出版社 : 新潮社
関ケ原に向けて満を持した二十五万の兵力が動きはじめる頃、細川幽斎は三成方に居城を囲まれ、ひたすら籠城戦を耐えていた。我れに秘策あり。しかし糧秣弾薬には限りがあった。来る。必ず使者は来る。古今伝授はその時のためにこそあった。そして決定的な切札、それこそが関ケ原連判状。事が成らねば天下は家康の、あるいは豊臣のなすがままとなるは必定。幽斎の決戦は史上最大の戦闘の前に始まっていた…。
夫の修理と死に別れ寡婦となり、鶴ヶ城へ行けぬまま官軍兵士の暴虐にさらされた神保雪子を描く表題作。若松郊外涙橋の戦いに散った絶世の美女・中野竹子を描く『涙橋まで』。女だてらに銃を持ち籠城戦で戦った山本八重を描く『残す月影』。一八六八年の会津を舞台に織りなされる各々の人間模様。男と女の滅びの美を丹念な史実の発掘から見事に描きだす珠玉の六編。
弁護士資格を取得してわずか三カ月の青年に勝ち目はあるのか?難癖をつけて、法の名の下に骨髄移植への保険金支払いを拒否しつづける巨大企業。企業の論理に個人は敗北しなければならないのか。法は弱い者の味方では…企業側の強力弁護団を相手に無謀な戦いを挑む新人弁護士の勇気ある行動を通して法社会の現実に迫る。
二十年間共に暮らしたあと、出ていった夫。投函はしないけれど、日々の思いを「私」は綴る。誠実さだけがとりえ、と思っていたあなたに愛人がいることを知った衝撃。金銭問題であなたと敵対しなければならないことへの怒り。自分にも訪れた新しい出会い、しかしそれを見る娘の、なんとまあ冷たい視線…動揺と悲しみ。あきらめと安らぎ。子供を抱えて離婚した女性の葛藤と成長を、手にとるように描く。
1943年3月、ブレッチレー・パークの暗号解読センターは戦慄した。ドイツ軍の暗号“サメ”が突如解読不能になったのだ。折しも北大西洋上をアメリカの護送船団が航行中。それを狙うUボート大艦隊の動きは闇に包まれた。亡国の危機にケンブリッジで静養していた若き天才暗号解析者トム・ジェリコが呼び戻された。解読に与えられた猶予はたったの四日。ジェリコの孤独な闘いが始まる…。
1907年、一組の夫婦がコーンフレークで有名なあのケロッグ博士経営の療養所を訪れた。博士の健康法を信奉する妻が、胃痛と不眠に悩む夫を連れてきたのだ。オオバコの種子とヒジキの食事、菌の排出のための一日5回の浣腸、電気風呂やら泥風呂、振動ベルトに電気毛布、そして厳格な禁欲生活…。過酷な科学的治療に夫は疲れ果てるーいまアメリカで最も笑える作家が贈る抱腹絶倒本。
明治33年、15歳の菊地加根は九州から東京の森の学園・日本女学院に入学した。恋愛、友情、嫉妬ー「新しい女性」の理想を掲げた自由な校風の下、加根を取りまく女学生たちの青春の姿が細やかに描きだされ、明治の群像が瑞々しく蘇る。女性たちの自立への歩みであると同時に、幕末から明治30年代に至る文化史でもある豊潤なロマネスク小説。近代日本の百年を生きた著者の畢生の大作。
幕末期、勤皇派の薩摩藩士の企てを上意によって阻止せんとした寺田屋の変。辛うじて生き残った志士たちが、長州との勢力争いのため、迎えることを余儀なくされた無残な最期とは(「遺恨の譜」)。詰め腹を切らされた父の無念を晴らすべく、主君の死に際してご法度となっていた追腹を願い出た武士の心情を綴った、著者のデビュー作(「高柳父子」)。哀感あふれる名作九編を収録。
文化元年、幕府は対露政策の一環として蝦夷地に官寺建立を決定。命を受けた文翁、智弁らは、アイヌ教化のためにアッケシに赴任した。文翁の布教は困難を窮め、若い智弁はアイヌを虐待する和人に慣りを募らせていく、やがて、文翁は幕命を果せぬまま横死、智弁は苛烈な運命に呑まれてゆく。二つの文化の間で苦悩する二人の僧を通して歴史の暗闇に光を当てる新田次郎賞受賞の巨編。
19世紀なかば、漂着した孤島で豊富なダイヤモンド資源を発見した一組の男女。その子孫であるアーサー・ドーセットはオーストラリアのダイヤ王として、富をほしいままにしていた。だが、その採鉱は膨大な生命を奪う危険な技術を活用するものだった。ドーセットの娘で海洋生物学者のメーブ・フレッチャーを南極で偶然救出したピットは、彼女と協力してこの阻止を図るが…。
息子たちを人質に取られたメーブとともに、ピットとジョルディーノはグラディエーター島へと救出に向かった。だが、ドーセットの罠にはまり、三人は絶海を漂流する運命に。彼らが自然の猛威と絶望的な苦闘をつづける一方で、ドーセット鉱山のもたらす衝撃波は、ハワイの200万近い人命を奪おうとしていた…。音速で迫り来る危機に瀕したNUMAの面々の機知と格闘を描く問題作。