難な調査を開始した。先入観と焦燥感に歪められた警察捜査の本質を暴く処女長編。
人を殺めて逃亡した男は、友人の名を使って14年もの間ひっそりと生きてきた。しかし時効目前にして、同じ職場の部下に過去を嗅ぎつけられそうになる。追い詰められた男は自分を守ために再び殺人を犯してしまうのだが……。表題作「偽名」をはじめ、都会の片隅で何かしら暗い影を背負って生きる人間を描いた7編のミステリー短編集。
第1回移民から21年たった昭和4年、未開の大地アマゾンへの入植が始まった。人間の必死の営みを呑みこもうとする大自然の底知れぬ力に苦しめられる移民たち。しかし彼らの苦闘は実り、ジュートの栽培に成功し、入植は軌道にのった。一方、サンパウロ地方では植民地も整備され、成功者も出はじめていた…。南米移民たちの夢と希望、挫折と再生のドラマを描く二部大作の昭和篇。
ながい苦闘のすえ、移民たちの生活を安定してきていたその矢先、太平洋戦争が勃発した。日本とブラジルの国交は断絶し、日本からの情報は閉ざされ、邦字新聞の発行も禁止された。敵国人として地球の裏側に孤立した移民たちの焦燥と困苦。こうした異常な状況は、「勝組」「負組」の対立を戦後に生むことになる。移民たちがブラジルの広大な大地にかけた夢の行方を描く二部大作の完結篇。
香港の一流ホテルの空室で、スラブ系の西洋人が殺された。被害者はバンコクのソ連大使館員で、腕ききのKGB謀報官であったことが判明する。しかも使用された毒物は漢方系の極めて特殊なもの。「私」と中垣は、共通の知人で、しばらく消息を絶っている薬学者クリコフの仕業だと睨むがー。網の目のように張りめぐらされた伏線が読者を推理の陥穽に陥れる表題作などミステリー8編。
“あの家に来るな”パットは脅迫されていた。“あの家”とは、今は亡き父母と幼い彼女自身が、大きな不幸に見舞われた家だ。しかしパットはその家に戻ってきた。アメリカ初の女性副大統領指名を目指す、野心家上院議員アビーのテレビ番組を作るために。そして、惨劇のかすかな記憶をよみがえらせて、本当の過去を知るために。その夜、また新たな脅迫状が…。息詰るサスペンス長編。