出版社 : 新潮社
戦場に地獄を見た五体不満足の兵士。ホンダのバイクで爆走するウィリアム・バロウズ。妻(四十歳)のオナニー現場を見てしまった夫。変態KKK主義老人の愛人に惚れた青年。チェスをするとオカマ化するパパ…。生の現実の薄皮一枚向こうに透けてみえる醜悪で滑稽で陰惨でなまぐさい人間の本質。アメリカ随一の短編名人が腕をふるってじわじわ語る人生の悲喜劇、どすどす込み上げる黒い笑い!フォークナー賞作家の悲喜劇コレクション。
万引きで捕まった秋吉、横領が発覚した白洲。二人の不良警部補が罪のもみ消しと引き換えに命じられた、あるエリート公安警部の内偵。そして、大手DPEチェーンが“溺れる魚”から受けた奇妙な脅迫。その二つが結びついた時…。強烈な悪役、豪快なチェイス、痛烈などんでん返しが激突!まさに痛快、これぞ完璧なる娯楽小説。
主人公は、ヤスミン。黒い肌の美しき野獣。人間の動物園、マンハッタンに棲息中。あらゆる本能を手下にして幸福をむさぼる彼女は、言葉よりも、愛の理論よりも、とりこになった五感のせつなさを信じている。物語るのは、私。かねてヤスミンとは、一喜一憂を共にしてきた。なにせ彼女の中を巡り流れる「無垢」に、棲みついている私だから…。小説の奔流、1000枚の至福。泉鏡花賞。
父の事故死、母の出奔で別々に育てられた姉弟が、十年ぶりに再会した。以来、十七歳の弟は、二十歳の姉を週末ごとに訪ねる。夜、姉の布団で幼子のように身を寄せながら、歳月の重さと互いの愛の深さにおののく二人。その年、北国の町では怪しげな商事会社が暗躍し、孤独な二人に危険な人間関係がからみつく。百日紅の咲かない寒い夏に出会ってしまった、姉弟の一途な愛の行方は。
顔のあるものがいない…。それが大富豪・入谷精一の葬儀だった。喪主は美貌の後妻・春子。先妻の子供である英作・信子・雅司の三人兄妹弟は、精一の莫大な遺産の出所に疑問を感じ、あるレコードが謎を解く鍵であることを知る。その「夏の初恋」なるSP盤には、奇妙な歌詞が…。富豪の遺族が踏み込んだ時空の迷宮。本格ミステリを凌駕する圧倒的パワー。「RPG試案ー夫婦遍歴」併録。
あなたと触れ合っているその部分から、溶けてあふれて流れ出して、もう止められない…それが私の体なら、思い切ってどこまでも快楽を求め続けよう。暴力、輪姦、SM、不倫、レズビアン、中絶、そしてすべてを凌ぐエクスタシー。それらが渦巻くリアルな性の場面を、軽やかに駆け抜けるエロスの女神たち。その、欲情する体と無垢な心をストレートに描いた、世紀末衝撃の愛の物語。
アメリカ合衆国に初の女性大統領が誕生ー。だが、そのマドリン・ターナーを待っていたのは、東シナ海の制圧を目論む中国の脅威だった。台湾を併合した中国は、勢いに乗じて久米島を手中に収める。風雲急を告げる米軍嘉手納基地。軍部強硬派とワシントン守旧派に包囲されたターナーは、旧知のロバート・ベンダー中将に支えられ、危機に挑む。全面核戦争はいよいよ不可避なのか。
米軍嘉手納基地は緊張の極に達していた。中国が占領する久米島から飛来するJ-8とSu-27フランカー。非戦闘員の引き揚げ作業中の大惨事。ついに勃発した日中海戦。そして、中国は小型の核を爆発させ、ついに最終的なメッセージを送ってきた。決断を迫られたターナー大統領は、切り札のベンダー中将に手紙を託し、北京に特派した…。全面核戦争を目前に控えた息詰まる駆引きと終幕。
カナダで整形外科医として成功しているダルワラは、ボンベイ生まれのインド人。数年に一度故郷に戻り、サーカスの小人の血を集めている。彼のもうひとつの顔は、人気アクション映画『ダー警部』シリーズの覆面脚本家。演じるのは息子同然のジョン・Dだが、憎々しげな役柄と同一視されボンベイ中の憎悪を集めている。しかも、売春街では娼婦を殺して腹に象の絵を残すという、映画を真似た殺人事件まで起きる始末。ふたりは犯人探しに乗り出すのだが。
連続娼婦殺人犯は、とうとうダルワラとダーの間近にまで迫ってきた!犯人はいったい何者で、狙いは何なのか。事の真相は、二十年前のゴア海岸に遡る。ダルワラは、張形とともに旅していたヒッピー娘を助けるが、彼女こそ犯人のゼナナ-女装の売春夫を唯一目撃していたのだ。ダルワラやダー、そして担当刑事の記憶の糸を繋ぎあわせていくうちに、意外な人物が浮かび上がってくる。犯人逮捕は出来るのか…。そんな折り、ダーと生き別れとなった双子の片割れがアメリカからやってくる。神父見習いの生真面目な宣教師マーティンが、とんでもない騒動を次々に起こして。
