出版社 : 新潮社
学校では「アホジュン」と蔑まれ、友達はひとりもいない。でも、孤独じゃなかった。「音」があった。自転車があった。歌われることを待っている「歌」もあった。14歳。夏の少し前。同級生のトクが奏でるギターを聴いて、ジュンは、やっと気がつく。自分が楽器であることに。「僕、楽器なんだ!」小説の愉楽、ここにあり!!歓喜。興奮。ささやかだけれど奇跡的な物語。
少年の胸に芽生えた同級生男子への恋心。どうしようもない感情に翻弄され傷つく彼にやがて家族との別れ、そして決断の時が訪れる。本当の自分を生きるために。繊細な心理描写で究極の性の苦悩を描き切った青春文学の新たなる傑作。
18年前に死んだはずの画家から届いた絵葉書が封印された町の過去を解き明かすーイクメンでカリスマ学芸員のパパと保育園児のかえでちゃん。寂れゆく町に引っ越してきた、オアシスのような父娘コンビが、ピカソ、マティス、ゴーギャン、シャガールらの名画解釈をもとに、夭折の天才画家が絵に込めた想いを読み解き、その最期の真相に迫る!
老人が遺した一冊のノート。たった一行だけ書かれた、「波の音が消えるまで」という言葉。1997年6月30日。香港返還の前日に偶然立ち寄ったマカオで、28歳の伊津航平は博打の熱に浮かされる。まるで「運命」に抗うかのように、偶然が支配するバカラに必然を見出そうともがく航平。謎の老人との出会いが、彼をさらなる深みへと誘っていき…。緑の海のようなバカラ台には、人生の極北があった。生きることの最も純粋な形を求めて、その海に男は溺れる。
バカラは地獄です。あなたは破滅します。でも、私には、それが羨ましい。美しい中国人娼婦が抱えた哀しい秘密、老人が背負い続けてきた罪と罰、航平の父の死の意外な真相。明かされていく過去を振り切るように、航平は己自身を賭けて最後の大勝負に挑む。そしてー。生と死の極限の歩みの果てに辿り着いた場所で、男はその意味を知る。遺された言葉の、ほんとうの意味を。
あたしたちは繋がったまま、橋から飛びおりた。彼と触れあうことは、きっともう、二度とないー。考えもしなかった相手に心を奪われ、あの腕に、あたしはからめとられた。水のきらめき。くもの巣。お旋餓鬼の太鼓。夜のピアノ。台風の日のかくれんぼ。誰もかれもがしてきたこと。何万年もくりかえしてきたこと。読者の想像を裏切る衝撃恋愛小説!
東京・麹町の古い屋敷に暮らす女ばかりの五人。昭和初めの生まれでお嬢さん気質の抜けない家付き娘・富子さん、その娘の美智子さん、ロリータファッションの孫娘・真由ちゃん、富子さんと長年ともに暮らしてきた大正生まれのきくさん、高齢出産で得た娘の紀美ちゃんもいてー世代様々、微妙な関係。戦後から、バブルの時代、そして現在ー世代それぞれの時間を生き抜く姿を、あたたかく見つめる長編小説。
「平安建都千二百年」が謳われる京都で、地図から消された小さな町。かつてたしかにそこにいた、履物屋の夫婦と少年の自分ー。幾重もの時間が降り積もる京都という土地の記憶。四つの「町」をめぐりながら人の生の根源に触れる連作小説。
空想ですーー。弁護人・神原和彦は高らかに宣言する。大出俊次が柏木卓也を殺害した根拠は何もない、と。城東第三中学校は“問題児”というレッテルから空想を作り出し、彼をスケープゴートにしたのだ、と。対する検事・藤野涼子は事件の目撃者にして告発状の差出人、三宅樹理を証人出廷させる。あの日、クリスマスイヴの夜、屋上で何があったのか。白熱の裁判は、事件の核心に触れる。
ひとつの嘘があった。柏木卓也の死の真相を知る者が、どうしてもつかなければならなかった嘘。最後の証人、その偽証が明らかになるとき、裁判の風景は根底から覆されるーー。藤野涼子が辿りついた真実。三宅樹理の叫び。法廷が告げる真犯人。作家生活25年の集大成にして、現代ミステリーの最高峰、堂々の完結。20年後の“偽証”事件を描く、書き下ろし中編「負の方程式」を収録。
「愛犬の行方を探してほしい」「息子が暴れて…」「大切な宝石が消えてしまった」。益井探偵事務所にはさまざまな依頼が舞い込む。彼の相棒は芽原アド、23世紀からやってきた元タイムパトロール隊員だ。携帯式時間移動装置を片手に、真相を探る二人のもとに、未来から武村ロミが加わってー。未来犯罪との対決の行方は?本格ミステリ大賞受賞作家が贈る、時空間ミステリ誕生。
都立駒川台高校演劇部は、個性溢れる奇人変人揃い。幼馴染で親友のナナコに誘われ、美咲は入部を決める。誘った本人が入院して休部になる中、舞台監督として、変わり者のメンバーと演劇部するべく美咲の奮闘が始まる。失踪する先輩、消えた台本の行方、顧問の恋愛問題まで!?公演成功の鍵はいったいどこに?演劇部の日常は謎と刺激でいっぱい。青春ミステリの新シリーズ堂々開幕!
