出版社 : 新潮社
コンスタンスは炭坑を所有する貴族クリフォード卿と結婚した。しかし夫が戦争で下半身不随となり、夫婦間に性の関係がなくなったため、次第に恐ろしい空虚感にさいなまれるようになる。そしてついに、散歩の途中で出会った森番メラーズと偶然に結ばれてしまう。それは肉体から始まった関係だったが、それゆえ真実の愛となったー。現代の愛への強い不信と魂の真の解放を描いた問題作。発禁から46年、最高裁判決から39年。いま甦る20世紀最高の性愛文学。約80ページ分の削除箇所を完全復活。
明治時代の終りに東京の下町に生れたるつ子は、あくまできものの着心地にこだわる利かん気の少女。よき相談役の祖母に助けられ、たしなみや人付き合いの心得といった暮らしの中のきまりを、“着る”ということから学んでゆく。現実的で生活に即した祖母の知恵は、関東大震災に遭っていよいよ重みを増す。大正期の女の半生をきものに寄せて描いた自伝的作品。著者最後の長編小説。
中央停車場の工事現場で働く青年、自由恋愛を夢見て東京へ出てきた娘、ステーションホテルを舞台に女に声をかけ結婚詐欺を繰り返す男、化粧室で変身し男を誘って小遣い稼ぎをする女教師…東京駅に繰り拡げられる人間たちのドラマを、鉄道と町の発展を背景に描き、著者の新境地を示す短篇連作。
難民の少女が希望のしるしとしたライラック、放浪癖の兄が好きだった向日葵、明治維新で自害した女の前で咲き乱れていた萩…。山本容子の銅版画をカラーで収録した文学と絵画が深く共鳴し合う小説の宝石箱。
甥にあたる将軍家光の苛烈な大名統制に憤る紀州頼宣。彼の幕府転覆の謀略が公儀に漏れた。発覚した場合のことまでを用意周到に計算した冷静な処置により、すべての罪を一身に被り、主家滅亡の危機を救った若き家老の知謀の冴えを描く表題作。織田家筆頭六将に任じられながら、あらぬ風評から謀叛人に落魄した荒木村重を描く「道糞流伝」等、歴史の陰の巨魁を描く傑作歴史譚8編。
「パール・ハーバー」の記憶をいやでも呼び覚まされる12月のワシントンDC。はじまりは、ある不幸な交通事故だったー。被害者の母である現職警察官は、加害者の日本人留学生カオリ・オザキへの復讐を誓い、姿を消す。そして、日系FBI特別捜査官タミ・スギムラら警察当局と暗殺者との一大攻防戦の幕が切って落とされた!日米両国の狭間で翻弄される三人の女性の運命は。
激しくセックスに溺れ、こね回されたり、舌を這わせたり、痙攣したりするのが気持ちイイ。愛したり、愛されたりするのは、相手が男でも女でも、SでもMでも心地イイー。真由美は、マレーバクみたいな婚約者よりも、涙が出るほど佐和子に夢中だ。亜紀は、妻子持ちの男に緊縛されながらも、蓮子の愛撫を忘れない。性の快楽を貪る女性たちの姿をリアルに描いたアヴァンポップな恋愛小説集。
友人と会社を共同経営するマール・ケイトンが、出張先のモテルで射殺体となって発見された。警察は自殺と断定。しかし自殺では保険金が支払われない。マールの妻パットに提訴を依頼された弁護士エリクソンは調査の結果、奇妙な点に気づく。これは他殺ではないのか。犯人は?動機は?-元検屍官の著者が豊富な知識と経験を駆使して描く異色ミステリー。全米探偵作家クラブ賞受賞作。
ミルドレッドは27歳の時に飲んだくれの暴力亭主に見切りをつけて、女手ひとつで五人の子供たちを育てている。人に頭を下げるのは大嫌い。気の強さは誰にも負けない。まだ若くてセクシーで、いつか理想の男性に出会いたいと思うけど、今は命より大切な子供たちのために、たとえ盗みだって何だってー。『ため息つかせて』の著者が、パワフルでタフな愛すべきママを描いた自伝的小説。
