出版社 : 新潮社
「もういいんです」人を殺めた女は控訴を取り下げ、静かに刑に服したが……。鮮やかな幕切れに真の動機が浮上する表題作をはじめ、恋人との復縁を望む主人公が訪れる「死人宿」、美しき中学生姉妹による官能と戦慄の「柘榴」、ビジネスマンが最悪の状況に直面する息詰まる傑作「万灯」他、「夜警」「関守」の全六篇を収録。史上初めての三冠を達成したミステリー短篇集の金字塔。山本周五郎賞受賞。
両親の離婚でひとりぼっちになった少年は、13歳の誕生日を迎え、憧れのサーカス団・レインボーサーカスに飛び込んだ。ハイヒールで綱の上を歩く元男性の美人綱渡り師、残り物をとびきり美味しい料理に変える名コック、空中ブランコで空を飛ぶ古参ペンギンと、個性豊かな団員達に囲まれて、体の小さな少年は自分の居場所を見つけていく。不自由な世界で自由に生きるための、道標となる物語。
親に抑圧されて育った無気力な高校生・有森澪音は、喫茶カグヤのマスター・小野寺豪から奇妙な忠告を受けた晩、“夜”と呼ばれる異形が跋扈する廃墟に迷い込んでしまう。そこで澪音は、自分を一方的に知る謎の少年・イザヨイに導かれ、悩みを抱える人のトラウマが具現化した“夜”をなりゆきで退治することになるのだが…。優しくて、ちょっぴり切ない青春異界綺譚、ここに開幕。
時は戦国黎明期、大航海時代。火縄銃・銀・宣教師…世界につながる薩摩の海には、後の大乱の世の火種が流れ着いていた。島津宗家の四兄弟が、祖父・日新斎から受け継いだ「海内統一」「天下静謐」の大願。その鍵は、失われた明の巨大艦船を甦らせることにある。史実を基に、奇才が圧倒的な想像力で物語を展開。歴史小説の新時代の到来を告げるかつて無い戦国巨編が、いま始まる。
米国NSAの局員アーヴァインは暗号解読の専門家。中東のテロリストを炙り出すためのプロジェクト「サイバー・シェパード」を立ち上げた。その矢先に世界各地で同時多発テロが発生するが、被害は最小限に止まる。その立役者は英国MI5の諜報員サリーだった。次なるテロを阻むべく手を組んだ二人は、逃亡したテロリストの首魁アスワミーの行方を追ってサイバー空間を渉猟していくが…。
イギリスが検挙したテロリストを訊問したアメリカは、大失態を犯す。国家の思惑を背負いながらも互いに惹かれ合うアーヴァインとサリー。アーヴァインはアスワミーに繋がるアドレス「スマートマン」を発見したものの、発信元にはたどり着けない。テロリストたちの真の狙いとは?緊迫感が募っていく中、サリーはある符号に気づいた…スパイ小説の巨匠が放つ迫真の電脳諜報サスペンス!
緑の蔦に覆われた大学の古い建物、深い霧に包まれる森。東部ヴァーモント州の大学に編入した主人公リチャードは、衒学的なモロー教授のもとで古代ギリシアの世界に耽溺する学生五人と知り合う。そしてある夜、バッコス祭の神秘を再現する熱狂の中で凄惨な事件が起こった。美と恐怖と狂気が彼らを駆り立てるー『罪と罰』を彷彿とさせる傑作長編小説!
事件を知り、農夫の死に疑いを持った一人の学生が、四月の雪の夜に崖から転落した。音信が途絶えた息子を探す両親。町中が狂奔し、古代ギリシア語クラスの学生たちにもFBIの捜査が入った。密議を重ねながらも、しだいに精神の平衡を失ってゆく四人。そしてリチャードにも危機が…。世界が注目する作家のデビュー長編!
