出版社 : 河出書房新社
長い年月の底に沈澱した複雑怪奇な人間模様、エゴと欲望に憑かれた男女の群れ…。病院再建に取り組む医師を待ち受ける、怖るべき陥穽と陰謀。日本最大規模の福祉法人の秘められた荒廃をミステリアスに描き、福祉の未来を問う衝撃の書き下ろしノンフィクション小説。
後に明治のフーシェとたとえられる密偵使いの名手川路大警視とその影に控える内務卿大久保利通。対するは影の御隠居こと、駒井相模守を初めとする元南町奉行の面々。黒田清隆、山県有朋、高橋お伝、皇女和の宮等、多彩なる人物が織りなす事件の裏で彼らの狐と狸の化かし合いにも似た知恵比べは続く。富国強兵を急ぐ明治の側面を描く連作物語の完結。
もしかしたらぼくは心のどこかでこういう悲劇的な出来事を望んでいたのかもしれないー。絶大な〈力〉に対する少年の畏怖と屈辱を描いた『16の夏』のほか、それぞれの性のかたちを斬新な感性で切りとった3編を収める。
「きっと、兄はあの帽子を持って来てくれる。」-千波矢が初めて兄の幻影と出逢ったのは、一羽の鳶の比翼が岬の空家の庭から帽子を舞い上げた夏の一日だった。空家に住み始めた少年や仔犬との交流を描く長野ワールド書き下ろし作品。
少年時代から自分を天才と信じた島田清次郎が、弱冠20歳で世に問うた長編小説『地上』は記録破りの売行きを示し、彼は天才作家ともてはやされ、いちやく文壇の流行児となった。しかし、身を処する道を誤まり、またたく間に人気を失い、没落した。本書は、島田清次郎の狂気にも似た足跡を克明にたどり、没落のよってきたるところを究めようとした、直木賞受賞の傑作伝記小説。
「この赤子は八幡神の生まれ変わりじゃ。武門二流、源平両家の血が流れている。すなわち、武門の頭領ということじゃて」はるばる鎌倉を訪ねてきた京都の大学者小野大雪は、八幡太郎の生涯を見事に予見していた。前九年の役の若きヒーローとして、歴史の表舞台におどり出た八幡太郎に対する、王朝貴族体制のさまざまな迫害と圧迫。太郎を支える新興武士勢力と陸奥の傀儡たち。そして太郎をめぐる美女の群れ…。新しい時代の魁として、歴史の過渡期を悠然と闊歩していった神話的巨人の雄渾で痛快無比な生涯が、鬼才谷恒生により初めて蘇る。
パリ近郊のトム・リプリーのもとにロンドンの画廊から連絡が入った。天才画家ダーワットの個展を前にして、贋物を掴まされたと蒐集家が騒いでいるのだという。それも当然のこと、トムと画廊の仲間でダーワットが数年前に死んだことを隠し、贋作を作り続けていたのだ。トムは画家に変装して記者会見で健在ぶりを示すが、そこに当の蒐集家が現われ…。名作『太陽がいっぱい』に続くリプリー・シリーズ第二弾。
息子を呼びもどしてほしいという、富豪グリーンリーフの頼みを引き受け、トム・リプリーはイタリアへと旅立った。息子のディッキーに羨望と友情という二つの交錯する感情を抱きながら、トムはまばゆい地中海の陽の光の中で完全犯罪を計画するが…。精致で冷徹な心理描写により、映画『太陽がいっぱい』の感動が蘇るハイスミスの出世作。