出版社 : 新潮社
先が思いやられるような人間になれー。これが父の教育方針だった。悪ガキとして名を馳せた中学時代を経て、青成瓢吉は早稲田大学に進学、学園紛争の口火を切る。やがてお袖との同棲生活にはまり大学を中退するが、彼の脳裏には芸妓になった幼なじみのおりんの姿が…。大志ある親友たち、味のある教師、任侠道を貫く渡世人など、脇役陣も多士済済。今、不朽の人生ドラマが幕を開ける。
西田枝美子は「北陽放送」の看板アナウンサー。「ミス北陽」と謳われた美人である。その枝美子も、今年で三十四歳。冷たく澱んだ北陸の冬は、身辺にも迫ってきた。ラジオへの転属をほのめかされ、孤独を味わう日々。が、そこへ一人の男が現れた。六歳年下のプロ野球選手の志村は、若く荒々しく甘美な情熱で枝美子を虜にする。その冬の終わり、男は枝美子の希望そのものであった。
31歳の相馬克己は、交通事故で一度は脳死判定をされかかりながら命をとりとめ、他の入院患者から「奇跡の人」と呼ばれている。しかし彼は事故以前の記憶を全く失っていた。8年間のリハビリ生活を終えて退院し、亡き母の残した家にひとり帰った克己は、消えた過去を探す旅へと出る。そこで待ち受けていたのは残酷な事実だったのだが…。静かな感動を生む「自分探し」ミステリー。
未曾有のハリケーンが接近するなかスコットエア社の727は離陸した。だが、誤って積みこまれたパレットには、ある原子物理学者の怨念がこめられていた。熱核爆弾の爆発とともに強大な電磁パルスが発生し、合衆国のあらゆる電子回路を破壊するメデューサ兵器ー残された時間は三時間半弱。運命を背負った五名の絶望的な飛行が幕を開けた。『着陸拒否』を凌ぐ迫真の航空パニック巨編
爆発の刻限まで一時間半を切った。国家と国民の運命を憂慮する大統領を尻目に、FBIはヴィヴィアンの拘束に血道を上げ、ペンタゴンと軍部は研究を目的としてメデューサ兵器回収の道を探る。地上の思惑が入り乱れるなか、機上の五名は離れ業にも近い解決策に思いいたった。時間の制約と想像を絶するハリケーンの猛威。苛酷な条件の下で、運命に翻弄された727は最後の賭けに出る。
親友ジャスティンの右腕となってモデル・エージェンシーを切りまわすフランキーは、GN社の春物コレクションに抜擢された新人モデル3人の付添役として、パリに同行することになった。不安と期待を胸に訪れた、最先端のモードと恋の街。色とりどりの新作コレクションさながら、彼女たちはそれぞれの夢と恋とを手に入れる。おかしくて、セクシーで、心が温かくなる、極上の恋物語。
ときは大恐慌時代、アメリカ南部。コールド・マウンテン刑務所では死刑囚が最後に歩くリノリウム張りの通路を“グリーン・マイル”と呼んでいた。不思議な鼠と巨漢の黒人死刑囚をめぐる、奇跡と恐怖、癒しと救済の物語。
深夜のファミリーレストランで突如、男の身体が炎上した!遺体には獣の咬傷が残されており、警視庁機動捜査隊の音道貴子は相棒の中年デカ・滝沢と捜査にあたる。やがて、同じ獣による咬殺事件が続発。この異常な事件を引き起こしている怨念は何なのか?野獣との対決の時が次第に近づいていたー。女性刑事の孤独な闘いが読者の圧倒的共感を集めた直木賞受賞の超ベストセラー。
すわ、幽霊舟か-暇をもてあます舟番所の惰眠を破った不可解な一艘。夜間航行の禁を犯した主は意外にも妙齢の町娘だった。心に病を宿したその儚げな佇いに、舟番所を預かる初老の旗本の胸は年がいもなく震えた…。女を繰り返し襲う夢魔。抑えようもない恋の焔。お家騒動の因縁話をからめ水の都は波間に揺れた-。
神様おねがい!アイツの隣に席替えしたいの…。時は1970年、よど号がハイジャックされるわ、大阪で万博は始まるわ、ジミ・ヘンは死ぬわで、もう大変!だったあの頃も今も、高校生の願いは変わらない。深夜放送に眠い目をこすり、創刊されたアンアンを読みながら大福の誘惑に涙を浮かべるちょっと太めのロック少女タヤマシゲミが、文庫書下ろし小説に登場。
「帝国」はぼくたちのこころの中にあるー。丸い卓袱台、四本脚のテレビに、フタ付きのくみ取り式トイレ。かつては、こんな暮らしが当たり前だった。そこに暮らす怪人アータン、妖怪シリナメ、ゲロゲロヨネダたち。若くして死んだ「ぼく」があの世から18年間の記憶を語りはじめる。忘れられたかつての郊外生活、「帝国」の記憶をやさしく誘うノスタルジー溢れる郊外今昔物語。
見えない、聞こえない、想うことしか出来ない。でも、待ち続けている。待てども来ぬ春を。あのクリムトが、そうだったように…。待っているのは私。とり残された土蔵に暮し、クリムトの偽絵を描く、この私。私の前に現れたのは、不幸の匂いを持つ女、キキ。新鮮な果実には腐敗を、若者の肉体には末期の老醜を見てしまう女。そして女も、春を待っていた。-哀しくも静謐な、愛の綺譚。
自分は女に、餓えている。この餓えを自分は、ある美しい娘が十二分に癒してくれるものと、信じて疑わない。実はいまだに口をきいたことすらなく、この一年近くは姿を目にしてもいない、いや、だからこそますます理想の女に近づいてゆく、あの娘が…。あまりに熱烈で一方的な片恋。その当然すぎる破局までを、豊かな「失恋能力」の持ち主・武者小路実篤が、底ぬけの率直さで描く。
ハイソサエティの退廃的な生活、それを見つめる虚無的な青年。実在の人物をモデルにして上流階級の人々の猥雑な姿を描いた問題作。カポーティが何より完成を望みながら、遂にそれが叶えられなかった遺作!この小説を発表したカポーティは、社交界を追われ、破滅へと向かっていった。
徳川家康か、それとも石田三成か。時代が天下分け目の戦いに向けて風雲急を告げつつあった頃、そのどちらにも与せず、第三の道を画策する巨人がいた。足利将軍家の血をひく細川幽斎ー。徳川の脅威にさらされる加賀前田家と提携した幽斎は、和歌の正統を受け継ぐ「古今伝授」を利用し朝廷を巻き込む一大謀略戦を仕掛けた。未曾有のスケールで描き上げる、関ケ原合戦驚愕の真相。
ついに兵は動き始めた。石田三成方の軍勢に居城・田辺城を囲まれた細川幽斎は、籠城に耐えつつ朝廷からの使者を待つ。その秘策は「古今伝授」を楯に取り、朝廷から和議の勅命を印き出すこと…。さらに幽斎にはもう一つの切り札「連判状」があった。そこに名を連ねる大名とは、いったい誰なのか。果して幽斎の「天下三分の計」は可能なのか?前人未到の「関ケ原」を駈ける意欲作。