出版社 : 新潮社
五十嵐凛、書店員6年目。アトピーの痒みにもやっかいな客にも負けず、今日も私は心を自動販売機にして働く。皮膚が自分自身だった。肌を見られたくない、でもこの苦しみを知ってもらうことは、自分を知ってもらうことだった。非正規雇用、学校のいじめ、カスタマーハラスメント、そして東日本大震災…。痒みに支配された女性書店員の生きづらい日常を圧倒的リアリティで描いた。第34回三島由紀夫賞候補作。
私の人生は何度も塗り替えられたーー。最愛の伴侶を看取るなか、十年の歳月をかけて紡がれた別離と再生の長篇小説。昭和三十八年、三井三池炭鉱の爆発と国鉄事故が同日に発生。「魔の土曜日」と言われたその夜、十二歳の黒沢百々子は何者かに両親を惨殺された。なに不自由のない家庭に生まれ育ち、母ゆずりの美貌で音楽家をめざしていた百々子だが、事件は重く立ちはだかり、暗く歪んだ悪夢が待ち構えていた……。著者畢生の書下ろし大河ミステリ。
母のような女にだけは、なりたくなかった。「理想の妻」としての人生を全うした母。正反対の生き方を選んだ娘。幸せを手にしたのは、はたしてー。『主婦病』で絶大な支持を得た著者が描く、「家族」の呪縛を解き放つ感動作。
自由を愛するすべての人へ。ある「日本人」の熱き想いと切なる祈りが、香港の地で炸裂する。「返還」前夜の香港。和志は恋人の死の謎を追い、交換留学生として再びその地を訪れる。幽霊屋敷に間借りする活動家、ベトナムのボートピープル、「共産党員」と噂される大物建築家。次第に浮かび上がる香港の実相。やがて、和志は民主化運動の渦に呑まれてゆく。生と、自由の喜びを高らかに謳う、圧巻の社会派エンタメ。
どんでん返しの先に待つ衝撃のラスト……。道尾ミステリ史上、最強の破壊力! ある一本の電話が引き金となり、故郷へ赴くこととなった幸人。しかし、それは新たな悲劇の幕開けに過ぎなかったーー。村の祭が行われたあの日。一筋の雷撃がもたらした、惨劇の真相と手紙の謎。父が遺した写真。そして、再び殺意の渦中へ身を置く幸人たちを待ち受ける未来とは、一体。著者の新たな到達点にして会心の一撃。
コロナみたいな天下無双の人間になりたいーー読めば返り血を浴びる作品集。パンデミックに閉塞する世の中で、生への希望だったバンドのライブ中止を知ったとき、二人は心中することを決めた。世界を拒絶した若い男女の旅を描く表題作を初め、臨界状態の魂が高アルコール飲料で暴発する「ストロングゼロ」など、あらゆる場所でいま追い詰められている人々の叫びが響き渡る。いずれも沸点越えの作品集。
今度のピンチョンは9・11+家族小説!? 76歳にして新境地開拓の超話題作。ITバブルは弾けたが新世紀の余韻さめやらぬニューヨークで、子育てに奮闘する元不正検査士の女性。知人の仕事を手伝い覗いたネットの深部で見つけたのは、不穏なテロの予兆だった。NYの、そして世界の運命は肝っ玉母さんの手にーーオタク的こだわりと陰謀論にあふれる、謎に満ちたアメリカ文学の巨人が放つビッグバン。
アダムとイブ以来の繁殖形態に挑む鬼才白石一文版黙示録、堂々完成。小説家の前沢倫文が恋人の英理と暮らす新宿のタワーマンションで、米露中の要人が立て続けに不可解な死を遂げた。しかも現場には、白い幽霊の目撃情報が……。マンションに隠された企みとは? 世界有数の快楽地、新宿二丁目の秘密とは? そこは、地球の中軸が通っている場所だったーー。
秀忠の五女・和子は、大坂夏の陣以来いまだ緊迫する朝幕関係の架け橋となるために、後水尾天皇に嫁ぐ。だが、後水尾は天皇家と公家の行動を管理し、政治的主導権を掌握する幕府に怒りを覚えていた。和子がようやく皇子を儲け、家康以来の将軍家の宿願が果たされるかと思えた矢先、皇子は早世してしまう。悲嘆にくれた後水尾は、紫衣事件をめぐる幕府への憤怒が収まらぬなか、ある決心をする。天皇家と将軍家の対立を超え、世の安泰に全身全霊を捧げた波乱万丈の生涯に迫る。
