出版社 : 新潮社
ガス室での死刑執行が目前に迫った69歳の死刑囚サム。実の祖父の弁護に奔走する26歳の弁護士アダム。あらゆる法的手段を駆使して救命に努めるが、刻々と迫る処刑の瞬間まで残された時間はあとわずか。もはや死刑をまぬがれることはできないのか?死刑制度そのものの問題点を抉りだし、死の恐怖と向き合う人々の苦悩を浮き彫りにした著者渾身の長編。
空しい結婚生活は破綻した。孤独な「朔太郎の娘」は、一人息子を育てながら、ようやく書くことで生きがいを見出す。しかし、淡い恋も失い、昔、父を裏切り、自分を捨てた母を捜して引き取ったことで、我儘と狂気に翻弄される嵐のような日々が始まった。一族の酷薄な仕打ちと暗く閉ざされた青春を描いた衝撃のベストセラー「蕁麻の家」、不幸な結婚を赤裸々に綴った「閉ざされた庭」につづく、著者渾身の自伝小説。
東京下町、荒川土手下にある小さな共同ビルの一階に店を構える田辺書店。店主のイワさんと孫の稔で切り盛りするごくありふれた古書店だ。しかし、この本屋を舞台に様々な事件が繰り広げられる。平凡なOLが電車の網棚から手にした本に挟まれていた名刺。父親の遺品の中から出てきた数百冊の同じ本。本をきっかけに起こる謎をイワさんと稔が解いていく。ブッキッシュな連作短編集。
南方を遍歴して医術をきわめた医〓は、瀕死の美少女〓@49A3@を救うことができるのか。名医の登場で新たな生彩を放つ巻。異色の孔子伝。古代中国の医術と呪術の対決。中島敦記念賞受賞。
どうしてあなたは生まれ、こんなにも早く死んだのかー息子と共に過ごした時間を丹念に辿り直し、自分の人生、そして母の人生へと溯るうち、生と死の必然性にゆっくりと思いいたる。母もまた、わたしの兄である息子を失っているのだ…。表題作のほか「泣き声」「春夜」の2篇を収録。手繰り寄せる夢と記憶の中に今は亡い息子の生を確信する美しい鎮魂歌。平林たい子賞受賞作。
深夜、十津川警部の電話が鳴った。妻を殺し最近出所した男からだった。死んだはずの妻を見たという。同日、電話の男が殺され、現場に次の殺人を予告する血文字「文殊に聞け!」が残されていた。十津川は丹後に急ぐが、予告通り男が射殺され、凶器の指紋から、ライフルのオリンピック選手が浮上する。だが、彼は昨年焼身自殺していた…。死者が絡む奇怪な予告殺人を描く長編ミステリー。
商用で中国奥地を訪ねた男が、ふと立ち寄った少数民族の村。そこでは人が空を飛んでいた。幻を見ているのだと思いつつも、いつしか現実との境目がわからなくなり…(「中国の鳥人」)。タクシー運転手の饒舌にうんざりして、思わず口走った小さな嘘が招いた悲劇とは(「たどん」)。妄想が産みだす恐怖と笑いに満ちた不思議な世界へ読者を誘う幻想譚八編。著者の短編小説リストを収録。
斬るか斬られるかの厳しい剣の世界で死と隣り合わせに生きる剣客たち。そのさまざまな生のかたちの中に、人の世の情け、人生の妙が味わい深く捉えられた粋な剣豪小説集。卑劣な手段で父を殺された娘が、蛇を小道具に旅の武芸者の助太刀を得て敵を討つ表題作、弱者相手の他流試合で賭金を稼ぐ男の末路を描いた「見世物剣法」など10篇に、女剣士・川崎小秀が活躍する連作4篇を併録。
自然豊かな島に暮らす女の子は、夢想好きで誰よりも早起き。それで、朝の少女と呼ばれている。夜が大好きな少年は、いつしか暗闇に変身できるようになり、眠る必要がなくなってしまった星の子。対極的な姉弟は、両親の教えや大自然との対話を通して、少しずつ大人になっていく。海や星や太陽に抱かれ、ふたりは幸せだった。運命の日がくるまでー。生命の輝きに満ち溢れた愛の物語。
息子は医者です。物騒な市の汚ない市営病院の、戦場みたいな救急治療科に勤めています。早くよそへ移ればいいのに。その息子が恋をしました。相手は同じ職場の掃除婦で、しかも子持ちの黒人でした。確かに息子も黒人です。でも、この女とは住む世界が違います。いったい息子は何を考えて…。緊迫する医療現場で献身的に戦う人々が、ひたむきに織りなす愛と勇気、情熱の人間模様。
ママ特製チキン・スープ、自宅の庭に生える珍しい茸のシチュー、自家菜園でとれた野菜サラダ、愛情のこもったラム・レッグのロースト、もちろん年代物のワイン…。みんなおいしくて、完璧な凶器です。ひと味足りないから塩を取ってほしい?それはとても危険!なぜって塩も立派な凶器ですから。名シェフのアシモフが、16品のフルコースの献立にちなんで殺人事件を集めました。
美しく聡明な女性ばかりを狙った連続誘拐殺人事件がノース・カロライナとロサンジェルスで発生した。ワシントン市警刑事アレックス・クロスの姪ナオミも行方不明になり、彼は南部へ向かう。自らカサノヴァ、ジェントルマン・コーラーと名乗って警察を挑発する誘拐犯は同一人物か?そしてナオミの安否は…サイコドクター刑事アレックス・クロス・シリーズ第二弾。
自称“ボケ老人”の映画監督八十一歳とベテラン女優の妻。慈しみあい静かに暮らす二人の前に、生まれたての野良ネコがひょっこりあらわれた-。新作に執念を燃やす老監督。大人への階段をまっしぐらに昇る子ネコ。それぞれの、力いっぱいの「生」を描いた感動のストーリー。
歯科医院で働く二十歳の姉と、自動車修理工場で働く十七歳の弟。父の死、母の出奔により別々に育った姉弟が十年ぶりに再会したその年、北国は百日紅の咲かない寒い夏を迎えていた。怪しげな商事会社の暗躍、それぞれのどうにもならない愛情問題、お互いの心の奥底の欲求…育まれた悲劇の芽は次第に大きく育ち、巨木となって二人に襲いかかった。北国の姉弟の悲しい運命を静かに描き上げる三浦文学の新しい結晶。
静謐な狂気としての私小説。一九九三年第六回三島由紀夫賞を受賞した『塩壺の匙』以後に発表され、日本文学の伝統である“世捨人の文学”と評された表題作『漂流物』と、『虫の息』『木枯し』『抜髪』『物騒』『めっきり』の六編のほか、掌編小説『愚か者』(12作)を収録。
ある昼さがり、明子が受けた一本の電話。高校時代の級友、夕子からだ。ところが春のクラス会の予定を告げた後、彼女の「あーっ」という悲鳴をのこし、電話は一方的に切れてしまう。ほどなく自宅の電話機の前で、絞殺死体となった発見された夕子。事件の渦に、否も応もなく巻き込まれた形の明子だったが…。待ちかまえる四つの怪事件に、「葬儀屋探偵」明子の推理が光る、爽快活躍篇。