出版社 : 新潮社
下心なんて持たなければ、命取りにならなかったのに!誰もが思い当たるあの瞬間。携帯電話、車、一人暮らしの部屋、カフェ、電話の声…恋に潜むペーソス、シニシズム、孤独。現代のパリの日常を軽妙なタッチで描いたパノラマ12シーン。フランスで久々のベストセラー短篇小説集。
郊外に居を構え、孫の成長を喜び、子供達一家と共に四季折々の暦を楽しむ。友人の娘が出演する芝居に出かけ、買い物帰りの隣人に声をかけるー。家族がはらむ脆さ、危うさを見据えることから文学の世界に入った著者は、一家の暖かな日々の移りゆく情景を描くことを生涯の仕事と思い定め、金婚式を迎える夫婦の暮らしを日録風に、平易に綴っていく。しみじみとした共感を呼ぶ長編。
わすれかけてしまいそうな日々の中で、ふと思いかえし、流れの中に立ち止まって、「あの気持ち、あの気持ち」とつぶやくと、まわりからだんだん遠くまで、ゆっくりと波が静まってゆき、間違わない方向の石が輝いて見えた。それに足をかけ、次に飛び乗り、進んで行く。困ったときは、遠くを見よう。近くばかりを見ていると、迷うことがあるからー静かにきらめく16のストーリー。初めての物語集
いつでも女の人に甘え、その場をずるく言い逃れ、迷惑という迷惑をかけ通しだった。でも実は、身をよじるようにして、この国と、国民のことを案じていた。十五歳の「私」を見つめる時、まぎれもなく、母にすがる目をしていた。玉川上水に女と身を投げたあの人は…。一人の女生徒が物語る、優しくて汚くて、誇り高くて品がなくて、「無頼派の旗手」と呼ばれた小説家の「死」まで。
東京人の母の影響で自意識過剰のぼくは大阪の小学校六年生。成績優秀なれど人に言えない三大弱点がある。それはデブとカナヅチと夜尿症。気になる女の子はいるし、憎いライバルや腹の立つエコヒイキ教師もいる。気がつけば、あっという間に水泳大会は目前。…高度経済成長期の大阪を舞台に、どうなる?がんばれ!こぼんちゃん。
ロンドン下町育ちの優柔不断男アーチーと、バングラデシュ出身の誇り高きイスラム教徒サマード。似ても似つかないこの二人の友情を軸に、19世紀からミレニアムにいたる時空間を往還しつつ、カオスの都ロンドンを活写する。ディケンズ/ラシュディばりのストーリーテリングにインディーズの心意気。新世紀初の偉大な才能と称えられた、ジャマイカ系大型新人のデビュー長篇。ウィットブレッド賞処女長篇賞、ガーディアン新人賞、英国図書賞新人賞、コモンウェルス作家賞最優秀新人賞受賞。
アーチーのジョーンズ家とサマードのイクバル家。妻子にはなにかと不評の二人である。そこへ、リベラルを気取るチャルフェン一家が登場し、二組の家族をさらなる混乱に陥れる。折りしもロンドン北西部では、あらゆる急進主義がはびこっていた。過激なイスラム原理主義者、熱烈なエホバの証人、闘う動物愛護主義者、危ない遺伝子工学者…一筋縄ではいかない面々が繰り広げる世紀末の狂想曲。多文化社会の困難と希望を恐るべき力技で描きだす、超絶ノンストップ・ノヴェル。ウィットブレッド賞処女長篇賞、ガーディアン新人賞、英国図書賞新人賞、コモンウェルス作家賞最優秀新人賞受賞。
路面電車の走る町。「珈琲アリマス」と記された小さな居酒屋。隣で呑んでいた正吉さんは、手土産のカステラを置いたまま、いったい何処へ向かったのか?-荒川線沿線に根をおろした人々とあてどない借家人の「私」。その日日を、テンポイントら名馬の記憶、島村利正らの名品と縒りあわせて描き出す、滋味ゆたかな長篇。
ヨットレースの最中、髪の毛一筋ほどのきわどさで目撃した落雷の恐怖と眩(まばゆ)さ。海面下23メートルに広がる豪奢な水中天井桟敷。杭打ち機の何千トンという圧力を跳ね返すぼろぼろのされこうべ。ひとだまを捕獲する男。冷たい雨の夜に出会ったずぶ濡れの奇妙な男。かけ替えのない弟裕次郎の臨終の瞬間。作家の人生の中で鮮烈に輝いた恐ろしくも美しい一瞬を鮮やかに切り取った珠玉の掌編40編。
