出版社 : 新潮社
老齢に至って病いに捕まり、明日がわからぬその日暮らしとなった。雪折れた花に背を照らされた記憶。時鳥の声に亡き母の夜伽ぎが去来し、空襲の夜の邂逅がよみがえる。陽炎の立つ中で感じるのも、眠りの内のゆらめきの、余波のようなものか。往還する時間のあわいに浮かぶ生の輝き、ひびき渡る永劫。一生を照らす、生涯の今を描く古井文学の集大成。
2045年、北関東の町「院加」では、伝説の奇岩の地下深くに、核燃料最終処分場造成が噂されていた。鎌倉の家を出て放浪中の17歳の少年シンは、院加駅前で“戦後100年”の平和活動をする男女と知りあい、居候暮らしを始める。やがてシンは、彼らが、「積極的平和維持活動」という呼び方で戦争に送り出される兵士たちの逃亡を、助けようとしていることを知る。妻を亡くした不動産ブローカー、駆け落ちした男女、町に残って八百屋を切り盛りする妻、役場勤めの若い女とボクサーの兄、首相官邸の奥深くに住まい、現政府を操っているらしい謎の“総統”、そして首相官邸への住居侵入罪で服役中のシンの母…。やがて、中東派兵を拒む陸軍兵士200名が浜岡原発に篭城するー。“戦後百年”の視点から日本の現在と未来を射抜く壮大な長篇小説。
その年の五月から翌年の初めにかけて、私は狭い谷間の入り口近くの、山の上に住んでいた。夏には谷の奥の方でひっきりなしに雨が降っていたが、谷の外側はだいたい晴れていた…。それは孤独で静謐な日々であるはずだった。騎士団長が顕れるまでは。
大手町の将門塚に転がる生首、宇治川に浮かぶ首なし死体。貴船神社の釘づけ死体を発端に、京都と東京で続発する怪事件。京都府警が捜査を進める一方で、事件に関わりを持った萬願寺響子は、博覧強記の大学生・漣と将門怨霊伝説の真偽を追って、成田山新勝寺、神田明神へ。歴史の矛盾点から見えてきた、意外きわまりない構図とは?将門怨霊伝説の真実と、奇怪な事件の真相を解き明かす論理と驚きの長編歴史ミステリー!
大手電機企業・三田電機が発表した巨額の「不適切会計」。警視庁捜査二課の小堀秀明は、事件の背後に一人の金融コンサルタントの存在を掴む。男の名は、古賀遼。バブル直前に証券会社に入社し、激動の金融業界を生き延びた古賀が仕込んだ「不発弾」は、予想をはるかに超える規模でこの国を蝕んでいたー!リストラ、給与カット、超過労働…大企業のマネー・ゲームのツケで個人が犠牲になる、そんなことは絶対に許さない。若き警察キャリアが、いま立ち上がる!
利回り12%の老朽マンション!?ひとりでに録画がスタートする怪現象アパート?新幹線の座席が残置された部屋??間取り図には、あなたの知らない究極の謎が潜んでいる。大家さんも間取りウォッチャーも大興奮の本気で役立つリアル不動産ミステリ!
私と母の間には、何があったのかー。父の不在。愛犬の死。実家の片付け。そしてカセットテープの謎。母とその娘との繊細な関係を丁寧に描き出す気鋭の作家の注目作。第155回芥川賞候補作「短冊流し」を併録。
新潮新人賞受賞、芥川賞候補作!長崎の島の漁村の家の一族をめぐる四世代の来歴。語り合うことで持ち寄る記憶の断片を縫いあわせて結実するものがたりは、意識の流れを縦横に編み込んで人生の彩りを織りなす。「過去に、記憶に、声に、まっすぐ向き合っていきたい」新鋭の話題作。
智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくいー。世間と自身の生き方との大きな隔たりに苦しんだ漱石。彼の残した言葉には、類稀な経験に育まれた深い叡智が込められている。漱石研究の第一人者・石原千秋が25作品から413の言葉を厳選、章末解説でそれらを鮮やかに読み解く。困難な時代を懸命に生き抜く私達迷える子に寄り添う決定版名言集。
日本最大のメガバンクを喰らい尽くす、魔の「T計画」が発動!TEFG銀行は絶体絶命の危機に陥った。総務部長としてこの難局に挑む二瓶正平。そして、頭取の椅子を捨て相場師として生きていた桂光義が、義と理想のために起つ。史上最大の頭脳戦がここに始まった。経済の巨龍・中国の影。謀略vs.戦略。マネーを知り尽くす著者にしか描けなかった、痛快無比の金融エンターテインメント。
タカラジェンヌの母をもつ一瀬蘭花(いちのせらんか)は自身の美貌に無自覚で、恋もまだ知らなかった。だが、大学のオーケストラに指揮者として迎えられた茂実星近(しげみほしちか)が、彼女の人生を一変させる。茂実との恋愛に溺れる蘭花だったが、やがて彼の裏切りを知る。五年間の激しい恋の衝撃的な終焉。蘭花の友人・留利絵(るりえ)の目からその歳月を見つめたとき、また別の真実がーー。男女の、そして女友達の妄執を描き切る長編。
顔馴染みになった不動産屋の社長から渡された一枚の写真。そこに写る不格好なぬいぐるみを「カモメ」と断言する少年は、不登校の小学生だった。クラスの人気者で、成績優秀の彼は、ある日突然、学校に行かなくなった。その原因と「カモメ」はどう関係するのか…。相談を受けた花菱英一は、関係者に話を聞く中で、ある映画に行き当たる。家族の絆に思いを馳せる、心震わす物語。
文禄四年の盛夏。最上義光の娘・駒姫は、関白秀次の側室となるため聚楽第に入った。しかしその直後、秀次は謀反の罪で切腹。囚われの身となった駒姫と侍女・おこちゃ、残された秀次の妻子には想像を絶する運命が待ち受けていた。最愛の者を奪われた最上家の男たちは、石田三成、伊達政宗、徳川家康らの野望渦巻く都から姫を取り戻すことができるのかー。人間の真の強さを問う慟哭の歴史ドラマ。
拓海と啓、雪丸と国実は新潟の田舎町に住むお騒がせ4人組。小学校最後の夏、花火大会の夜に、僕たちは想像を絶するほどの後悔を知ったー。それから20年余り。惨めな遺体が発見され、あの悲劇の夜に封印された謎に、決着をつける時がきた。
房総半島の海辺にある小さな街で生きる場所を探し、立ちつくす男と女。元海女、異国の女、新築に独り暮らす主婦、孤独なジャズピアニスト。離婚後に癌を発症した女は自分で自分を取り戻す覚悟を決め、ヌードモデルのアルバイトを始めた郵便局の女は、夜の街を疾走する…。しがらみ、未練、思うようにならない人生。それでも人には、一瞬の輝きが訪れる。珠玉としか言いようのない13篇。
父の死因とは一体何だったのか?食い違う医師・看護師の証言。真相を求め、息子はさまよう(「病院の中」)。多額の募金を得て渡米、心臓移植を受けた怠け者の男と支援者たちが巻き起こす悲喜劇(「他生門」)。芸術を深く愛するクリニック院長と偏屈なアーティストが出会ったとき(「極楽変」)。芥川龍之介の名短篇に触発された、前代未聞の医療エンタテインメント。黒いユーモアに河童も嗤う全七篇。