中学での番長争い。差別的な体罰を繰り返す教師への憤怒。屑鉄拾いのツネオの懸命な恋。父親への初めての反抗。東京からやってきた美少女美智子への淡い恋。「高木の家」を目の敵にする古い商店の者たち。半島へ帰る者、留まる者。すべての光景が峻烈に鮮やかに浮かび上がる。十四歳という嵐の季節を著者自らの体験をもとに描く自伝的長編『海峡』第二部。
事故以来、人間嫌いになったジェシカは孤独な殻の中に逃避、ロペス島に犬と暮らしている。ルークの脳裡には、いつもジェシカがいる。このジェシカへの想いは何なのか?もう一度ロペス島に飛んだルークは、逃げる彼女に真実をぶつけた。二人に一週間の時間が流れ、ジェシカに愛の歓びと生きる力が蘇った。だが彼女は、ルークに黙ってシドニーへと旅立つ。大人の愛の行方は…。
「白髪というものは、時によって白く見えたり黒く見えたりするものですね」-知りもしない唄をゆるゆると、うろ声を長く引いて唄うような気分。索漠と紙一重の恍惚感…。老鏡へ向かう男の奇妙に明るい日常に、なだれこむ過去、死者の声。生と死が、正気と狂気が、夢とうつつが、そして滑稽と凄惨とが背中合せのまま、日々に楽天。したたかな、その生態の記録。毎日芸術賞受賞。
演出家のルークは、祖母コンスタンスの遺品にあった手紙に心を奪われていた。それは、舞台女優の祖母が愛弟子として慈しみ育てた、ジェシカの24年間にわたる親交の手紙だった。スターの道を歩む34歳のジェシカを襲った6年前の列車事故。彼女の人生は暗転した。ルークは、ジェシカが住むロペス島に飛んだが、かいま見た彼女の容貌にショックを受け、心痛の思いでその場を立ち去る…。
夫が肺癌で死んだのは、長年の喫煙が原因だー未亡人はタバコ会社を相手どって訴訟を起こした。結果いかんでは同様の訴訟が頻発する恐れもある。かくして、原告・被告双方の陪審コンサルタントによる各陪審員へのアプローチが開始された。そんななか、選任手続きを巧みにすり抜け、陪審団に入り込んだ一人の青年がいた…知られざる陪審制度の実態を暴く法廷サスペンスの白眉。
熾烈な陪審員買収工作が水面下で進行するなか、被告側陪審コンサルタントの親玉フィッチに近づいた謎の美女マーリー。彼女は、友人である陪審員ニコラスが評決の鍵を握っているという。はたしてマーリーの目的は何なのか?そして、勝利の女神は原告・被告どちらに微笑むのか…全米の一大産業に挑んだ一組の男女の孤独な闘い。その裏に隠された真の思惑が、いま明らかになる。
真犯人を捜し求めて二十年の歳月が流れた。犯人を突き止めた私は、再び深い苦悩にとらわれることになった。妻を殺したのは、結局私だったのかもしれない…。新天地ロサンゼルスでの、あの生涯最悪の一夜。リビングルームに眠る妻、首に絞殺の跡。警察の杜撰な捜査、日系社会の誹謗中傷。長く果てしない闇夜に私は二十年間さまよった。自らの体験にもとづいて、ためらい躓きながらも、何者かに導かれるように完成をみた感動の大作。
いつまでたってもモンスーンがやってこない暑い夏に、最初の雷雨とともに生まれた赤ん坊。長じて郵便局員になった彼は、仕事もいやだし生活もうんざり…。舞台はインド。人の手紙を開封しては、見知らぬ土地に夢を馳せる毎日。なぜだか郵便局長の娘の結婚式で尻丸出しで踊ってクビ。あげく突然グアヴァの樹に登る。なんの因果か聖者様と崇められて、とりまく信者に珍妙なる警句、これまたなぜだか起こる家族スパイ警察軍隊猿まで巻き込む大騒ぎの顛末は…?饒舌な語り。繊細な観察力。奔放な想像力。マサラな香りを漂わせる異色の文学の収穫。98年度ベティー・トラスク賞受賞。
いまはなにもしていず、夜の散歩が習慣の19歳の私こと子、おっとりとして頑固な長姉そよちゃん、妙ちきりんで優しい次姉しま子ちゃん、笑顔が健やかで一番平らかな‘小さな弟’律の四人姉弟と、詩人で生活に様々なこだわりを持つ母、規律を重んじる家族想いの父、の六人家族。ちょっと変だけれど幸福な宮坂家の、晩秋から春までの出来事を静かに描いた、不思議で心地よくいとおしい物語。