パリ警視庁付の精神科医ラセーグが診断した美少女は、万国博覧会に浮かれた華の都で、恐怖に身を震わせていた。ラセーグに病的につきまとう貴婦人と、連続誘拐事件はどう繋がっているのか。被害者の女性たちに共通項はあるのか。日本ブームに沸く華の都で、精神科医の異常な二百日が始まった!パリを熟知した著者ならではの大作。
暴流。自分も刻々、瞬きする間もなく過ぎる時間とともに、命の暴流の中にいる。ここでなにをしているのか。若く、異様な激しさを潜めた娘に執着し、しかも相手に大した支援も保障もせず、こっそり家庭を保っている。その渇愛と欺瞞の底に、沈んでいる。小説家の中には破天荒に生きた祖父の血が流れていた。著者渾身の長編小説。
北朝鮮の女性将校で美人パイロットの柳英姫は、大連に留学した時に日本人商社マンの西山哲男と知り合い、恋仲になる。哲男への思いを募らせる英姫は、ソウル奇襲作戦に参加し、そのまま亡命することを決意した。一方、哲男は台湾人の叔母から、旧ソ連の怪鳥艇に関する極秘文書を託されていたが、その書類を入手しようと、中国のスパイが彼の周辺に出没する…。
韓国に亡命し、インド空軍外人部隊へ出向した柳英姫は、怪鳥艇の謎を知る哲男と再会するが、二人は、北朝鮮、中国の双方から執拗な襲撃を受ける。一方、ロシアのカスピ海に「鷲の息子」と呼ばれる強襲上陸艇があることを突き止めた中国軍は早速、その売買契約に着手。英姫と哲男も、中国の契約を阻止すべく、カスピ海へ…。アジア情勢に詳しい著者が挑んだ“大冒険ラブロマンス”。
九州制覇、文禄・慶長の役と、後半生を常に戦場で過ごしてきた薩摩の太守・島津義弘は、政局を読み取り、敵の作戦を察知する才に長け、大胆な攻撃で敵を打ち破る戦略家として、内外に恐れられた。小心者の徳川家康、官僚主義者の石田三成、保身に走る兄・義久という思いきった人物設定で、戦国武将の内面に鋭く迫り、現代の指導者たちにも熱い共感を呼んだ大作。柴田錬三郎賞受賞。
秀吉の朝鮮出兵後、景気は急速に衰え、戦後不況が猛威を振るう中、戦国末期の日本は、東西両軍が対峙する関ヶ原の戦いで活路を見出そうとしていた。薩摩の太守・島津義弘は兵力不足にもかかわらず、わずかな家臣を引き連れて関ヶ原へ向かう。劣勢を承知の上で戦いに挑んだ義弘の真意とは?現代政治の不毛と重ね合わせながら「関ヶ原」を再現し、指導者のあるべき姿を示した傑作。
夢と野望を胸に渡った満洲の地。広大な原野に立ちすくみ、馬賊の襲撃に怯えつつも、森田勇太郎は着実に地盤を固め、森田酒造を満洲一の造り酒屋にまで成長させていく。だが、「同じ着物は二度着ない」とまで言われた栄華も長くはなかった。夫・勇太郎の留守中、ソ連軍の侵攻と満人の暴動に遭い森田酒造は崩壊。妻・波子は二人の子供を抱え、明日の命すら知れぬ逃亡生活を余儀なくされる。夫との再会を信じ、ひたすら故国を目指す波子。しかしこれは、波子を呑み込む過酷な運命の始まりに過ぎなかった。母、満洲、極限状態。直木賞受賞第一作。
果華の絶頂から一転、奈落の底へ。頼りにしていた夫との再会も束の間、勇太郎は強制労働に取られ、病で命を落としてしまう。すべてを失い、夫の屍を乗り越え、食うや食わずで二人の子供を守る母・波子。そんなとき、密かに思いを寄せていた男・氷室の消息が聞こえてきた。再会に胸躍らせる波子だが、彼女の前に現れたのは、阿片に体を蝕まれた廃人同然の男だった…。母として子供を守るか、女として一人の男を愛するか?極限の選択が波子に迫る!家族、愛、究極の選択。自伝的大作。