出版社 : 新潮社
家族という名のこの連中から、一刻も早く自由になりたい。でも、でも、海はまだ遠い…。一見ごく平凡な、一組の若夫婦。通勤地獄での痴漢行為に日々の喜びを見出す知弘と、ジム通いとテレクラに精を出す美穂。ところが、美穂の昔の男友達の和也が出所したことで、彼らの日々はゆっくりと変質を始める…。戸梶ワールドが炸裂するクライム・ノヴェル。
検問をすり抜け、狭まる包囲網をかわしつつ、空前の金塊強奪作戦を敢行、謎の積荷を抱いて、さらに西へと突っ走る…。飛び交うCB無線、謎の白骨死体、そして物流業界の潰し合い。ロジスティクスの内幕と、トラッカーたちの魂の叫びを描く傑作サスペンス。
黒鳥亭、それがすべての始まりだった。壷中庵、月宮殿、雪華楼、紅雨荘…。殺人事件の現場はそれぞれ、独特のアウラを放つ館であった。臨床犯罪学者・火村英生と作家・有栖川有栖のふたりが突きとめた、真相とは。そして、大都市を恐怖で覆い尽くした、猟奇的な連続殺人!影なき殺人鬼=ナイト・プローラーは、あの“絶叫城”の住人なのか!?本格推理小説の旗手が、存分に腕を振るった、傑作短編集。
「けっきょく輪廻なんだよなあ、いろんな自分の。…地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間・天道って、聞いたことあるだろ。じたばたしても、いろんな自分を結局は輪廻していく…」ロックで六道輪廻を突き抜けろ!精神を病みロックに没入する僧浄念が見た輝く世界。現役僧侶による衝撃の芥川賞受賞第一作。
紅茶の季節に、孫娘の赤いくちびるの色に魅せられる祖母の偏愛「赤い唇」。外国にいる恋人に、冷たい感覚の右半身をゆだねる女の幻想「片冷え」。誰かに言いたくてたまらないある言葉への欲望「大統領の死」他人には言えない若い妻の妖しい願望「朱験」。老親の生への偏執「来迎の日」…。現実生活につなぎとめられた異常な感覚を軸に、大人の女のエロチシズムを描く短編集7編。
戦後の混乱期、全米水泳選手権に出場した古橋広之進らは世界新記録を連発し、“フジヤマのトビウオ”と賞賛された。敗戦にうちひしがれていた日本人に勇気と希望を与えた彼らを支えたのは、ひとりの在米日系人ーフレッド・和田勇。そのとき彼は、日本の悲願“東京五輪”誘致を心に決めた…。日本の発展のためにすべてをなげうった「無私の人」の苛烈な生涯を描いたドキュメント・ノベル。
最愛の妻の死後、見知らぬ男から届いた不審な手紙の謎を夫が探る「もう一人の男」。遺された一枚の絵を手がかりに、息子が父親の暗い過去をたどる「少女とトカゲ」。ほかに、妻と二人の愛人を巧みに操っていた男の悲喜劇「甘豌豆」、「ガソリンスタンドの女」など、全7篇。
物語は世界の果てにある小さな食堂を夢見ながら始まり、静かにゆるやかにつづく。どこからも遠い場所で、どこよりも近い、すぐそばで-クラフト・エヴィング商会の物語作者が贈る、ひとつながりの16の短篇集。
ドイツの音楽大学で教鞭をとるぼくに、一枚のディスクが持ち込まれた。ブエノスアイレスで活動するというそのオルガニストの演奏は、超絶的な技巧に溢れ、天才の出現を予感させたのだが…。最上の音楽を奏でつづけるために神に叛いた青年、そして哀切な終焉。バッハのオルガン曲の旋律とともに、音楽に魅入られし者の悦びと悲しみを描出する第10回ファンタジーノベル大賞受賞作。
2030年。玉井潔は、60年前の“あの事件”のために死刑判決を受けた後、釈放された過去を持つ。死期を悟った彼は、事件の事実を伝え遺すべく、若いカップル相手に、自分達が夢見た「革命」とその破局の、長い長い物語を語り始めた。人里離れた雪山で、14人の同志はなぜ殺されねばならなかったのか。そして自分達はなぜ殺したのか…世を震撼させた連合赤軍事件の全容に迫る、渾身の長編小説。
神社爆破と警官殺害で独居専門棟に収監された過激派政治犯Sは、その処遇をめぐり「担当」と呼ばれる看守部長と常に対立。苦情を申し入れても却下され、リンチ同然の暴力を受けるなど絶対服従を強いられた。小説を書くことで生きる望みを見出すSはやがて、看守も所詮、刑務所という閉鎖社会でしか生きられぬ「囚人」に過ぎないと考える。凄まじい獄中描写が大反響を呼んだ問題作。
俺の人生に大逆転劇を起こす!ネットで武装し、暗い部屋を飛び出た引きこもり少年は、いかにしてニッポンに叛逆したのか?国家の象徴トキをめぐる革命計画「ニッポニア・ニッポン問題の最終解決」とは何か?研ぎ澄まされた知的企みと白熱する物語のスリルに充ちた画期的長篇作品。
若き講釈師の群像と下足番のじいさんの何気ない交流を描いて涙を誘う名品「本牧亭の鳶」、時代遅れの声帯模写の悲哀を描く「九官鳥」、百面相一筋に生きた芸人の哀れで滑稽な末路を描く「カラスの死に場」、お囃子の女性の切ない転変を写す「老鴬」など、正調吉川節が哀切に響き渡る。色物芸人たちの純粋で愚かな優しさを紡ぐ傑作六編。
失踪した元AV女優にして、高校時代の憧れの先輩・柏木美南を追いかけていた須山は、調査を進めるうちに彼女の悲愴な過去を知る。一方、美南をなぶり、卑劣な虐めを繰り返していた関係者たちが、謎の言葉と共に次々と殺されていった。やがて事件は一応の解決を見るが、そこからが本当のミステリの幕開けだった-。
千鳥姫彦はもどかしい。大学のサークルでのサヨク=左翼活動では成果があがらず、美少女みどりとの恋は思い通りに進まない。とまどうばかりの二十代初めの混沌とした日々を、果てしない悪ふざけでごまかしながら漂い続ける姫彦と友人たち。若く未熟であるがゆえに、周囲との距離感が測れず、臆病で自虐的にならざるをえないー、そんな孤独な魂たちが、きらめく言葉の宇宙に浮遊する。