いにしえのゲルマン人が育んだ、豊饒なる古典世界への扉を開く。古きゲルマン神話を伝える詩篇「エッダ」では、万物の父オーディン、槌をふるう雷神トール、ひねくれ者ロキといった神々と英雄たちが躍動する。欧州の初期中世文学に冠たる散文芸術「サガ」は、アイスランドの人々の生活や信仰、ヴァイキングの冒険などを生き生きと描く。日本における古北欧文学研究の第一人者が、古典のエッセンスを広く知らしめた名著。
バレエの天才として将来を期待される女子高生の澄乃。澄乃の通うバレエ教室では数年前、生徒が失踪するという事件があった。才能を磨き、一心に舞う澄乃をみつめる人々の心には、憧れや羨望、苛立ちや葛藤、様々な感情が過ぎる。退廃的で耽美な生を描く青春小説。
離婚と大地震。倒産と転職。そんなできごとも、無数の愛おしい場面とつながっている。旅先の妻の表情。震災後の不安な日々。職場の千絵ちゃんの愛らしさー。次第に輪郭を失いながら、なお熱を発し続ける一つ一つの記憶の、かけがえのない輝き。覚えていることと忘れてしまったことをめぐる6篇の連作に、ある秋の休日の街と人々を鮮やかに切りとる「文化」を併録。
出張先のシドニーで突然再会した一枚の絵。一糸まとわぬ姿で階段を下りてくるのは、忽然と姿をくらました謎の女。企業弁護士として順調に歩んできた初老の中に、40年前の苦い記憶が甦る。あの日、もし一緒に逃げることができていたら…。孤絶した海辺の家に暮らす女を探し当てた男は、消したくとも消せなかった彼女の過去を知る。-自分の人生は本当に正しかったのか?男は死期が迫る女に静かに寄り添い、残された時間を抱きしめながら、果たせなかった二人の物語を紡ぎ始める。一枚の絵をめぐる、哀切なラブ・ストーリー。人生の終局の煌めきを描く、世界的ベストセラー作家の新境地。
朝鮮特需に国内が沸く日々、坂井左織は矢島風美子に出会った。陰湿ないじめに苦しむ自分を、疎開先で守ってくれたと話す彼女を、しかし左織はまるで思い出せない。その後、左織は大学教師の春日温彦に嫁ぐが、あとを追うように、風美子は温彦の弟潤司と結婚し、人気料理研究家として、一躍高度成長期の寵児となっていく…。平凡を望んだある主婦の半生に、壮大な戦後日本を映す感動の長篇。「本の雑誌」2014年第1位。
間口二間の小さな店を開いたお瑛は今年十六。両親をなくし、兄の長太郎と立ち上げた「みとや」は三十八文均一の雑貨店だ。ところが能天気な兄が仕入れてくるのは、いわくつきの品物ばかりで…。不気味な守り刀、恋歌が書かれた五枚の不思議な絵皿、なぜか手に入った亡き父の煙草入れ。山ほどの算盤が意外な結末に結びつく表題作をはじめ、色とりどりの人間模様が心に沁みる情味豊かな六編。
幼馴染の美人双子、優衣と麻衣。僕達は三人で一つだった。あの夜、どちらかが兄を殺すまではー。十五年後、特捜検事となった淳平は優衣と再会を果たすが、蠱惑的な政治家秘書へと羽化した彼女は幾多の疑惑に塗れていた。騙し、傷つけ合いながらも愛欲に溺れる二人が熱砂の国に囚われるとき、あまりにも悲しい真実が明らかになる。運命の雪崩に窒息する!激愛サバイバル・サスペンス。
小学校一年生の時、結衣子の二歳上の姉・万佑子が失踪した。スーパーに残された帽子、不審な白い車の目撃証言、そして変質者の噂。必死に捜す結衣子たちの前に、二年後、姉を名乗る見知らぬ少女が帰ってきた。喜ぶ家族の中で、しかし自分だけが、大学生になった今も微かな違和感を抱き続けている。-お姉ちゃん、あなたは本物なの?辿り着いた真実に足元から頽れる衝撃の姉妹ミステリー。
九死に一生を得た福子は津波から助けた少年と、乳飲み子を抱えた遠乃は舅や義兄と、息子とはぐれたシングルマザーの渚は一人、避難所へ向かった。だがそこは、“絆”を盾に段ボールの仕切りも使わせない監視社会。男尊女卑が蔓延り、美しい遠乃は好奇の目の中、授乳もままならなかった。やがて虐げられた女たちは静かに怒り、立ち上がる。憤りで読む手が止まらぬ衝撃の震災小説。
南條拓は一家で古河に移ってきた。緘黙症の長女、川崎病の長男の療養を考えてのことだった。技術に誇りを持っていた電気工の職を捨て、配電盤の製造工場で新たに勤めはじめた。慣れぬ仕事を一つずつ覚えていく。人間関係を一つずつ作っていく。懸命に根を張ろうとする拓だったが、妻との仲は冷え切っていた。圧倒的な文学的感動で私小説系文学の頂点と絶賛された最高傑作。伊藤整文学賞受賞。