ロンドンで中華料理店を経営するニューエン・ニョク・ミンは、どう見ても風采の上がらない東洋人。だが最愛の家族を爆弾テロで失うと、彼は心に復讐を誓った。警察、新聞記者、代議士の元へ足を運び続け、遂に犯行の秘密を握る大物政治家にたどり着くと、ヴェトコンの優秀なゲリラ兵だった彼はあらゆる手を尽くして犯人を追い詰める。果して復讐は完遂するのか?著者渾身の代表作。
1955年、17歳のわたしはその後の人生を変える人たちと出会った。憧れの女性に一生を捧げた不思議な老人と親友になり、あるユダヤ人の少女と激しい恋に落ちた。ひと夏の恋は結局実らなかったが、今、38年ぶりに、老人の死がわたしと彼女を再びキャッツキルに引き戻した。二人に与えられた時間はたったの3日ー美しい自然と情熱的なアリアを背景に語られる、大人の恋の物語。
シンシナティのリヴァーフロント・スタジアム、ワールドシリーズ最高の盛り上がりをみせる最終戦九回裏。アレックスは、ずっと願っていたあの瞬間を手に入れたー。永遠に人々の記憶に残る偉大な行為「プレイ」を成し遂げたひとりの大リーガーの妻や息子との関係、友情、セックス、そしてちょっとした悲劇…。彼が生涯求め続けた、いつまでも失われず、色褪せない完璧なブルーとは。
高知の下町に生れ育った喜和は、十五の歳に渡世人・岩伍に嫁いだ。芸妓紹介業を営み始めた夫は、商売にうちこみ家を顧みない。胸を病む長男と放縦な次男を抱え必死に生きる喜和。やがて岩伍が娘義太夫に生ませた綾子に深い愛をそそぐが…。大正から昭和戦前の高知を舞台に、強さと弱さを併せもつ女の哀切な半生を描き切る。作者自らの生家をモデルに、太宰治賞を受賞した名作。
過去と故郷を捨て、カカオ農園による一攫千金をねらって、理想の土地を目指す男たち…。森に棲む神々や妖怪たちの伝説と詩を奏で、理想郷ケセイロ・グランデの争奪が繰り広げられる。血塗られた森に彼らが見たものとは…。次期ノーベル賞の呼び声高い、ブラジルの人気作家による最高傑作!気鋭の訳者による本邦初の完訳。
男はアムステルダムの部屋でいつもどおり床に就いた。目覚めたのはリスボンのホテルの一室だった。「私は別の誰かになったのか?」これは、死が口を開けてから閉じようとするまでのたった「二秒間」の物語である。アリステイオン・ヨーロッパ文学賞受賞。
春が来ないのなら、夢でも見るしかない…。クリムトの名画に寄せて描く哀しい恋の伝説。カラー図版多数収録!古し土蔵のなかで、世紀末ウィーンの画家クリムトの贋絵を描いて暮らす「私」を時折訪ねてくる不思議な女キキ。そのキキが描く肖像画には秘密があり、やがてひとつの「事件」が…。やって来ない「春」を待ち続ける登場人物たちの静かで哀しい日々を、クリムトの絵画と懐かしい映画に寄せて綴る、爛熟の香り高い長編。
90年代最後の、そして最高の、ピュアな恋愛小説!ニューヨークで暮らす弁護士の夫と、雑誌編集長の妻、そして13歳のひとり娘。幸福を絵に描いたような家に、ある日突然、不幸が襲いかかる。郊外の別荘で乗馬に出かけた娘が、大型トレーラーに轢かれる大事故に遭う。娘は片足切断、馬は手のつけられない半狂乱の状態に。妻は、深く傷ついた娘と馬を立ち直らせようと手を尽くすうちに、野生馬や暴れ馬を手なずける特別な能力を持ったカウボーイたち、すなわちホース・ウィスパラーの存在を知る。実在するホース・ウィスパラー、運命の鍵を握る男を求めて、妻は遙かなモンタナの、大自然の中へと旅立った。