出版社 : 新潮社
調香師の有川が強姦財で告訴された。彼には、犯行に及んではいない絶対的な理由があるのだが、男としては、どうしてもそれを喋べることでできない。ある手術を受けて性の快楽を得た代償に、鼻の感覚を失ってしまったフランスの天才調香師ビサナの末後が、彼の脳裏にやきついていたのだ…。表題作ほか、今陽子主演で映画化された「蕾の眺め」など、性に翻弄される人々を描いた5編。
血のつながりはない養父・裕平との愛に翻弄される誓子は、不治の病に冒された母・やよいの過去の秘密を知って立ち竦む。そして、やよいの死を契機にあらたに解きあかされていく、あまりにも意外な真実…。家族という強い絆に結ばれているがゆえに、重く錯綜する三人それぞれの愛のかたち。男と女、生者と死者、過去と現在、そして、意識と記憶がしずかに交錯する異色の長編小説。
非業の最期をとげた若き枢機卿チェーザレにとって生きる意味は何だったのか。1492年、彼の父は法王に即位し、ボルジア家の人々は、若く美しく、情熱的であり、その無邪気な残虐行為と途方もない野心は、体内を流れる熱い血への服従であった。ボルジア一族の愛欲と野望と権謀術数を背景に、イタリア王たる夢を抱く野心家チェーザレと彼の妹ルクレツィアとの背徳の「愛と死」を描く。
ソ連の対潜ヘリ空母ハリコフに新兵器ウルトラ・ソナーが装備された。その性能を探るため、英国の最新鋭原子力潜水艦サターンはバレンツ海のソ連海軍演習海域へ潜入する。だがその行動はすでに察知され、ソ連はハリコフの他原潜四隻をも配置し、サターンを捕獲すべく待ち構えていた。サターン艦長が離脱を決意したとき、ソ連の対潜ロケットの衝撃がサターンの艦体を揺るがす…。
薩摩の密貿易で幕府の財政が揺らぐ。幕府の独占すべき北国の上質海産物を、薩摩を経て中国へ流しているものは誰か-密命を帯びた幕府隠密の捜査は、長崎から北陸、松前へと伸びる。幕末の日本海を舞台に、壮大な規模で展開する、時代冒険小説。
九州は大分、大友宗麟の足元に、南蛮医アルメイダの建てた聖母の病院。キリシタンに改宗してしまった師と同僚を連れ戻しに来た、若き漢方医・東野左中が見たものは-。驚異の南蛮医術、バテレンと仏門派の宗教争い、そして恋。若き医師の苦闘と成長の物語。
夢の木坂駅で乗り換えて西へ向かうと、サラリーマンの小畑重則が住み、東へ向かうと、文学賞を受賞して会社を辞めたばかりの大村常賢が住む。乗り換えないでそのまま行くと、専業作家・大村常昭が豪邸に住み、改札を出て路面電車に乗り、商店街を抜けると…。夢と虚構と現実を自在に流転し、一人の人間に与えられた、ありうベき幾つもの生を深層心理に遡って描く谷崎潤一郎賞受賞作。
深淵の底から、現実という水面に湧き出る、交錯した夢と記憶。コンクリートのマンションに住む人間たちと、森に棲む生き物たちとの密かな交感ー。子供たちに見せるため、別れた男と会いながら、奇妙な沈黙が続いてしまうその光景を、山の男と村人との物言わぬ物々交換、すなわち黙市に重ね合わせる川端賞受賞の表題作等、この世にひっそりと生きる者たちの息遣いに耳澄ます11編。
高層ホテルの用地買収に応じて、一家は住み慣れた西新宿の家を手放し、ホテル完成とともに地上18階の一室を故郷とすることになった。大都会に生きる人間にとって、土地とは、故郷とは、いったい何なのか、変貌してゆく東京の姿を平凡な家族の姿に託して描く、芥川賞候補の表題作ほか、故郷の島に取材した「入江の宴」など、著者の文学世界の豊かな広がりを示す珠玉作、全4編。
米ソ二大国の軍縮交渉が進展するなか、西独首相ルーデルは「強いドイツの復活」を主張していた。ソ連最高幹部は彼の失脚を狙って、まず外交ルートからの脅迫、そして側近がKGBスパイであることを暴露する。しかしルーデイは辞任せず、続く暗殺計画も失敗すると、いよいよ最後の作戦が発動されたー。軍事史専門家である著者が豊富な知識を生かして描く、迫真のヨーロッパ未来像。
モントリオールへ向かうアムトラックの車内で男が変死した。血友病の兆候もないのに、小さな切り傷がもとで失血死したのだ。事件に興味を持った放送ジャーナリスト、ハガティは身辺に迫る危険を感じながら、マイアミの血液売買ルートを追う。事件の焦点はグアテマラに暗躍する一人の男だった。ハガティは全てを解明すべく、謎のの美女エヴァと共にグアテマラへ飛ぶ…。
今夜、僕は君を抱かない。たとえ僕の体が破裂してしまっても、抱かない-もう1人の誰かへの愛と友情のために、あるいは自らの理想のために、抑えがたい情念を制御しあうことで競いあうかのような、ひたむきな三角関係。かつて描かれたことのない紺青の深海を背景に、2人の男性と1人の女性の宿命を美しい悲劇に結晶させた、渾身の力作。
古代ギリシア、中国から現代まで、世界文学のすべてを集約。旧版を全面改訂、新項目1451を加えて全4711項目、多彩な情報を満載した四大付録。新編集の“便利な世界文学百科”。
繊細で心やさしい童話作家の私。この純粋無垢で純情な私が、結婚した娘に送金するために、悪寒と戦慄、恐怖と吐気に七転八倒しながら、バイオレンス小説を書きはじめた。家族のために死ぬ思いで苦労している私を、優しく美しく、知性もある女房が殺そうとしている。次々と襲う危険な罠、恐怖体験。私の妄想か、錯覚か?-ちっとも怖くない大恐怖ユーモア小説。
航空機がテロの標的としてあまりに危険になったため、米政府は地下にトンネルを巡らし弾丸列車を通す計画を立てた。最大の難所、ミシガン湖底の工事が、もう完成間近だった。しかしコンピューターの予測する地層が、実際と全く違う。無理な工期の短縮もあって、現場は大混乱だった。案の定、爆発事故が続き、奇蹟的に生き残った人々は、深さ400フィートの湖底に閉じ込められた…。
学術論文をまとめるため渡英したドロレス・デュアラーは、ある日、やはり単身でロンドンに赴任していた商社副社長ヴィクター・モリセイと出会い、一夜をともにする。徹底的な女権拡張論者、自然保護論者であるドロレス、男性主導社会の論理に固執し、常に勝者であることを目指すヴィクターーまったく相容れぬはずの男と女が、運命の糸に引きずられるように恋に陥ちた。
ドロレスは男性の支配する社会、生産性のみが重視される社会への憤りを訴え、ヴィクターはそれを認めたうえで彼女の潔癖さ、偏狭さを指摘した。ふたりは互いにおのれの信念を譲らず、会うたびに反発し、だが同時に強く引かれあう。-他人を傷つけながら生きていかざるをえない男と、他人の心の傷みに涙を流す女。理性と感性がぎりぎりまでせめぎあう愛の極限を精緻に描く長編。