破滅するとしても、この先の世界が見たいーー将棋に魅せられた者たちの苛烈な運命。棋士の養成機関である奨励会。年齢制限による退会が迫る中でも昇段の目がない岩城啓一は、三段リーグ戦前夜、対戦相手からある“戦略”を持ちかけられるが……。追い詰められた男が将棋人生を賭けたアリバイ作りに挑む表題作ほか、運命に翻弄されながらも前に進もうとする人々の葛藤を、丹念に描き出す将棋ミステリ。
当たり前の風景、繰り返される日常の営み。それが世界をかすかに震わせる。豪雨災害に見舞われた農村にボランティアとして赴いた私がふと目にした、花の世話をする住人らしき女性。その周りだけ、違う時間が流れていてーー被災地、自宅、保育園といったさまざまな場所で出会う何気ない出来事をつぶさに描いた中短篇の他、広島カープをめぐる奇談連作も収録。海外でも注目を集める作家の最新作品集。
息子が部屋に引きこもって7年、このままでは我が子を手にかけ、自分も死ぬしかないーー。従順な妻と優秀な娘にめぐまれ、完璧な人生を送っているように見える大澤正樹には秘密がある。有名中学に合格し、医師を目指していたはずの長男の翔太が、七年間も部屋に引きこもったままなのだ。夜中に家中を徘徊する黒い影。次は、窓ガラスでなく自分が壊されるーー。「引きこもり100万人時代」に必読の絶望と再生の物語。
森のはずれにあるキリギリスのお店、看板にはこう書かれていた。〈なんでもあります(太陽と月、星以外)〉。森のはずれの川のそばにあるキリギリスのお店には、どうぶつたちのほしがるものが〈なんでも〉ある。五本脚の椅子、なくならないケーキ、着替え用のうろこや羽毛、〈絶望〉や〈時間〉まで……。生きにくい時代にありのままであることを肯定し、そっと励ましてくれる『ハリネズミの願い』に続く大人のためのどうぶつ物語第三弾。
絶対に残業しない東山結衣vs.どうしても残業したい部下!? 真の敵はーー。定時帰りをモットーとする結衣の前に現れた、何故か残業したがる若手社員。その理由を知った結衣は、給料アップを目指し、人事評価制度の改革を提案することに。しかし、様々な思惑に翻弄され、社内政治に巻き込まれてしまう。長期出張中の晃太郎との将来にも不安が募り……。新時代の働き方を問う、大人気シリーズ第三弾!
言いたいことを言い、行きたい場所へ行く。日本経済の青春期を駆け抜けた業界紙記者がいた。昭和三十三年、高校中退の杉田亮平は、四十倍の競争率を突破して、十九歳で石油化学新聞に入社した。国策会社民営化、エチレン不況カルテル、企業間の技術譲渡ー数々のスクープで業界を激震させ、水面下で経済の流れを作ったのは、毎号わずか四ページの業界紙の若い記者だった。全ての働く人に贈る自伝的長編経済小説!
欲、業、金、偽、殺、毒ー信じる心が、嘘と虚像に翻弄され起こった平成最悪の事件。あの日、未知の毒物と闘った医師、看護師、駅員、警官。判断を誤れば、さらに人が死ぬー。なぜ、起こってしまったのか?膨大な資料と知識を土台に、想像力と熱意を注ぎ込むことで、剥き出しになった「オウム」の全貌。小説家でもあり、医師でもある著者にしか描きえない、そして、到達しえない真実。
なぜ男は、凶刃を前に笑っていたのか?離縁して三年半経つのに、なぜ女は前夫を刺したのか。徒目付の片岡直人は、調べの末「真相」を確信するが、最悪の事態に。折も折、奇妙な噂が耳に入る。毎日決まった時刻に大川を泳ぐ男がいると。何のために?目を惹く無様な泳ぎが引き寄せた思わぬ運命、封印された凄惨な事件とは…。圧巻の時代長編。
厚生労働省キャリア技官の松瀬尊、30歳。『官僚たちの夏』に憧れ、念願の官僚となるも、その実態は、深夜残業は当たり前、ブラック企業顔負けの現場だった…。「ゆとり世代直撃」なノンキャリの後輩、激烈パワハラ上司、フリーライダー同然の先輩職員の尻拭いに追われ、国会議員からの突き上げ、関係省庁との板挟み。さらには「国民」からの苦情電話に苦悶する日々を送っていた。そこに突如、新潟県で謎の公害病が発生。孤立無援のまま原因究明に追われる松瀬だが、ある謀略により「忖度官僚」として国民の非難の的となり…。過密労働、止まらぬ人材流出、そして、度重なる不祥事…。超リアルにして痛快な、新時代のポリティカルフィクション!