出版社 : 新潮社
DVに憑かれた冷酷な夫から逃げ出したわたしが、職場で偶然知り合った既婚者の彼。その導きで始まった密会のたわむれは、わたしを絶望の淵から救った。甘い官能に溺れるふたつの魂は、秘密の部屋を抜け、やがて緑滴る中米の地を目指す。生命が躍動する新世界で、わたしが望んだのは、しかし、欲して止まない彼の死だった。悪魔的に美しく、愛と見まごうほどに純粋な感情の行方。
満州国国務院へ出向した敷島太郎。抗日ゲリラの殲滅を続ける次郎。三郎は関東軍が細菌戦を準備していることを知り、四郎は謎めく麗人に心を乱される。岸信介ら新官僚の到来と大移民計画に沸く満州。その南、中国では軍人たちが功を急ぎ、兵を突き進ませてゆく。昭和十二年、日中は全面対決へ。戦火は上海から南京へ燃え広がる。敷島兄弟が目撃したこの世の地獄とは。戦慄の第五巻。
駿河の国境の寒村から村人が全員消えた!疫病か、それとも大久保長安の秘匿した財宝を狙うものの仕業なのか。徳川家康の遺骸を日光から駿河の久能山に運ぶ天海一行の護衛の途次、大道寺菊千代は大きな謎に直面する。そして、天海の命と久能山東照社に奉納される百万両を狙って襲い掛かる、忍び集団・風魔党の面々。菊千代率いる大江戸無双七人衆、最後の血戦。書下ろし時代小説。
戦後45年目の夏。高校2年生のゆかりの伯母は空襲で焦げた電柱の前で見失った我が子を待ち続けていた。夏休みの課題のため、ゆかりは伯母の戦争体験を聞こうとするが父の勇太から猛反対を受ける。昭和20年3月10日、あの炎の夜に何があったのか。伯母の交通事故をきっかけに父はようやく口を開くー。東京大空襲の語り部が戦禍の記憶を今に伝える長篇小説。
天医会総合病院の看護師、相馬若葉から友人の殺害事件について相談をうけた天久鷹央と小鳥遊優。喜び勇んで謎の解明にあたる鷹央だったが、その過程で“事件から手を引く”と宣言する。なぜ、彼女ではこの謎を解けないのか。そして、死の現場から“瞬間移動”した遺体に隠された真実とはー。驚きのどんでん返しと胸を打つクライマックスが待つ、メディカル・ミステリー第4弾。
霧深い夕暮れ、煖炉の前に座って回想にふけるチップス先生の胸に、ブルックフィールド校での六十余年の楽しい思い出が去来するー。腕白だが礼儀正しい学生たちとの愉快な毎日、美しく聡明だった亡き妻、大戦当時の緊迫した明け暮れ…。厳格な反面、ユーモアに満ちた英国人気質の愛すべき老教師と、イギリスの代表的なパブリック・スクールの生活を描いて絶賛された不朽の名作。
仙女の呪いで百年の眠りについた美しい王女ー。王子様のお迎えで目覚めたのちの恐怖を描いた表題作のほか、赤頭巾ちゃん、長靴をはいた猫、親指小僧からシンデレラまで。あの懐かしい童話が新鮮な翻訳と美しく読みやすい活字、繊細な挿絵とともに甦りました。不思議でロマンチックで楽しい。そしてちょっとだけグロテスクで残酷…。そんなペローの童話の世界へ、ようこそ!
