出版社 : 新潮社
首吊り女が産んだ奇跡の子。齢千年の巨樹はその未来を見通した。親も家も名も持たぬ「おまえ」を待つ、腐臭を放つ二十一世紀の日本。「おまえ」は盗みをくりかえし、白毛の老猿が語る謎の詩集に導かれ、個の自由を求めて流れゆく。だが、猛火と爆発を逃れつづけた「おまえ」の姿が捉えられる瞬間はついにやってきたー。強烈なスリルと暴力的な興奮が横溢する新世紀への黙示録。
自由を蹂躪され、窮地に立たされた「おまえ」を救ったのは大地震だった。そして、その地異は首都を壊滅させ、民衆の理性を奪い去った。独裁者はこの機に乗じた。愚民はわれ先に従った。「おまえ」は詩集を味読し、ナイフを振り下ろした。酒浸りの日々から復活すると、運命を海に託した。そして波間で裏切られた。憤怒を楽しむ「おまえ」は流れゆく者の使命を悟り、真の敵へと向かう。
夫婦と、息子ひとりの3人家族。どこにでもある、新興住宅地の平穏で幸福な一家だった。妻が妊娠したことで、新たなる喜びに一家は包まれる…はずだった。しかし、ある朝、夫が巻き込まれた小さな事件が思いもよらぬ展開を見せ、彼らの運命を大きく狂わせていくー。次第に追い詰められ、崩壊に向かう家族に、果して救いはあるのか?現代の不安を鋭くえぐった心理サスペンス。
偶然通りかかった、阿久津との思い出の場所。そこで私たちは出会い、恋に落ちたのだー。18年前に事故死した男との愛の日々を記憶によみがえらせたその日の晩、突然かかってきた電話の主は…。不思議で怖く、どこか懐かしい「異界」への扉を開く幻想小説8編。
他民族の支配を受けたことがないウアオラニー族。彼らはアマゾンで最も勇敢な部族と自負している。その領地内に石油が出た。エクアドル政府の協力を取りつけて油田開発を進める合衆国の石油会社。押し寄せる宣教団、環境保護活動家。勇士たちは槍と吹き矢を頼りに、自分たちの文化と熱帯雨林を守る闘いに立ち上がった。
夢を追うのか、現実に身をゆだねるのか。生き残るためにはどちらかを選択しなくてはならないのか。時代は高度成長期、舞台は唯一衰退していく映画産業界。映画に情熱を賭けつつも、会社という組織に生きた男の夢と挫折。そして未来には何があるのか。バブル崩壊後の時代を先取りした、著者会心の大作、700枚。
過疎化に悩む町が仕掛けた捨て身の町おこし運動。それに青春を賭けるプータローの若者。行き詰まった産業廃棄物業者、そして、新興のカルト教団。ある土地をめぐってこの四者が偶然に出会った時、物語が動きだした-。第3回新潮ミステリー倶楽部賞受賞。
鮮血にまみれ、白骨があらわになった死体!自らの肉体を切り刻む女!魔の奇病が突如出現し、日本はパニックに陥る。蔓延する戦慄の病魔とその謎に、気鋭の植物学者、五十嵐雄次が迫る。ボルネオ奥地の伝説と世界の先端医学が交錯した時…次々と起きる奇怪な死の裏側に、とてつもない巨悪が蠢いていた。推理界の巨匠、島田荘司が絶賛した、現役医師が著した第三回新潮ミステリー倶楽部・島田荘司特別賞受賞作品。
始まりは深夜の電話だった-。七年前に別れた息子が誘拐された。事件の解決を待たずに別れた妻も失踪した。ありきたりの推理を嘲笑う展開。男の胸を騒がす血と絆のドラマ。第三回新潮ミステリー倶楽部賞、高見浩特別賞受賞作。
都会の片隅に生を享けた黒猫フーディーニ。ある日、一人の若い女性に拾われてから日々は一変、飼い猫としての目まぐるしい日常が始まった。同居人は、飼い主のカップル、赤ん坊、犬、世間知らずの子猫グレース。やがて妻となる美しく無邪気な子猫グレースに語りかける、彼の人生、彼の哲学。
EU(欧州連合)版FBIともいうべきユーロポール。そこに誕生した初の心理分析官、クローディーン・カーターは、ソルボンヌ出身の才媛だ。連続殺人、臓器窃盗、悪魔信仰、ハイジャック、幼児売買、マフィアの復讐劇…国境を越え、民族を越えて頻発する猟奇、凶悪犯罪に果敢にいどみ、プロファイリングを駆使して犯人をあぶり出す。スリリングに展開する待望の新シリーズ12話。
色彩を判別できない女性写真家ケイ。親友の男娼ティムが惨殺され、彼女は独り、真相を探りはじめる。犯行の手口は、15年前に発生した連続殺人に酷似していた。その犯人が凶行を再開したのか?あるいは模倣犯か?ケイは一枚の葉書に導かれ、ティムの過去を知る“魔術師”の元へと向かった…。霧深いシスコを舞台に猟奇と幻想の世界を描き、巨匠たちを唸らせた匿名作家の問題作。
星新一氏の文庫本39冊にわたる全短編、さらに文庫未収録ショートショートを加え、全1048編を収録。第1巻「1961-1968」、第2巻「1968-1973」、第3巻「1974-1997」の3巻構成。年譜、五十音索引を付す。
嵐が過ぎ去るのをただ待つは、人の上に立つ将の器にあらず。われに救国の知謀、秘策あり。国もとから援兵は届かぬ。恃むは己の才智と志を一つにする家臣のみ。いざ、一大決戦の関ヶ原へ。太守・島津義弘の窮状を知った薩摩隼人は国抜けの汚名を覚悟して三百里の山海を奔った。そして屍山血河の関ヶ原から国もとへ義弘は生きて帰らねばならぬ。さもなくば、故国は関ヶ原の勝者にたたき潰され、時代の奔流にのまれてしまう-。卓抜な着想と深い洞察が冴える関ヶ原合戦史の決定版。
結婚してもいいと思っていた恋人にふられた。突然の左遷で仕事も取り上げられた。気づいたら頭には十円禿。人生で最愛の日だった29歳の誕生日。30歳までにはぜったい幸せになってやる!恋を仕事を人生を、あきらめない、投げ出さない。強がりながらいつも前向きな主人公典子を山口智子が演じて深い共感を呼んだ大ヒットドラマをもう一度。20代最後のクリスマス、あなたは誰と。
身に覚えなき「遺恨」から刃傷を受けた吉良上野介。咎めは免れたものの、賄賂などのあらぬ噂が流され不遇の日々を送っている。そんな彼の頭を占めていたのは「浅野はいったい何を根に持ったのか」の疑問だったー。忠臣蔵事件最大の謎に迫る表題作をはじめ、討入り直前の内蔵助を描いた「十三日の大石内蔵助」、直木賞候補作「千里の馬」など、斬新な角度から忠臣蔵を映し出す5編。
しーちゃんは町の大きな家の娘で、二十歳を過ぎているけれど静かに狂っていた。十四歳の私は、赤い椿のようにきれいなしーちゃんが大好きだった。でもしーちゃんは、好きだと言われれば誰にでも喜んで体を開く。だからある夜、私もしーちゃんの熱い脚の間で望みを果たした。しーちゃんは次の夏、狂ったまま死んでしまったー。胸の奥底に残る甘くせつなく恐ろしい恋の記憶の物語。