美術館から時価20億円の絵画が盗まれた。学芸員に容疑が掛かるなか、その妹と親しい大学生・城戸友彦は力になりたいと、神楽坂の路地裏に佇む探偵事務所を訪れた。慇懃無礼な青年所長が提示した依頼料はなんと3000万円。払えるはずもない額の代償に、その日から仲間になる友彦。狼の如く悪党を追いつめる彼らと共に闇の組織に潜入するのだがー男4人が挑む超弩級ミッション開幕!
将軍吉宗の治世に、突如起こったバイオテロ!?田沼家子息・龍助を助けた剣士桜井右京。それをきっかけに龍助の姉・美也と恋に落ち、将軍家の騒動に巻き込まれ、テロの主犯探しから、怨霊退治までするハメに…。母・芽野に尻を叩かれながら、右京は怒涛の大活躍…が果たしてできるのか。新感覚の痛快ブッ飛びEDOアクションがここにある!
東京でエリート公務員の仲間入りと意気込む八橋鳳一が配属されたのは、特殊郵便だけを配達する部署だった。班長・桜田美鳥の下、どんな物でもあらゆる手段で届けるのが仕事。ある時はトレーラーで一軒家を運び、高層マンションへ速達を配達するのは特殊はしご車で、終電後には深紅の新幹線を走らせる。そして、ダービー馬を出走時間に間に合わせるには!?-特殊任務遂行、お仕事小説。
暗い冬の日、ひとりの少女が父親と霧の立ちこめるロンドンの寄宿制女学校にたどり着いた。少女セーラは最愛の父親と離れることを悲しむが、校長のミス・ミンチンは裕福な子女の入学を手放しで喜ぶ。ある日、父親が借金を残して亡くなったという知らせが入り、孤児となったセーラは、召使いとしてこき使われるようになるが……。苦境に負けない少女を描く永遠の名作、待望の新訳!
武士の身分を捨て、芸の道に生きることを決意した中藤冲也。手すさびの端唄の好評にもあきたらず、新作の浄瑠璃を書き上げて喝采を浴びるが、その成功は後ろ盾の金の力だと冷笑される。ならば、真に人々の心を打つ芸を究めてみせると、江戸での恵まれた暮しを捨て、身重の妻を置いて、浄瑠璃発祥の地、上方をめざすが…。己れの才を恃み、人生を芸に賭けた男の孤独な魂を描く傑作!
俺は、必ず、物にしてみせるーー。「脚注」で、さらに深まる物語の味わい。侍の身分を捨て、芸に生きる決心をした中藤冲也。端唄の評判にも浮かれず、新作浄瑠璃を書き上げるが、その成功は金の力だとの陰口。ならば、真に人々の心を打つ芸を究めたいと、江戸での恵まれた暮しを捨て、上方をめざすが、それは挫折と病いに苛まれる苦難の道だった……。己の才に人生を賭けた男の孤独な魂を描く傑作。