八百八町の果ての果てにある「ドブ板長屋」に住む凛は、美しく気立てもいい、売れっ子の芸妓。ただし亡き父は、大盗賊だった。そんな凛のところにある日転がり込んできたのは、どうしようもない男、十三郎。だが、十三郎には秘密があった。そして使命もーそんなつもりなど毛頭なかった。三味線に仕込んだ刀と斬馬刀を、抜く日が来るとはー血で血を洗う戦いのあと、一体何が残るというのか?凶暴になる理由。それは、恋心ー義理と愛情の時代長編。
失踪した妹を捜す男が迷い込んだのは、磁器人形作家の奇妙な王国。雪に閉ざされた山荘に招かれた4人のコレクターの前で、無残な遺体が発見された。一体誰が何のために?次の標的は?そして、鍵を握るトランプコードの秘密を知ってしまった者の運命とは…。復讐と耽美と追憶のゴシック・ミステリ。
就活に失敗し、個人経営のメンタルクリニックにオープン直前で滑り込んだ心理療法士・森野美夢。しかし、変人だと思っていた院長は伝説の名ドクターで、ベッドタウンのクリニックは心の病のデパートだった!仕事への情熱と、よく当たる「夢占い」だけが取柄の美夢は、複雑極まりない現代人の心の謎を解き明かすことができるのかー。
たっぷりとたてがみをたたえ、じっとディープインパクトに寄り添う帯同馬のように。深い森の中、小さな歯で大木と格闘するビーバーのように。絶滅させられた今も、村のシンボルである兎のように。滑らかな背中を、いつまでも撫でさせてくれるブロンズ製の犬のように。-動物も、そして人も、自分の役割を全うし生きている。気がつけば傍に在る彼らの温もりに満ちた、8つの物語。
「鬼」と呼ばれた火付盗賊改方長官の長谷川平蔵。その父親の初代平蔵が京都西町奉行に赴任した。その前に立ちはだかって京の町を騒がす悪党たち。贋坊主が暗躍する「六勝阿闍梨」、錦市場を巡る陰謀に絵師若冲が巻き込まれる書き下ろし「錦の若冲」、人情の機微を描く「這っても黒豆」を収録。京の風物詩も鮮やかに、新シリーズ堂々の開幕。
背任の疑いをかけられた大手銀行員・藤原道長は、妻と娘を置いて失踪した。人目を避けた所持金ゼロの逃亡は、ネットカフェから段ボールハウス、路上を巡り、道長は空腹と孤独を抱え、格差の底へと堕ちてゆく。一方、横領の真の首謀者たる銀行幹部たちは、事件の露見を怖れ、冷酷な刺客を放つー。逆転の時は訪れるのか。東京の裏地図を舞台に巨額資金を巡る攻防戦の幕が開く!
上海留学中に応召し、日本へ復員する列車の中で、矢田部は偶然出会った小椋に窮地を救われる。帰郷後、その恩人を探す途次、男が木地師であることを知った矢田部は、信州や東北の深山に分け入る。彼らは俗世間から離れ、独自の文化を築いていた。山間を旅するうち、矢田部は二人の女性に心を惹かれ、戦争で失われた生の実感を取り戻していく…。大絶賛を浴びた著者初の現代長編。
あるとき、母が死んだ。そして父はあなたに再婚を申し出た。あなたはコンタクトレンズで目に傷をつくり訪れた眼科で父と出会ったのだ。わたしはあなたの目をこじあけてー三歳児の「わたし」が、父、喪った母、父の再婚相手をとりまく不穏な関係を語る。母はなぜ死に、継母はどういった運命を辿るのか…。独自の視点へのアプローチで、読み手を戦慄させるホラー。芥川賞受賞作。
秘伝の継承を目前にして親方は逝き、弟弟子には先を越され、鬱屈した日々を送る看板職人・武市のもとへ、大店から依頼が舞い込んだ。しくじりは許されない重圧の中、天啓のように閃いた看板思案に職人の血が滾る。実現を前に立ち塞がるいくつもの壁。それでも江戸っ子の度肝を抜くこの仕事、やるのは俺だ。知恵と情熱と腕一本で挑む、起死回生の大一番!痛快無比の人情時代長編。
二十一世紀終盤。かの震災の影響で原発が廃止され、ネオン煌めく明るい夜を知らないこの国を、新たな巨大地震が襲う。第二の地震が来るという政府の警告に抗い、大学の校舎で寝泊まりを続ける学生たちは、カリスマ的“リーダー”に希望を求めるが…極限状態において我々は何を信じ、何を生きるよすがとするのか。大震災と学生運動をモチーフに人間の絆を描いた、異色の青春小説。
僅かに虚名が上がり、アブク銭は得たものの内実が伴わぬ北町貫多は虚無の中にいた。折から、藤澤清造の自筆原稿が古書の大市で出品された。百四十一枚の入札額を思案するうち、ある実感が天啓の如く湧き起こる(「形影相弔」)。二十数年振りに届いた母親からの手紙に、貫多の想念は激しく乱されるが…(「感傷凌轢」)。孤独な魂の咆哮を映し出す、私小説の傑作六編。