出版社 : 新潮社
花屋で働く年下のボーイフレンド、あるおは、逢うたびに同じことを話す。彼はものを憶えられない「病気」だった。あたしは、あるおに抱かれながら、たとえ彼が意識の上で完全にあたしを忘れてしまう日が来ても、それでいいと思うー。性愛を通して人の存在のもろさと確かさを描いた「あたしのこと憶えてる?」、ゼリーにからだをもてあそばれる「ときどき軽い」など、大胆で繊細な九篇。
短篇の名手が贈る凝縮された作品群「モザイク」第3集。忘れかけていた人生の情景が鮮やかによみがえる。あれは、いつ、どこで見た、なんの模様だったろう-。遠い日の父の記憶を描く表題作など珠玉の小説17篇。
政権安定のため孔子が企てた三都毀壊策。その最終段階の成城毀壊は、成の城宰公斂処父の抵抗にあい、膠着状態に。狂巫に身をやつした悪悦の使嗾をうけた処父は、尼丘に二千の兵を向かわせる。そして、その頃、子蓉も尼丘を目指していた…。中島敦記念賞受賞。
自殺か?他殺か?検察は後者と見た。恋人テリの夫・リッチーの殺人容疑で、なんと辣腕弁護士・クリストファ・パジェットは逮捕される。群がるマスコミ。息子・カーロやテリにも芽生える不信。深まる孤独。証言は次々と覆され、陪審員の心証は日々入れ代わる。そして、息詰まる公判はすべて終わったが…。
売れない女流映画監督クリスは、超インテリの旦那がいるのに、売れっ子批評家ディックに一目惚れ。炸烈したオンナ心は、いつしか怒濤の恋文ストーキングに-。ディックからの返事はくるのか?有名ポストモダン批評家の夫は離婚の危機をいかにして「脱構築」するのか?クリスの愛は成就するのか?前代未聞のポストモダン恋愛小説。
だれも祝ってくれない誕生日。孤独をかみしめながら、その日彼女は無惨に殺された。現場に残されたダイイング・メッセージが事件の鍵を握る「夜更けの祝電」。不幸な結婚のせいで自殺した友人のため、復讐を企てた女の思い詰めた気持ちが切ない「早朝の手紙」。その他いずれ劣らぬ難事件を、東京地検主任検事、霞夕子が華麗に推理する。
見失っていた。本当に手に入れたいものを。出所したばかりのスリは家に戻れなかった。オケラになった占い師は途方にくれていた。なにかに導かれるように、二人はひとつ屋根の下で暮らし始めた。スリが手を伸ばそうとし、占い師の抜き取ったタロットのカードと交錯した、そのとき二人は身も心も引き裂く嵐に巻き込まれていた。ストーリーテラーの名品。
日々エスカレートしていく少年犯罪に対峙し続ける弁護士・真希が担当したのは、母と幼い娘を強姦し、殺害した16歳の少年だった。少年たちが抱く心の闇に戸惑い、そして、愛し合っていたはずの夫との間に、いつしか横たわっていた深い淵に孤独を感じる真希。そんな彼女に安らぎを与えてくれたのは、愛してはいけない人だった…。月曜夜10時NTV・YTV系列、全国ネットで10月9日スタートのテレビドラマ『明日を抱きしめて』の原作。
大量の有価証券と共に元エリート為替トレーダーが失踪した。堅苦しい日本を飛び出し、ビジネスの拠点をNYに移した女性たちの実態を取材するため渡米した祥子は、相次ぐ不祥事に大揺れの邦人金融界に飛びこんでしまう。銀行内部の不正調査専門家と偶然同宿になった彼女は、銀行の元同僚たちと協力して組織の巨悪と闘うことに…。
そのフレーズを耳にした瞬間、誰もが息をのんだ。リオの片隅で歌う黒人少年=ルーシオ。奇跡の歌声を、ビデオが捉えていた。新人女性ディレクターは、歴戦の音の狩人たちと闘いつつ、少年のデビューに向けて動く。だが、ルーシオは忽然と足跡を絶った…。次第に明らかになる音楽業界の闇。すべての答えは、セナの待つF1グランプリに。ノンストップ・ミュージック・サスペンス。
ロッキー山脈上空。130名の乗客と乗務員を乗せたエアブリッジ90便の機内放送は、ハイジャックの発生を告げた。要求はある少女殺害犯の逮捕と起訴。当局が迅速に要求を満たさなければ、機は爆破されるー。交渉役を命じられたFBI女性捜査官キャットは、実業家の自家用ジェットで追尾するが、ハイジャッカーの正体は想像を絶するものだった。激情と絶望が交錯する高空の対決。
キャットは人質となり、ジャックされた737に乗りこむ。説得交渉に努める彼女は、動機となった少女殺害事件の真相を察知し始めていた。殺害犯不起訴の元凶と名指しされた乗客の司法長官候補をめぐって機内は不穏な空気に包まれ、地上の対応の遅れがハイジャッカーを極限まで苛立たせる。キャットは携帯電話とノートパソコンを頼りに、限られた時間に挑む。そして戦慄の結末へ。
月曜日、セーヌ川の遊覧船の舳先に飾られていた年若い女性の生首。さらに、火曜日、水曜日と、欧州各地にばらばら死体の一部が届けられた。FBI欧州連合「ユーロポール」特捜班に抜擢された心理分析官クローディーンは、フランスを震撼させたこの猟奇事件の犯人像割り出しに取り組んだ。だが、彼女の必死のプロファイリングを嘲笑うかのように、惨殺体が相次いで発見されていく。
血液中の氷片、胴体に均等につけられた平行する傷痕。ばらばら殺人の遺体に残された不審な痕跡から、クローディーンは連続殺人事件の核心に迫っていった。しかし、「ユーロポール」や各国警察の思惑により、彼女の功績が実名入りで報道されてしまったことで、犯人側は、殺人リストに彼女の名を加えることに…。先端技術を駆使した捜査法をリアルに描出したサイコスリラーの傑作。
半人前の落語家は半人前なりにアタマを抱え、オタオタする。師匠のハッキリしない病状、芸人の勲章と命取りになりそうなキズ。憧れ、夢見て門を叩いたはずが、厚〜い壁にぶちあたり、いまもくすぶっている。談志の高弟が噺家の世界を描く書き下ろし短編、全五篇。
誘拐犯の目的は、カネではなかった。脅迫状にはただ一言。「ハンマークラヴィーアを弾け。しかも、完璧に」-。突然変更されたプログラム。紛糾する音楽祭。苦悩するピアニスト。2回目の本番が近づく…。このベートーヴェンの長大な難曲のどこかに、謎を解く鍵が?札幌とロンドンを舞台に華麗に展開する音楽ミステリー。
私は、運命にも、人間にも、よく服従する。それが私の性格であり、また処世の道でもあったー犬丸順吉・29歳。戦時中のささいな罪で戦犯に名を連ねることを本気で怖れたこの男、ボスの命じるままに四国に身を隠したはいいが…運命にも女にも翻弄されっ放し、とことん情けなくて、だけど憎めない。世の中の半歩後をけっつまずきながら追いかける男が体験した、世にもおかしな物語。
藩主への諫言を胸に、男は許嫁に別れを告げた。女は失意のうちに、違う男の許へ嫁いだ。そして五年の時が流れ、自分の短慮を振り返る男。ついに男のことを忘れられなかった女。うららかな春の日に再会した二人は…。深い人間洞察と温かな視線に満ちた表題作など全五篇を収めた傑作短篇集。