出版社 : 新潮社
見知らぬ男が私に「あなたに会ったことがある。デイジー・サマーズのお友達でしょう」としつこく言い寄って来た。その男との情事のあとで逃げるようにスイスからイタリアに静養の旅を続ける私は、南アフリカの女学校の寄宿生活と数学教師ミス・Bや妖艶な母を思いだしていた。そして私を慕う女性徒デイジーを。虚無的な女の性と愛憎と過去の秘密を描いたO・ヘンリー賞受賞作。
ワシントンの名門小学校に通う映画女優の娘マギーと財務長官の息子マイクル。二人への脅迫電話があり、授業を中断して算数教師のソーネジが二人を家へ送っていくことになった。だが、ソーネジは二人を自分のヴァンに乗せるないなやクロロホルムのスプレーを噴射した。-事件を追うワシントン市警、シークレット・サーヴィス、FBIそれぞれの思惑が絡み合う中、次の犠牲者が。
捜査を命じられたワシントン市警のアレックス・クロスは心理学の博士号を持つスター刑事だ。だが捜査は難航を極め、失態を重ねた末にようやくマクドナルドで銃を乱射していた男を逮捕した。しかしクロスが面会した時に男はすっかり小心で善良な市民ゲイリー・マーフィに戻っていた。男は本当にソーネジなのか。消えた身代金は何処へいったのか。そしてマギーを連れ去ったのは…。
アカデミー賞授賞式も、いよいよ感動のフィナーレを迎えていた。主要部門を独占した映画「ジ・アミュレット」の面々が、壇上で喝采を浴びている。その一瞬、オスカーを獲得した大物プロデューサーが刺殺された。テレビ中継されている前で…。ハリウッドに渦巻く彼の噂の数々。ロス市警の執拗な捜査が難航する中、ハリウッドを熟知した往年の名女優ハルシーが登場。名推理が冴える。
恋があなたのパパなのに、恋は身を軽くするものなのに…。まり子は三人の男性に等分に恋をして、妊娠して、結婚した。ふわふわと膨らむ女の子の夢、膨らんだお腹、「生命」と「日常」の重さ。恋する「人魚姫」のせつない想いを結晶させた、野中柊ワールド。
関が原の後、石田三成の義弟の妻だった真田幸村の実妹の於妙を娶り、睦まじく添いとげた滝川三九郎。その、運命に逆らわずしかも自己を捨てることのなかった悠然たる生涯を描いた表題作。父弟と袂を分かって家康に仕え、信州松代藩十万石の名君として93歳の長寿を全うした真田信之ほか、黒田如水堀部安兵衛、永倉新八など、己れの信じた生き方を見事に貫いた武士たちの物語8編。
剣に将来を託し、武市半平太の命ずるままに暗殺剣を振るい続けた岡田以蔵の末路(「魔剣」)。世情騒然たる京都三条小橋のたもとにうずくまる老乞食と維新を焦る桂小五郎との奇妙な交流(「膿殺」)。西洋菓子の原型を日本で造り上げた紅屋留吉と維新後の永倉新八との不思議な因縁(「剣菓」)-幕末から維新の激流に翻弄されながらも、苛烈に生きた志士たちの命運を刻んだ九つの時代異譚。
果たし合いなど廃れていた江戸時代末期に、些細な口論から果たし状をつきつけられた武士の困惑(「蛍橋上流」)。藩主の意に背き、浪人の娘を嫁にとった親子の悲劇(「花散りて後」)。斬るなかれ、斬らるべしーという極意を得ていた剣の達人が、主君から放し討ちを命じられ、悩んだ末に思いついた秘策とは(「放し討ち柳の辻」)。武士道無残を峻烈に描き切った、緊張感みなぎる作品集。
足利将軍家の姫君香具耶を奪った者には南蛮銃三百挺をとらせようー。美女香具耶を憎む妖女玉藻の号令に信長・謙信・信玄らは色めき立った。姫を護るは剣聖塚原卜伝、上泉伊勢守。仕官先の大名の品定めに高見の見物決め込んだのは日吉丸。二匹の狐妖術対決。淀川では上杉軍と武田軍がぶつかって…。戦国オールスターキャストでお贈りする奇想天外・痛快無比の傑作長編伝奇小説。
スティンハースト卿率いる劇団員は、スコットランドの古い館ホテルに滞在。ロンドンの劇場のこけら落としを前に、リハーサルを進めていたが、そのさなか、野心的な新進女流劇作家が殺害された。現場に乗り込んだ貴族刑事リンリーと相棒のバーバラは、やがて、スティンハースト一族のスキャンダル、パブの女房の自殺という、二つの過去の事件を知るのだが…。異色コンビが犯人を追う。
好漢青江又八郎も今は四十代半ば、若かりし用心棒稼業の日々は遠い…。国元での平穏な日常を破ったのは、藩の陰の組織「嗅足組」解散を伝える密明を帯びての江戸出府だった。なつかしい女嗅足・佐知との十六年ぶりの再会も束の間、藩の秘密をめぐる暗闘に巻きこまれる。幕府隠密、藩内の黒幕、嗅足組ー三つ巴の死闘の背後にある、藩存亡にかかわる秘密とは?シリーズ第四作。
「この男を今、私のものにしたい」何もかもどうしようもない、という磨理枝と、何もかもどうでもいい、という夕凪。クラスメイトのなかで、どこか違っている二人。子供であることを嫌悪し、大人であることを武器にする少女たちの季節…。誇りたかく多感な彼女たちの傷つきやすい恋愛を、瑞々しいタッチで描く、青春の物語。
昭和五十年暮、帝国海軍きっての知性といわれた最後の海軍大将井上成美が逝った。彼は終始無謀な対米戦回避を主張、兵学校長時代には英語教育廃止論をしりぞけた。敗戦前夜は一億玉砕を避けるべく終戦工作に身命を賭し、戦後は近所の子供たちに英語を教えながら清貧の生活を貫いた。狂熱の時代に、合理性を保ち続けた〈意志〉の人生の生涯。
戦争に反対しながらも、自ら対米戦争の口火を切り、世界を震撼させた連合鑑隊司令長官山本五十六。今日なお人々の胸中に鮮烈な印象をとどめる天才提督の赤裸々な人間像、その栄光と悲劇を、膨大な資料と存命者の口述をもとに余すところなく描き、激動の昭和史を浮彫りにした、必読の記録文学。